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「頭痛に効く」看護師寮をのぞいてみた

2014/4/6 6:30
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

2013年11月に完成した獨協医大病院の新看護師寮

2013年11月に完成した獨協医大病院の新看護師寮

若手医師や医学生向けのWebサイト「日経メディカルCadetto」の連載打ち合わせで、2013年春に獨協医科大学・神経内科准教授の辰元宗人氏を訪ねた。そのとき、部屋の窓から建築中の建物が目に入った。

聞いてみると、11月に完成予定の新しい看護師寮だという。そこで「ある仕掛け」を試みる予定だと辰元氏は話した。「完成したらぜひ見学させてほしい」とお願いしておいたところ、年明け、入居間もない看護師さんの部屋にまで入れてもらって、その「仕掛け」を実感する機会を得た。

「経験上、看護師さんたちの2割くらいは片頭痛を抱えている」と認識する辰元氏が新築の寮に仕掛けたのは、内装の段階での"介入"。頭痛を減らせるようなインテリアを半数の部屋に施したというのだ。

インテリアデコレーターの尾田恵氏と獨協医大の辰元宗人氏

インテリアデコレーターの尾田恵氏と獨協医大の辰元宗人氏

部屋のインテリアを担当したのは、菜インテリアスタイリング(大阪市西区)代表取締役で、インテリアデコレーターの尾田恵氏。医学的な知見を背景にして健康につなげるインテリアプランニング、「アクティブケア」に辰元氏とともに取り組む彼女に、「頭痛にやさしい」部屋のポイントを解説してもらった。

■明るすぎない、白っぽくない

頭痛に悩む看護師たちのために取り入れた「アクティブケア」の特徴は、一言で表せば「明るすぎない、白っぽくない」部屋だ。

不動産業界で新築物件を販売する際の基本は、明るさをアピールすること。しかし最近、「明るさを抑えた住環境が心身に優しく、居心地もいいというコンセプトが徐々に受け入れられてきている」と尾田氏は語る。

一方の辰元氏は、片頭痛患者の「発作のときに自宅の照明がまぶしくてつらい」という悩みを聞いて、照明環境を頭痛治療に役立てる研究に数年前から着手。片頭痛患者は視覚感受性が高く、色温度の高い白色LEDを不快に感じる。コントラストの強い模様も頭痛発作の誘因になるといったことを確かめている。

インテリアの専門家の尾田氏と医師の辰元氏のコラボレーションは、京都・山科のマンションのモデルルームを皮切りに複数の物件で実現。光過敏を起こしにくくするインテリアを前面に打ち出して、好感触を得ている。ならば間近に新築する看護師寮にも…という流れに至ったわけだ。

新しい看護師寮では、従来インテリアの部屋とアクティブケアを取り入れた部屋がフロアごとに分かれ、両者の割合は半々となっている。従来のインテリアの部屋とアクティブケアを取り入れた部屋の違いはいくつかあるが、まずは下の写真を見比べてもらうのが分かりやすいだろう。

新看護師寮の従来インテリアの居室(写真提供:尾田氏)

新看護師寮の従来インテリアの居室(写真提供:尾田氏)

新看護師寮のアクティブケアの居室(写真提供:尾田氏)。照明は電球色のLED。壁面と床面のコントラストを低くしている

新看護師寮のアクティブケアの居室(写真提供:尾田氏)。照明は電球色のLED。壁面と床面のコントラストを低くしている

従来インテリアの部屋では白色のLED照明を採用しており、室内の白さが際立つ。一方、アクティブケアの部屋の照明は電球色のLEDを採用。より明るさを感じにくいようにしてある。なお、どちらの部屋でも調光は可能だ。

壁面と床面の材質は両方の部屋で同じものを採用したが、アクティブケアではコントラストを低く抑えた。特に大きな違いが壁面収納家具の扉で、「コンパクトな空間では広く見せるために白にするのが王道のところ、あえて柔らかいブラウンを配色した」(尾田氏)。

■「こっちの部屋、いいなあ」

各部屋は調光器で明るさの調節が可能。アクティブケアの部屋に入居した中村絵里さんは「慣れれば、明るさを抑えても平気になる」

各部屋は調光器で明るさの調節が可能。アクティブケアの部屋に入居した中村絵里さんは「慣れれば、明るさを抑えても平気になる」

これらの効果を、旧寮からアクティブケアの部屋に移って数週間という看護師の中村絵里さんに聞いた。「入居前は頭痛に悩まされていて、外出時の頭痛薬はお守りとして手放せなかった。でも今は薬を飲むことは減ったし、忘れても不安じゃなくなった」。

防音と、風呂・トイレが共同でなくなったことによるストレス減がまず大きいようだが、インテリアの効果もじわじわと実感しているとのこと。

従来インテリアの部屋に入った友達が遊びに来ると、「こっちの部屋、いいなあ。落ち着いて、あったかい感じがする」とよく言われるそうだ。

看護師寮にアクティブケアを導入した効果については、アンケートを実施。その結果は辰元氏が現在解析中だ。

中村さんの部屋。従来インテリアの部屋の友達から羨ましがられることもしばしば

中村さんの部屋。従来インテリアの部屋の友達から羨ましがられることもしばしば

逆に言えば、効果がはっきりとは分からない段階で、大学病院の新築施設によくこんな試みをできたものだとも思ったが、院内の安全委員会でなじみとなった看護部長に辰元氏が話を持ちかけたら、ことはかなりスムーズに進んだという。

看護師寮は2棟目も新築予定で、そちらでも半数の居室をアクティブケアとすることが決まっている。

尾田氏がインテリアプランニングに関わる特別養護老人ホームなどの老人福祉施設でも、照明に調光器を採用し、昼は明るく、夕方から夜にかけて徐々に暗くしていくことで、入居者の生活リズムを整えるケアを実践しているという。

「間接照明なんて、トレンディドラマ(死語?)に出てくるようなぜいたく品だろう」と筆者同様に思っていた諸兄は少なくないかもしれない。だが近い将来、「光の処方箋」が有力な診療ツールとして定着している可能性はありそうだ。

(日経メディカル 石垣恒一)

[日経メディカル Online 2014年3月24日掲載記事を基に再構成]


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