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五輪誘致なるか 国立競技場「建て替え案」公募の目算
開閉式の屋根を装備、2019年3月の完成目指す

2012/7/27 7:00
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

新国立競技場の国際コンペについて説明する審査委員長の安藤忠雄氏(写真:日経アーキテクチュア)

新国立競技場の国際コンペについて説明する審査委員長の安藤忠雄氏(写真:日経アーキテクチュア)

開閉式の屋根を備え、大規模な国際大会のほか、コンサートなども開ける8万人収容の"新国立競技場"を建設する――。

東京都が招致を目指す2020年夏季五輪でメーンスタジアムとして位置付ける国立競技場の建て替え計画について、基本構想案を募集する国際コンペの要項が明らかになった。審査委員長は建築家の安藤忠雄氏が務める。競技場を運営する独立行政法人の日本スポーツ振興センターが2012年7月20日に募集要項を公表し、同日から応募のための事前登録受付を開始したのだ。作品(基本構想案)の受付期間は9月10日~25日である。

■周辺施設も取り壊し、敷地面積を拡大

新競技場は、東京都新宿区霞ヶ丘町にある現在の国立競技場を解体した跡地につくる。観客席の収容人数を今の約5万4000人から8万人規模へと大幅に増やす。延べ面積は駐車場などを含めて約29万m2(平方メートル)を予定する。

東側から見た現在の国立競技場(写真:日本スポーツ振興センター)

東側から見た現在の国立競技場(写真:日本スポーツ振興センター)

コンペの告知発表会は国立競技場の観客席スタンド下にある屋内練習場で開かれた(写真:日経アーキテクチュア)

コンペの告知発表会は国立競技場の観客席スタンド下にある屋内練習場で開かれた(写真:日経アーキテクチュア)

観客席が広がるため、敷地面積も拡張。現在の約7万2000m2から約11万3000m2に増やす。競技場の南側に隣接する日本青年館を取り壊すほか、南側と西側に広がる都立明治公園も新競技場の敷地に充てる。総工事費は解体費を除いて1300億円程度を見込む。

新競技場にはラグビーやサッカー、陸上競技の大規模な国際大会が実施できる最高水準の機能を求める。例えば、現在8レーンある陸上用トラックを国際規格の9レーンに増やすことなどを想定する。

さらに、コンサートや展覧会、ファッションショーなどのイベントが実施できる機能も持たせる。開閉式の屋根を設けて、大会やイベントが天候に影響されず開催できるようにする。芝生の育成に必要な太陽光や風、水、温度を調整できる環境も求める。

■歩行者動線の提案も

観客席は陸上競技を催す際に8万人を収容。ラグビーやサッカーではピッチに近い場所に観客席をつくり、選手と観客に一体感や臨場感が生まれるようにする。コンサート会場にも使える多機能型スタジアムとして、優れた音響環境も求める。

西側から見た現在の国立競技場(写真:日本スポーツ振興センター)

西側から見た現在の国立競技場(写真:日本スポーツ振興センター)

新競技場の機能として、世界水準の「ホスピタリティー」も要求する。ホスピタリティーとは、直訳すると「親切にもてなすこと」。バリアフリーはもちろん、バルコニー席が付いた個室の観戦ボックスや要人向けのラウンジ、レストランなどを整備する。大会やイベントを開催していないときでも来場者が楽しめるように、商業や文化施設を備えた競技場を目指す。

コンペでは新競技場の施設単体だけでなく、JR千駄ヶ谷駅や東京メトロ外苑前駅といった周辺駅から歩行者が快適にアクセスする動線の確保や、周辺に再配置する公園や公開空地についての提案も求めるのが特徴だ。

来場者などの主な動線(資料:日本スポーツ振興センター)

来場者などの主な動線(資料:日本スポーツ振興センター)

黒線で囲った部分が計画対象範囲。新競技場の敷地(赤線)と関連敷地(オレンジ線)で構成される。関連敷地内にある東京体育館や屋内プールは撤去できない(資料:日本スポーツ振興センター)

黒線で囲った部分が計画対象範囲。新競技場の敷地(赤線)と関連敷地(オレンジ線)で構成される。関連敷地内にある東京体育館や屋内プールは撤去できない(資料:日本スポーツ振興センター)


コンペの募集要項によると、新競技場の敷地の西側にある東京体育館の周辺や南側にある都営霞ヶ丘アパートなどを対象に、合計約6万5000m2の「関連敷地」を設定。関連敷地内に新たな建築物はつくれないものの、人工地盤などの工作物を設けることは認める。

公園は現在と同規模以上の面積を確保する。公開空地は新競技場の敷地面積に対して40%以上を確保するよう求める。人工地盤の上に公園を設けて、下に公開空地を配置するなどの立体的な整備も可能だとした。

公園と公開空地を立体的に整備する例(資料:日本スポーツ振興センター)

公園と公開空地を立体的に整備する例(資料:日本スポーツ振興センター)

新競技場の高さは基準地盤面から最大で70m。敷地境界線から壁面までの後退距離は8m以上とする。

新競技場に求める性能水準や基本的な計画の検討は、都市計画設計研究所(東京都新宿区)が日本スポーツ振興センターから受託して担当している。

■若手には厳しい応募資格

コンペの応募資格は、代表者または構成員が一級建築士、もしくは海外において新競技場と同じ規模の設計監理業務を実施できる資格があることが最低限の条件となる。

主な審査員の面々。左から都倉俊一、安藤忠雄、河野一郎、小倉純二の各氏(写真:日経アーキテクチュア)

主な審査員の面々。左から都倉俊一、安藤忠雄、河野一郎、小倉純二の各氏(写真:日経アーキテクチュア)

これに加えて、高松宮殿下記念世界文化賞(建築部門)やプリツカー賞のほか、国際建築家連合(UIA)やアメリカ建築家協会(AIA)、王立英国建築家協会(RIBA)のゴールドメダルといった建築分野の国際的な受賞経験があること、または収容人数が1万5000人以上のスタジアムの基本設計や実施設計の実績がなければならない。

国家的なプロジェクトとはいえ、コンペに応募できるのは著名な建築家か大手の設計事務所などに限られそうだ。

応募者は9月10日までに参加資格を登録し、同月25日までにパースや平断面図などを提出する。審査委員会は10月16日に一次審査を実施して、同月18日に最優秀賞の候補作を発表。11月7日に二次審査した後、同月中旬に審査結果を発表する。

審査員は安藤氏のほか、建築や都市計画部門の有識者として鈴木博之・青山学院大学教授と岸井隆幸・日本大学教授、内藤廣・東京大学名誉教授、安岡正人・東京大学名誉教授が務める。海外から建築家のリチャード・ロジャースとノーマン・フォスターの両氏も加わる。

さらに、スポーツ部門の有識者として小倉純二・日本サッカー協会名誉会長、文化部門として作曲家の都倉俊一氏、主催者として河野一郎・日本スポーツ振興センター理事長が参加する。応募案の実現可能性などを確認する専門アドバイザーとして、和田章・東京工業大学名誉教授が就く。

最優秀賞の賞金は2000万円。最優秀者は、基本設計や実施設計、施工の各段階でデザイン監修に当たる。

基本設計や実施設計を手掛ける設計者は公募型プロポーザルで、工事の施工者は入札でそれぞれ別途決める。最優秀者が基本設計や実施設計のプロポーザルに応募しても構わない。ただし、工事の入札には最優秀者と資本面や人事面で関係のある建設会社は参加できない。

順調に進めば、新競技場の基本設計は13年4月から1年かけて実施。実施設計は14年4月に始めて15年3月に終える。

現在の競技場は14年7月から15年10月までの工期で解体する。新競技場は15年10月に着工し、19年3月の完成を目指す。まずは19年秋に日本での開催が既に決まっているラグビーワールドカップの会場として使う計画だ。

■前回招致はアクセスの悪さが敗因に

現在の国立競技場は1958年に完成し、64年に開かれた東京五輪のメーンスタジアムなどとして使われた。建築家の片山光生氏が設計し、大成建設が施工。力強さと簡素、優美が設計のコンセプトだった。

日本を代表する競技場だったものの、近年は収容人数の少なさや築50年を超える施設の老朽化などで、国際大会が実施できる規格を満たさなくなっていた。

都が2008年から09年にかけて前回の16年夏季五輪の招致活動を展開した際も、都心にあり交通の利便性が高い国立競技場を建て替えてメーンスタジアムにする案はあった。しかし、費用負担や公園の移設などを巡り、国や周辺地権者との調整に手間取って頓挫した。

やむなく都は国に頼らず、臨海部の東京都中央区晴海にメーンスタジアムを新たに建設する計画を掲げた。この計画に対して、国際オリンピック委員会(IOC)はアクセスの悪さに加え、三方を海に囲まれテロ対策が難しいことなどを指摘。招致は失敗に終わった。

2016年夏季五輪の招致で掲げたメーンスタジアム。安藤忠雄氏が全体計画をまとめ、4万m2の屋根全面に太陽光パネルを設ける案だった(資料:東京オリンピック・パラリンピック招致委員会)

2016年夏季五輪の招致で掲げたメーンスタジアム。安藤忠雄氏が全体計画をまとめ、4万m2の屋根全面に太陽光パネルを設ける案だった(資料:東京オリンピック・パラリンピック招致委員会)

世界初の「カーボンマイナス五輪」をうたった16年夏季五輪の開催イメージ。メーンスタジアムは左の臨海部に位置する。中央の吊り橋はレインボーブリッジ(資料:東京オリンピック・パラリンピック招致委員会)

世界初の「カーボンマイナス五輪」をうたった16年夏季五輪の開催イメージ。メーンスタジアムは左の臨海部に位置する。中央の吊り橋はレインボーブリッジ(資料:東京オリンピック・パラリンピック招致委員会)


その後、既存の競技場を耐震補強や大規模改修した場合でも、建て替えに近い700億円程度かかることが判明した。日本スポーツ振興センターが10年度、久米設計に委託した調査で分かった。

国はこうした経緯や調査を踏まえて建て替えを決断。今回の20年夏季五輪の招致では、建て替えた新競技場をメーンスタジアムとする計画が実現した。

約5万4000人を収容する現在の国立競技場(写真:日経アーキテクチュア)

約5万4000人を収容する現在の国立競技場(写真:日経アーキテクチュア)

国立競技場の中央門(写真:日経アーキテクチュア)

国立競技場の中央門(写真:日経アーキテクチュア)

正面玄関上には1964年東京五輪の優勝者名が刻まれる(写真:日経アーキテクチュア)

正面玄関上には1964年東京五輪の優勝者名が刻まれる(写真:日経アーキテクチュア)


スタンドを支える柱梁。力強く簡素な鉄筋コンクリート造の躯体が特徴だ(写真:日経アーキテクチュア)

スタンドを支える柱梁。力強く簡素な鉄筋コンクリート造の躯体が特徴だ(写真:日経アーキテクチュア)

コンクリートの一部に白華や鉄筋のさび汁などの劣化現象が見られる(写真:日経アーキテクチュア)

コンクリートの一部に白華や鉄筋のさび汁などの劣化現象が見られる(写真:日経アーキテクチュア)


■コンペの情報公開で五輪の支持率向上を

国立競技場の建て替えが決まったとはいえ、費用負担の問題が解決したわけではない。

文部科学省のスポーツ関連予算は年間数百億円ほどで、1000億円超が見込まれる新競技場の工事費に及ばない。国は周辺の再開発に要する費用を含めて都に負担を求めたり、民間資金やスポーツ振興くじ(toto)を活用したりする案を検討している。

東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会が12年2月、IOCに提出した申請ファイルによると、国立競技場の建て替えを含む恒久的な施設整備費として3557億円を計上している。巨額の支出が国民の批判を受けた前回の招致と比べて238億円増えている。

安藤忠雄氏は「世界の英知を集めたい」と呼び掛けた(写真:日経アーキテクチュア)

安藤忠雄氏は「世界の英知を集めたい」と呼び掛けた(写真:日経アーキテクチュア)

「オリンピックの感動を再び」と訴える横断幕。新競技場のコンペが国民の関心を集める起爆剤となるか(写真:日経アーキテクチュア)

「オリンピックの感動を再び」と訴える横断幕。新競技場のコンペが国民の関心を集める起爆剤となるか(写真:日経アーキテクチュア)

時間の余裕もない。招致委は13年1月までに、メーンスタジアムとなる新国立競技場の概要を盛り込んだ立候補ファイルをIOCに提出しなければならない。

そのため、建て替えの基本構想案を示すコンペの告知から応募締め切りまでの期間はわずか2カ月。国際コンペとしては異例の短さだ。

「スケジュールはタイトだが、世界の英知を集めたい」。審査委員長を務める安藤氏はこう話す。

前回の招致では、五輪開催に対する国民の支持率が伸び悩んだことが敗因の1つとなった。今回は世論の賛成をいかに取り付けられるかが招致成功の鍵を握る。新国立競技場の国際コンペが国民の関心を集める起爆剤となるためにも、応募者が魅力的な案を提示するのはもちろん、審査過程の徹底した情報公開が欠かせない。

(日経アーキテクチュア 瀬川滋)

[ケンプラッツ2012年7月23日掲載の記事を元に再構成]


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