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プラグインハイブリッド車、ひっそり発進
今後は市場が急拡大

2012/4/16付
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

日本の自動車史において、2012年は一つの節目になりそうだ。1月末、プラグインハイブリッド車(PHVまたはPHEV)が国内で初めて量産車として売り出されたからである。トヨタ自動車の「プリウスPHV」がそれだ(図1)。

図1 「プリウスPHV」(左)の見た目は従来のプリウスとほとんど同じ (写真:筆者)

図1 「プリウスPHV」(左)の見た目は従来のプリウスとほとんど同じ (写真:筆者)

価格が320万円(グレードS)からと高額なこともあり、車両販売台数は1カ月当たり1000台前後とまだ少ない。今ではすっかり市民権を得たハイブリッド車(HVまたはHEV)に比べると1~2桁低い数字だ。同社の小型HV「アクア」が発売後1カ月で12万台の受注を獲得するなど大ヒットしており、同じエコカーとしてその裏側に隠れてしまった感もある。

ひっそりとした発進ではあるが、車両価格が今後下がっていけば、PHVの市場は急速に拡大すると筆者は予想している。PHVは、HVよりも燃費に優れており、充電インフラを気にしなくていいので当面は電気自動車(EV)よりも使いやすい。しかも、EVと同様に大容量の蓄電池を搭載しているので、停電時の非常用電源機能やスマートグリッドにおける電力需給調整機能といった副次的効果も狙える。つまり、単なる燃費改善だけではなく、日本が直面している電力危機の対策にも寄与できるのだ。

こうした点を考慮すると、HVよりPHVの方が社会に与えるインパクトは確実に大きい。実際、トヨタだけでなく三菱自動車やホンダもPHVを製品化、相次いで市場に参入することを明らかにしている。

経済産業省もPHVに期待する。同省は「次世代自動車戦略2010」で、2020年のEVとPHVの普及目標を15~20%と設定している。これは、台数に換算すると年間60万~80万台という販売規模である。EVとPHVが同程度に普及すると仮定すれば、PHVの年間販売台数は30万~40万台ほどということになる。

野村総合研究所も2020年に世界全体で140万台のPHVが販売されると予測している。日米欧がその中心になると見られるため、約3分の1と仮定しても日本国内でのPHV販売台数は年間40万~50万台程度に達すると見積もれる。

■EVとHVの「いいとこどり」

プリウスPHVとはどんなクルマだろうか。外観は、従来のHV「プリウス」とほとんど同じで、正直に言えば目立たない(図2)。エコカーの中での話題性という点でも、日産自動車のEV「リーフ」や米General Motors(GM)社のPHV「シボレー・ボルト(Chevrolet Volt)」など、いわば個性派に軍配が上がる。EV走行が可能な距離も26.4km(公称値、JC08モード)と、リーフ(同200km)やボルト(56km、米EPA認定値)に比べるとやや見劣りする。

図2 「PRIUS PHV」「PLUG-IN HYBRID」のエンブレムや車体右側後方の充電リッドを見てはじめて「プリウスPHV」だと分かる (写真:筆者)

図2 「PRIUS PHV」「PLUG-IN HYBRID」のエンブレムや車体右側後方の充電リッドを見てはじめて「プリウスPHV」だと分かる (写真:筆者)

確かに目立ちはしないのだが、この車は「実務派」ともいえる力を持つ。最大1500kmと飛び抜けて長い航続距離、充電インフラの心配をしなくてよい、車種別の販売ランキングでトップを走り続けるプリウスを基に開発されたことなどが、プリウスPHVの強みだ。

当のトヨタは、プリウスPHVはEVとHVの「いいとこどり」と表現する。具体的には、プリウスのニッケル水素電池(容量1.3kWh)をより高性能なリチウムイオン電池(同4.4kWh)に置き換え、回生ブレーキによる充電性能も強化することで、EV走行の距離を延ばしている。蓄電池の強化に加え、外部電源(交流100V/200V)からも充電できるようにした。

従来のプリウスではEV走行の距離がせいぜい1~2km程度で、アクセルを少し踏み込むとすぐにエンジンが始動してしまう。燃費も32.6km/L(JC08モード)と量産車では最高レベルだが、実際の走行における実燃費は20~25km/L程度、エコドライブ(省燃費走行)が得意なドライバーでも30km/L前後というところだ。

これに対し、プリウスPHVでは、EV走行距離の公称値が26.4kmである。実際の走行では状況により異なるが、筆者が試乗した際には満充電から20km以内はエンジンをまったく始動せずEV走行を行うことが可能だった。他のEVやPHVと比べると短いとはいえ、従来のプリウスから見ると10~20倍と飛躍的にEV走行距離が延びている。

日常的な通勤や買い物など、20kmという距離の範囲内に収まる使用状況は日本国内ではかなり多いと思われる。勤務先や商業施設に充電器がある場合、ガソリンを一滴も使わずEVとして往復できるケースも今後は増えそうだ。

■強化された回生充電、飛躍的に燃費向上

前述のように、制動時などの回生ブレーキによる充電も大幅に強化された。

従来のプリウスでは、電池の容量が小さいため長い下り坂などでは電池がすぐに満充電となってしまう。このため回生を放棄し、わざわざエンジンを始動してエンジンブレーキを掛けるという制御をしていた。モーター兼発電機と電池を持つクルマとして、これはもったいない。

プリウスPHVでは、電池容量を約3.4倍にしたことと、充放電時の電流密度が高いリチウムイオン電池を採用したので、かなり長い下り坂でも回生の放棄が起きなくなっている。例えば、箱根峠などの長い下りでもエンジンブレーキを使う必要が一切なくなった。箱根峠では、摩擦ブレーキだけだとフェード現象(高温になると摩擦係数が低下すること)やベイパーロック現象(ブレーキ系の作動液が高温で蒸発し、気泡を生じて踏力が伝わらなくなること)を起こす危険性があるため、一般的な自動車ならエンジンブレーキが必須である。

回生制動によって電気として回収されるエネルギーは、EV走行距離換算で12~13km程度となる(図3)。EVと同様に回生ブレーキで回収できるエネルギーをフル活用することで、PHVでは燃費を飛躍的に改善できる。

図3 「プリウスPHV」のハイブリッドシステムインジケーター。この時点のEV走行可能距離が10.3kmであることを示す。筆者は試乗で、EV走行可能距離が約1kmと少ない状態から箱根峠を下りてみた。すると、下り終えた時点で同距離が12~13kmになるまで電池の充電が進んだ。この様子の動画はhttp://youtu.be/Ed7KZaAeQ_4 で見ることができる (写真:筆者)

図3 「プリウスPHV」のハイブリッドシステムインジケーター。この時点のEV走行可能距離が10.3kmであることを示す。筆者は試乗で、EV走行可能距離が約1kmと少ない状態から箱根峠を下りてみた。すると、下り終えた時点で同距離が12~13kmになるまで電池の充電が進んだ。この様子の動画はhttp://youtu.be/Ed7KZaAeQ_4 で見ることができる (写真:筆者)

従来のプリウスで30km/Lの実燃費を出すのは難しいが、プリウスPHVなら35km/L程度の実燃費を普通のドライバーでも比較的簡単に出せる。エコドライブに熟達したドライバーが惰性での走行や回生充電をうまく使えば、状況によって40~50km/Lも実現可能だ。これが、HVからEVにさらに近い方向に進化したPHVの大きな強みである。

■気が付けば、電動車両だらけ?

表1 主要なプラグインハイブリッド車の一覧 (テクノアソシエーツが作成)
車名メーカー発売年
F3DM中国BYD Auto2008
Chevrolet Volt米General Motors2010
Fisker KARMA米Fisker Automotive2011
プリウスPHVトヨタ自動車2012
Fusion Energi米Ford Motor2012
C-MAX Energi米Ford Motor2012
アコードホンダ2012
アウトランダー三菱自動車2013
スイフトスズキ2013
Cross Coupe独VolksWagen2013
Sonata韓国・現代自動車2013
未公表日産自動車2015

ホンダは2012年内に、三菱自動車とスズキは2013年にPHVを発売する計画を明らかにしている。EVで市場シェアのトップを狙う戦略の日産自動車も、2015年にPHVを市場投入する見込みだ(表1)。

海外でもPHVの製品化が進みつつある。米General Motors(GM)社のシボレー・ボルトは2010年12月から販売が開始されており、米Ford Motor社は2012年にPHV「C-MAX Energi」と「Fusion Energi」を発売する予定である(図4)。欧州では、独VolksWagen社が2013年以降にすべての車種でPHVモデルを提供していくと公表している。

ここ2~3年に発売されたEVやPHVでは、リーフやシボレー・ボルトなど、いわゆる専用車として存在感の強いものが多かった。デザインも個性的で、走行時や充電中にも周囲から注目される存在だった。これに対して、プリウスPHVやC-MAX Energi、Fusion EnergiはPHV専用車ではない。HVのプリウスやガソリン車のFusionだと思ったら「実はPHVだった」という形だ。一般ユーザーの中には「あまり目立ちすぎるのも…」という層が少なからずいる。目立たないPHVの製品化は、普及の本格化を示しているのかもしれない。

図4 米Ford Motorの中型セダンPHV「Fusion Energi」 (写真:Ford Motor)

図4 米Ford Motorの中型セダンPHV「Fusion Energi」 (写真:Ford Motor)

それでは、普及のカギとなる価格問題は今後どうなるのだろうか。現時点ではリチウムイオン電池の高コストを反映し、PHVの車両価格もまだ高いことは冒頭で述べた通りだ。

プリウスPHVの場合、HVのプリウスとの差額からリチウムイオン電池のkWh当たり単価を算出すると、20万円程度になる。一方、日産のリーフやGMのシボレー・ボルトに搭載される電池のkWh当たり単価は、4万~5万円程度まで下落していると見られる。民生用リチウムイオン電池ならさらに安く、kWh当たり単価は2万円前後だ。したがって、プリウスPHVのリチウムイオン電池には量産によるコストダウンの余地がまだ相当あると考えられる。

電池のコストダウンが進めば、現在のHVとあまり変わらない価格でPHVを入手可能になる可能性が高い。そうなれば、高騰基調にあるガソリン価格を考慮し、近距離ならEV走行可能なPHVを選択する消費者が増加し、従来のガソリン車やHVと見た目がほぼ同じPHVが大量に普及する時代がやってくるだろう。

(テクノアソシエーツ 大場淳一)


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