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経済の仕組み改めて勉強 GWにすらすら読める7冊

2014/5/3付
ニュースソース
日本経済新聞 電子版
 「アベノミクスが話題になるので経済の仕組みを改めて勉強したいけれど、時間があまりない」。ある出版社の編集者の話では、こんな人が最近多いという。経済の仕組みを理解するのに役立つのが経済学。ゴールデンウイーク期間中、経済学の基本から応用まで素早くかつ幅広く学べる著書を紹介する。(最後にお薦めの7冊の一覧表)

■そもそも経済学の目的は何なのか

まず、お薦めするのは『社会人のためのやりなおし経済学』。2011年に出版された『大学で履修する入門経済学が1日でつかめる本』(マトマ出版)を文庫にした本だ。

(左から)高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学(河出書房新社)、社会人のためのやりなおし経済学(日経出版社)、この世で一番おもしろい統計学(ダイヤモンド社)

(左から)高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学(河出書房新社)、社会人のためのやりなおし経済学(日経出版社)、この世で一番おもしろい統計学(ダイヤモンド社)

著者の木暮太一さんは、経済学者やエコノミストではないが、出版界では「経済入門書のカリスマ」としてよく知られた存在。小学生のとき、友人から算数の問題の解き方などを質問されると、「頼りにされる存在になりたい」との思いから、必死になって説明の仕方を考えたという。

『今までで一番やさしい経済の教科書』『落ちこぼれでもわかるミクロ経済学の本』などの著書は全国の大学で教科書として採用されてきた。

今回の本は、大学の経済学部で教えられているミクロ経済学とマクロ経済学の入門書だが、数ある入門書とは趣が異なる。

「そもそも経済学の目的は何なのか」「一体、何の話をしようとしているのか」から説き起こし、経済学のキーワードは互いにどう関係しているのか、キーワードを頭に入れると何が分かるのかを、じっくりと説明している。

通読すると、ミクロ経済学とマクロ経済学、短期と長期、価格調整と数量調整、完全競争市場と独占市場など経済学の基礎をなす考え方を理解し、標準的な経済理論の全体像をつかめるように工夫してある。

■高校の教科書用語でやさしく解説

高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学』の著者は高校教諭。高校の「政治・経済」や「現代社会」の教科書に出てくる経済用語を使い、大学で学ぶ「経済学」とのつなぎ役と位置付けた。高校生だけでなく、大学生や社会人が読んでも、学べる点が多そうだ。

国内総生産(GDP)=国内総所得(GDI)=国内総支出(GDE)という「三面等価理論」の説明から入るところは、通常の入門書と同じだが、この関係式が持つ意味を様々な角度から徹底的に掘り下げていく点に特徴がある。

さらに、貿易収支と経常収支の仕組みを、かみ砕いて説明し、19世紀の経済学者、リカードの「比較優位論」を参考にしながら、日本の現状に触れた。「貿易赤字に転落」という表現は誤解を招きやすく、自由貿易は消費者の利益につながるという議論を繰り返し展開している。

第5章の「国債について」では長期金利の決まり方を解説し、「国債暴落」といった危機をあおる言説に疑義を示す。第6章の「財政政策と金融政策」では国民所得と利子率の関係を示した「IS-LM分析」と呼ばれる伝統的なケインズ経済学の理論を紹介したうえで、こうした理論を実行しているアベノミクスは一定の効果をもたらしていると評価している。

本書の題名はマクロ・ミクロ経済学だが、マクロ経済学の入門書といってよいだろう。現在の日本経済が抱えている問題をどうみたらよいのか、物差しとなる考え方をつかめる。

■マンガで統計学の基礎を紹介、辞書代わりにも

書店に足を運ぶと、ビッグデータや統計学をテーマにした本が所狭しと並ぶ。統計学はかなり専門的な学問で、ビッグデータとは似て非なる面もある。統計学について短時間でつかみたい読者は『この世で一番おもしろい統計学』を読んでみたらどうだろうか。

『この世で一番おもしろいミクロ経済学』『この世で一番おもしろいマクロ経済学』に続く本で、マンガで統計学の基礎を紹介した。平易に書かれているが、「無作為標本抽出は、あらゆる統計調査のカギなんだから!」「長い目で見ると、無作為標本の平均を山ほど積み上げると正規分布になる!」など随所に核心を突く説明が盛り込んである。

巻末の「おまけ:数学の洞窟へ」は、統計学のキーワード解説集。辞書代わりに使うこともできそうだ。

■お笑いタレントが経済学者と掛け合い

(左から)オイコノミア ぼくらの希望の経済学(朝日新聞出版)、賃上げはなぜ必要か(筑摩書房)

(左から)オイコノミア ぼくらの希望の経済学(朝日新聞出版)、賃上げはなぜ必要か(筑摩書房)

次は応用編。『オイコノミア』はNHK・Eテレで放送中の番組の内容を収録した本だ。お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹さんが、身近な題材をテーマに経済学者との対話を通じて経済学を学んでいく。

先生役を務めるのは大竹文雄・大阪大学教授、川口大司・一橋大学教授ら4人。とりあげているのは、就職活動、貯金、結婚など多くの人が関心を持ちやすいテーマ。又吉さんと経済学者の掛け合いも楽しく、すらすらと読めるはずだ。

ただ、本書に登場する経済理論は初心者向けではない。例えば最初のパートでは、大竹教授が「幸福と経済学」について説明しているが、経済学の予備知識がないと、なぜ、幸福を題材にしているのかを理解するのは難しいかもしれない。

各パートの「オイコノミアポイント」というコーナーでは、経済学のキーワードを解説する。順応仮説、スクリーニング、ルイス=シュメリングの逆説、ゲール=シャプレー・メカニズムなど、ミクロ経済学の分野を中心に最先端の経済学用語が並ぶ。

経済学の最前線では、ここまで幅広いテーマを取り扱うのかと驚く読者もいるだろう。ここで紹介されている理論や仮説は、経済学界で広く受け入れられているものばかりではないが、「こんな見方や考え方もある」と知っておく意味はありそうだ。

■アベノミクスは是か非か 議論の土台を学ぶ

難易度がやや上がるが、『賃上げはなぜ必要か』もお薦めの一冊だ。著者の脇田成さんは首都大学東京教授でマクロ経済学や労働経済学が専門。アベノミクスの第1の矢である「異次元の金融緩和」については批判的だ。脇田教授の説明を聞いてみよう。

「通常は、家計の貯蓄を企業が社債や株式といった形で直接、借りるか、銀行経由で間接的に借りるかして、投資に回し、経済が拡大します。ところが、日本では1990年代の金融危機以降、そうなっていません。企業が過剰に貯蓄をしているのです。日銀が金利を下げて資金を借りやすくしても焼け石に水。マクロ経済が停滞するから政府が支出を増やさざるを得ず、資金がたまった銀行は国債を購入します」

では、どうすればよいのか。脇田教授が提案する処方箋は、ずばり賃上げだ。

「マクロ経済政策の基本は貯蓄主体に支出を促すことです。政府が企業に異例の賃上げを要請する理由も、資金を放出してくれということ。個別企業にとってみれば、一社だけが賃上げしても得るものは少ないですが、ここに『合成の誤謬(ごびゅう)』があります。マクロ経済全体でみれば、家計の所得が増えれば消費支出が増大し、内需が盛り上がります。個別の細かな行動の総和が大きなマクロ的なうねりをもたらすのです」

本書は日本経済のマクロの統計データや雇用・社会保障制度などの現状を踏まえたうえで、最先端の経済理論も参考にしながら議論を進める。金融政策の効果についての著者の主張に対しては賛否両論があるだろうが、議論の土台を提供してくれる著書だといえる。

■拾い読みするだけでも楽しい

(左から)経済学再入門(講談社)、経済学大図鑑(三省堂)

(左から)経済学再入門(講談社)、経済学大図鑑(三省堂)

続いて歴史・思想編。気軽な「読書」にはなじまないかもしれないが、挙げておきたいのが『経済学大図鑑』だ。

「図鑑」の名の通り、写真やグラフをふんだんに使った。世界で「交易」が始まった紀元前の時代から、現代のグローバルな経済危機までの経済の歴史を、経済思想家たちはどうとらえ、どのように理論を作ってきたのかを、わかりやすく解説している。

例えば、「インフレと失業」の項目では、鍵となる思想家としてビル・フィリップスを挙げ、1861年から1957年までの英国では、賃金上昇率(インフレ率)が高ければ失業率が低く、その逆も成り立つことを示したと説明する。

本書の説明を要約すると次の通りになる。

フィリップスの仮説は、一時、世界のマクロ経済政策を主導したが、1970年代に入ると、失業率とインフレ率がともに上昇するスタグフレーションが起こり、信ぴょう性が薄れた。フィリップス曲線を批判する仮説を提唱したのが、ミルトン・フリードマンである。

こんな具合に、フィリップス曲線をめぐる論争の全体像が短時間でつかめる。

一度に全部を読み通すのは難しいが、関心のある項目を拾い読みするだけでも、楽しめそうだ。

■多様な経済思想を学ぶ

最後の一冊は、『経済学再入門』。

著者の根井雅弘さんは京都大学教授で専門は経済学史だ。経済学・経済思想は多様であった方がよいというのが持論で、世界の経済思想家たちの著書にあたりながら思想の全体像を掘り起こし、一面的な理解に陥らないように警鐘を鳴らし続けている。

本書は『経済学とは何か』(2008年発刊、中央公論新社)を文庫にした本。アダム・スミス、フランク・ナイト、リカードらの思想の一部が曲解され、都合良く現代経済学に取り込まれている実態を切れ味鋭く浮き彫りにし、市場システムを信奉する新古典派経済学が経済学界を席巻している現状を憂慮している。そして、ケインズ革命の意義について改めて考察する。

本書を通読すると、冒頭で紹介した大学レベルの標準的な経済理論が、現在の経済学界ではほとんど顧みられていないこともわかる。今なお、日本のマクロ経済政策の理論上の柱をなす「IS-LM分析」は「新古典派総合」と呼ばれる考え方に基づいているが、本書では次のように説明する。

「第2次世界大戦後に新古典派とケインズを総合したと称する『新古典派総合』によってある程度まで経済学界の覇権を握ることになるのだが、新古典派総合は、新古典派とケインズを『接ぎ木』しただけのもので、両者が理論的にどのように関連づけられるかが明確ではなかった」

根井教授は文庫版へのまえがきで「経済学は決してやさしい学問ではない。第2次世界大戦後の経済学界に的を絞っても、さまざまな立場の学派が交差したり対立しあったりして現在に至っているのがわかる。現在は『主流』でも、将来もそうであり続ける保証はない。それゆえに、多様な経済思想を学ぶ意義がますます大きくなる」と書いている。本書を含めた今回の推薦本はその手掛かりになると思う。

(編集委員 前田裕之)

社会人のためのやりなおし経済学 (日経ビジネス人文庫)

著者:木暮 太一
出版:日本経済新聞出版社
価格:756円(税込み)

高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学

著者:菅原 晃
出版:河出書房新社
価格:1,620円(税込み)

この世で一番おもしろい統計学――誰も「データ」でダマされなくなるかもしれない16講+α

著者:アラン・ダブニー, グレディ・クライン
出版:ダイヤモンド社
価格:1,620円(税込み)

オイコノミア ぼくらの希望の経済学

著者:NHK Eテレ「オイコノミア」制作班, 又吉直樹(ピース)
出版:朝日新聞出版
価格:1,620円(税込み)

賃上げはなぜ必要か: 日本経済の誤謬 (筑摩選書)

著者:脇田 成
出版:筑摩書房
価格:1,944円(税込み)

経済学大図鑑

著者:ナイアル・キシテイニー
出版:三省堂
価格:4,320円(税込み)

経済学再入門 (講談社学術文庫)

著者:根井 雅弘
出版:講談社
価格:799円(税込み)


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