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味の好みを決める4つの「おいしさ」とは
働きもののカラダの仕組み 北村昌陽

2012/8/26 6:30
ニュースソース
日本経済新聞 電子版
 おいしいものを食べると幸せになります。ホッとしたり、元気が出たり…。でも、おいしすぎて困ることもあります。止めたいのに手が止まらなくなることも。そもそも「おいしさ」の基準は人それぞれ。どうやって決まるのでしょう? これが今回のテーマです。

だれにでも食べ物の好みがあるものだ。ある人が「おいしい!」と思うものを、ほかの人があまり好きじゃないのは、よくあること。食の嗜好という性質は、個人差がとても大きい。

ただ、考えてみるとこれは不思議な現象だ。だってほかの動物では、そこまで食の好みがブレないから。笹が嫌いなパンダなんて聞いたことないですよね? でも人間では、同じ甘いものでも好き嫌いが分かれる。

人間の食べ物の嗜好は、ほかの動物とは違うメカニズムで決まるのだろうか? そんな疑問を、京都大学大学院農学研究科教授の伏木亨さんに尋ねてみた。味覚と嗜好を研究する「おいしさの科学」の専門家だ。

「人間の食嗜好には、"生きる"という動物共通の目的だけではなく、"楽しむ"という側面があります。これが人生を豊かにする一方で、煩悩のように私たちを悩ませてもいるのです」。

へぇ~面白い話になりそうだ。伏木さんのガイドで「おいしさのしくみ」をみていこう。

■本能的なおいしさ、人間特有のおいしさ

伏木さんによると、人間が「おいしい」と感じるしくみには4つのタイプがあるという。

(1)「生理的おいしさ」。これは、必要な栄養素を含む味をおいしいと感じるもので、すべての動物がこの性質を持つ。「例えば汗をかいたら塩味が欲しくなるような性質です」。脳の働きでいえば、視床下部のような本能と直結する部位の作用と考えられる。

これに対して、人間の大脳皮質が作り出す、ヒト特有のおいしさもある。それが(2)と(3)。

(2)は「文化的なおいしさ」。幼いころによく食べた味を好ましく感じるもので、海外滞在中に食べる和食がやたらおいしいと思うのが典型例。いわばお袋の味を好む性質だ。

(3)は「情報によるおいしさ」。値段の高いワインほどおいしいと感じたり、「通の味」「本格派」などと形容される味を学んで、好むようになる性質。ほかの動物にはないこの二つが働いて、人間独特の嗜好が作り出されるのだろう。「ちなみに通の味というのはたいてい苦みや酸みが強く、生理的おいしさの観点から見ると、むしろ有害な成分のサイン。本能的には避けたい味です」。人間はそれを、"これが通の味"という情報を元に食べこなして、スリルや達成感を味わっているらしい。何とも手の込んだ楽しみ方をしているのだなぁ。

■砂糖と油の味が病みつきになる理由

最後の(4)は「病みつきのおいしさ」。これは人間以外の動物も持っている性質だが、人為的に精製した食品を食べたときに強く表れるという。「ネズミを普通の餌で育てると、満腹になったら自然と食欲にブレーキがかかるので、太りません。でも精製した砂糖や油を与えるとブレーキがかからず、ぐんぐん太る。そんな、自力では止められない、厄介な"おいしさ"があるのです」。

確かに、止まらない味っていうのはある。これは脳内の「報酬系」という神経回路の作用だという。砂糖や油の味はこの回路を強く刺激するため、私たちはえも言われぬ快感を感じて、食べる手が止まらなくなるのだ。「糖分や脂肪は、動物が生きていく上で貴重なエネルギー源。その味を際立っておいしいと感じる能力は、本来なら生命維持に役立つはず。でも快楽を追求するあまり、人間は純粋な砂糖や油を手に入れた。それが今、健康を脅かしているのです」。

う~む、考えさせられる話だ。でもそれでは、そういう食べ物があふれる現代では、太るのは避けられないってこと?

「実は、病みつき化する味がもうひとつあります。それは出汁の"うまみ"。これを子供のころからよく食べた人は、この味でも報酬系が働くようです」。 つまり和食の味に対しても、砂糖や油並みの快感を感じるということ。和食でそこまで満足できれば、ダイエットも楽だろう。それには子供の時の食生活がカギ。子育て中のお母さん、ぜひ子供にはそんな「おいしさ」を身につけさせてください。

北村昌陽(きたむら・まさひ)
健康・医療系のフリーランスライター。医療専門誌や健康情報誌の編集部に計17年在籍したのち独立。専門知識を生かした取材・執筆活動を続けている。著書『カラダの声をきく健康学』(岩波書店)。

[日経ヘルス2011年8月号の記事を基に再構成]


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