日本経済新聞社

記事利用について
印刷 印刷

変わる選挙ビジネス 「いいね!」で狙う拡大

2013/7/10 7:00
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

 「いいね!ボタンのクリックをお願いします」。関東の選挙区で出馬した候補は、後援会員に自らが開設したフェイスブックページへの積極的なアクセスを呼びかけた。選挙関連サービス会社の担当者は「『いいね!』が1000を超えてくると、拡散力はすさまじい」と語る。ネット世界の常識を踏まえ、フェイスブックでつながる会員の友人への波及効果を狙ってのことだ。

■「怪文書」対策の拠点も設置

立候補者のフェイスブックページを分析し、戦略を練る「うぶすな」の吉井さん

立候補者のフェイスブックページを分析し、戦略を練る「うぶすな」の吉井さん

 大手レンタル会社のエイトレント(東京・渋谷)には、選挙関連で米アップルのタブレット「iPad」(アイパッド)をレンタルする問い合わせが増えた。自民党は各候補にiPadを支給した。ネット選挙への期待と不安が、各党や候補をネットに近づけ、持ち運びしやすいタブレット端末への需要が伸びたとみられる。

 ウエブサイトやツイッターでも、すでに今回の選挙戦では情報があふれている。新たなビジネスチャンスとみて、さまざまな業界、企業も参入した。選挙区の情勢分析や選対本部立ち上げ、SNSの情報発信まで手掛けるIT政策調査研究所(東京・渋谷)の戸川大冊代表は「いいね!ボタンなどによる候補者名の拡散効果は確実にある。認知されるという意義は大きい」と話す。

 今回の参院選では約10人から依頼を受けた。ツイッターと違って文字数に制限のないフェイスブックを主に使用、活動記録とメッセージ付きの動画を毎日配信する。フェイスブックに参加していない人でもみることができる「フェイスブックページ」を使う仕組みを採用した。公示前、候補がミニ集会を開いた後にフェイスブック講習会を開き、各陣営に具体的な使い方を指南してきた。

 ネット上での「怪文書」をおそれるクライアントのため、4日の公示日から「インターネットサポートセンター」を那覇市に開設した。同センターで顧客の各陣営の指示を受け、候補者のウェブサイトの更新・管理や誹謗(ひぼう)中傷・なりすましを監視する。顧客である候補者のいない地域に設置することで、選挙活動との混同を避け、陣営からのメールなどの指示に基づく単純労務だけに従事させることで、運動員買収に該当するのを避ける狙いだ。戸川代表は「ネット選挙に限らず従来の選挙でも怪文書はあった。むやみに恐れる必要はない。積極的に情報を発信していけば、(なりすましなどが)つけいるスキはない」と語る。

 ITコンサルタント会社のうぶすな(東京・台東)は、東北地方を基盤とする比例代表候補を担当。6月1日には候補者のデータベースとなるウィキペディアのページを、7日にフェイスブックページを立ち上げた。フェイスブック上に広告も作成、候補者の地元を中心に投下している。現状の分析では、読者のうち90%が広告から入ってきて記事を読んでいるという。今回の参院選でネット選挙に関連したサービスは月額3万円前後が相場とされるが、「それよりは高い金額をいただいている」という。

■真の狙いは地方議員選挙

 7月4日の公示日以降、更新作業は選挙事務所のボランティアスタッフが担当する。吉井靖社長は私設秘書の立場で写真や動画のとりかたなどをアドバイスする。直接、うぶすな社が作業を担当すると公職選挙法によって運動員買収とみなされるおそれがあるからだ。

 公示日以降のリーチ数(読者に情報が伝わった数)は2万7000。年代や男女比、所在地などが分析できる。意外にも候補者の地元である東北だけでなく、東京都からの来訪者が多い。候補者の政策への支持が全国レベルで広がっていると分析。なかでも30代半ばの男性が最も多くホームページに来訪しているといい、「この層に絞ってアプローチしていく」。5万票とされるこの党の全国比例候補の当選ラインに「もう少しで届いてくる」とみる。

 「本当の狙いは地方議員の選挙ですよ」。選挙関連サービス会社の担当者は、こう打ち明ける。今回の参院選の立候補者は433人。一方、全国の都道府県議会議員や市町村議会議員の数は3万人以上に及び、これから毎年、日本のどこかである選挙はすべてネット選挙となる。先行きの受注拡大をにらみ、国会議員の選挙を手掛けた実績でハクをつけたいところだ。

 「選挙は商品の販促と同じ」。うぶすなの吉井社長は話す。候補者(商品)を知ってもらい、「いいね!」と思ってもらい、投票(購入)してもらう。企業販促などを得意とする同社の強みが生かせるとみている。手探りのネット選挙は周辺ビジネスも巻き込んで、参院選の先へ動いている。

(商品部次長 村野孝直)


本サービスに関する知的財産権その他一切の権利は、日本経済新聞社またはその情報提供者に帰属します。また、本サービスに掲載の記事・写真等の無断複製・転載を禁じます。