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代々木体育館、大屋根の総塗り替えに初めて挑む

2011/6/21付
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日本経済新聞 電子版

 国立代々木競技場の第一体育館と第二体育館で、1964年の竣工後、初となる大屋根の全面塗り替えが実施された。最近では、4.5mm厚の鉄板に塗装を施した大屋根の老朽化が深刻な課題となっていた。

 故・丹下健三氏が設計した代々木競技場の特徴といえばダイナミックな吊り屋根構造だが、第一体育館では過去の補修で屋根に塗り重ねた塗料が下地から剥離する現象がみられた。第二体育館でも塗装の劣化が目立っていた。さらに、両体育館とも鉄板の腐食が進行していた。

 そこで、大屋根の塗装をいったん剥がし、鉄板を補修して全面的に塗り替える大掛かりな改修工事に踏み切った。改修設計は丹下都市建築設計、施工は清水建設が担った。工期は2010年11月1日から2011年3月31日までで、工事費は約3億8000万円だった。

国立代々木競技場・第一体育館の大屋根(南面)で進む塗装工事。白く見える部分に錆止めなどを塗っている。傾斜が急な塔屋付近では、屋根に張り付くように足場を組んだ。3月4日に撮影した (写真:日経アーキテクチュア)

国立代々木競技場・第一体育館の大屋根(南面)で進む塗装工事。白く見える部分に錆止めなどを塗っている。傾斜が急な塔屋付近では、屋根に張り付くように足場を組んだ。3月4日に撮影した (写真:日経アーキテクチュア)

国立代々木競技場の第一体育館(北面)。JR原宿駅側から撮影した (写真:日経アーキテクチュア)

国立代々木競技場の第一体育館(北面)。JR原宿駅側から撮影した (写真:日経アーキテクチュア)


改修前の2009年に撮影した第一体育館。塗装の劣化が目立っていた (写真:細谷 陽二郎)

改修前の2009年に撮影した第一体育館。塗装の劣化が目立っていた (写真:細谷 陽二郎)

■繰り返されてきた錆と塗装の「いたちごっこ」

 代々木競技場では1968年度以降、大屋根の補修を繰り返している。例えば、日経アーキテクチュア誌1979年7月23日号「有名建築その後」では、「内部の錆が塗り替え後、1年も経たぬうちに再び表面に発錆。こんな発錆と塗装のいたちごっこの状態を、すでに10年以上も繰り返しているのが実情だ」とリポート。その後も数年おきに塗装を重ねてきた。

 今回の改修工事は、こうした部分的な補修でお茶を濁さず、塗料をすべて除去して鉄板そのものを補修し、屋根を健全化するという点で、竣工後初の試みだ。

既存の塗装を剥離した大屋根。右奥にはJR渋谷駅前で建設中の「渋谷ヒカリエ」が見える (写真:日経アーキテクチュア)

既存の塗装を剥離した大屋根。右奥にはJR渋谷駅前で建設中の「渋谷ヒカリエ」が見える (写真:日経アーキテクチュア)

 塗装工事は以下の手順で進めた。まず、既存の塗装面に剥離剤を塗って軟化させ、水を高圧で噴射して下地まで除去した。通常は手作業で塗装を削り取るが、騒音や埃が出る上、時間もかかる。合計すると約2万m2(平方メートル)にもなる屋根面を効率的に施工するため、高圧洗浄方式を選択した。環境に配慮し、洗浄に用いた水はろ過して再利用した。

 あらわになった大屋根の鉄板には、雨漏りの原因となる穴や亀裂が2590カ所も見つかったため、「溶接などで一つひとつ補修した」(清水建設の鈴木信夫工事主任)。その後、錆止め、フッ素樹脂遮熱塗料(太陽熱高反射塗料)、トップコートの順に塗装した。フッ素樹脂遮熱塗料は、両体育館に採用している。

既存の塗装面に剥離剤を塗布して含浸させ、水を高圧噴射して塗料を洗い流す作業を、2度繰り返した。塗料の飛散を防ぐために作業は箱の中で行った (資料:丹下都市建築設計)

既存の塗装面に剥離剤を塗布して含浸させ、水を高圧噴射して塗料を洗い流す作業を、2度繰り返した。塗料の飛散を防ぐために作業は箱の中で行った (資料:丹下都市建築設計)

塗装を剥離してあらわになった大屋根の鉄板を調査して、雨漏りの原因となる細かい亀裂や穴を特定。一つひとつ溶接してふさいだ (写真:日経アーキテクチュア)

塗装を剥離してあらわになった大屋根の鉄板を調査して、雨漏りの原因となる細かい亀裂や穴を特定。一つひとつ溶接してふさいだ (写真:日経アーキテクチュア)


補修した大屋根の鉄板に錆止め塗装を施した後、フッ素樹脂遮熱塗料(太陽熱高反射塗料)を3段階に渡って塗布した (資料:丹下都市建築設計)

補修した大屋根の鉄板に錆止め塗装を施した後、フッ素樹脂遮熱塗料(太陽熱高反射塗料)を3段階に渡って塗布した (資料:丹下都市建築設計)

塗装中の第一体育館の大屋根。まるで雪原のような光景だ。曲面を描く屋根はトランポリンのような歩き心地 (写真:日経アーキテクチュア)

塗装中の第一体育館の大屋根。まるで雪原のような光景だ。曲面を描く屋根はトランポリンのような歩き心地 (写真:日経アーキテクチュア)


■今後は耐震診断を実施

 塗料の種類は、改修の度に少しずつ変化している。一方で、色味は竣工時のグレーを踏襲し続けてきた。丹下都市建築設計の木村知弘・プリンシパル・アーキテクトは、「今回も数少ないカラー写真を頼りに数種類のサンプルを選び、実際に屋根にあてがって比較しながら色味を決めた」と振り返る。

改修を終えたばかりの第一体育館。4月13日に撮影した (写真:日経アーキテクチュア)

改修を終えたばかりの第一体育館。4月13日に撮影した (写真:日経アーキテクチュア)

 竣工間際の3月11日に発生した東日本大震災では、塗料や防水材料の入荷遅延、塗装工・防水工の不足が起こった。仮設材リース会社の資材置き場で荷崩れが発生するなどして、解体した足場を返却できなくなるトラブルにも見舞われたが、無事故で工事を終えた。

 今回は、塗装と併行して、大屋根を吊る「メーンロープ」の劣化調査も実施した。37本のワイヤを束ねたメーンロープのケースを外し、錆止めのモルタルを除去して目視で検査。さらに、ロープに電流を流して内部欠損の状況を調べ、問題がないことを確認した。

 改修工事を発注した日本スポーツ振興センター財務部施設整備課の鈴木光雄課長は「次は耐震性のチェックに力を入れる」と話す。11年度以降は、ロープの調査結果を基に、本格的な耐震診断に取り掛かる方針だ。診断結果によっては、耐震改修も実施する。

第一体育館の屋根から撮影した第二体育館。同様の塗装工事を終えた (写真:日経アーキテクチュア)

第一体育館の屋根から撮影した第二体育館。同様の塗装工事を終えた (写真:日経アーキテクチュア)

【改修工事の概要】
国立代々木競技場第一体育館・第二体育館屋根改修工事と建築概要
所在地:東京都渋谷区神南2-1-1
延べ面積:2万8754m2(第一体育館)、6947m2(第二体育館)
構造:RC造一部SRC造(屋根部分はS造一部RC造)
階数:地下2階・地上2階(第一体育館)、地下1階・地上1階(第二体育館)
改修工事の発注者:日本スポーツ振興センター
設計者:丹下都市建築設計
監理者:東建築設計事務所
施工者:清水建設
工事期間:2010年11月1日から2011年3月31日
工事費:3億7933万3500円(税込)

(日経アーキテクチュア 木村駿)

[日経アーキテクチュア2011年6月10日号の記事を基に再構成]


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