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ヒラメ刺し身で謎の食中毒 原因は「クドア」

2014/6/15 6:30
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日経メディカル
 「クドア食中毒」をご存じだろうか。ヒラメなどの魚の筋肉に寄生する粘液胞子虫クドアによるもので、一過性の下痢・嘔吐を来す。2000年頃から報告されるようになった新しい食中毒だ。養殖場などでは徹底的な対策が実施され報告件数は減少しているが、いまだ患者の報告は続いている。

写真1 K.septempunctata胞子(提供:国立感染症研究所寄生動物部主任研究官の八木田健司氏)

写真1 K.septempunctata胞子(提供:国立感染症研究所寄生動物部主任研究官の八木田健司氏)

「これまで、クドアはヒトには無害な魚の寄生虫と考えられていた。それが、2000年以降に西日本を中心に生じるようになった"謎の食中毒"の原因として、2010年に同定された時は、正直驚いた」と、国立感染症研究所寄生動物部部長の野崎智義氏は話す。

"謎の食中毒"とされたのは、ヒラメやマグロなどを生食した数時間後に発症する激しい下痢・嘔吐だ。症状は一過性で、数時間程度で改善する。死亡例の報告はなく、予後が良好なのも特徴だった。食中毒の原因として一般的なノロウイルスや細菌などの既知の病原物質が同定できなかったため、そう呼ばれていた。

この謎の食中毒の原因物質を探索するために実施された全国調査の結果、同定されたのが、クドアの一種(Kudoa septempunctata、写真1)だった。ヒト腸管細胞培養系を用いたクドア胞子の腸管毒性評価では、腸管細胞層の物質透過性が亢進(こうしん)することが確認された。症状が一過性であることから、クドア胞子が長期間人体にとどまる可能性は低いとも考えられている。

以前からクドアは魚の寄生虫として知られていたが、人体に害を生じることはなかった。そのため、「毒性のある新種が、ヒラメの養殖場を中心に広まり、食中毒の原因となったと考えられている」と、国立感染症研究所寄生動物部主任研究官の八木田健司氏は説明する。

■冷凍または加熱で死滅するが…

クドアが食中毒の原因であることが明らかになったことを受け、政府は対策を実施した。まず、厚生労働省が2011年6月、クドアを原因とする嘔吐・下痢症を食中毒として取り上げるよう通知。同年10月には、輸入ヒラメの検疫を強化することも求めた。

水産庁も、国内のヒラメ養殖場・種苗生産施設に対して、クドア食中毒防止の対策を呼び掛けた。2013年からは、食品衛生法による食中毒原因物質として、「寄生虫-クドア」として報告されることになり、実数の把握が容易になっている。

これらの規制強化により、クドア食中毒の発生件数は、2013年以降減少した(図1)。「養殖ヒラメに関しては、厚労省と農林水産省が共同して有効な対策を実施しているので、発生件数は減っていくものと思う」と野崎氏も語る。

図1 クドア食中毒報告件数の推移(八木田氏によるデータを一部改変)

図1 クドア食中毒報告件数の推移(八木田氏によるデータを一部改変)

2014年1~4月には7件のクドア食中毒が発生し、92人が発症したことが報告されている。いずれもヒラメ刺身を食べた後の発症だった(表1)。2013年の食中毒件数は21件、患者数244人だったことを考えると、食中毒件数、患者数ともに下げ止まっている可能性がある。

表1 2014年のクドア食中毒報告状況(厚労省の食中毒統計より)

表1 2014年のクドア食中毒報告状況(厚労省の食中毒統計より)

クドアは、-15~-20℃で4時間以上保管、もしくは中心温度が75℃となるように5分以上加熱することで死滅(失活)する。ただし、ヒラメの刺身は冷凍すると味が落ち商品価値がなくなるため、冷凍による食中毒予防は困難だ。

「生産地や輸入時の対策が強化され、クドア対策はうまくいっていると思う。ただし、天然のヒラメや別の魚でも、クドア汚染は見つかっている。そのため、直ちに患者が完全になくなることはないだろう」と野崎氏は今後を予想する。

これまでクドア食中毒は、夏季に多く報告されている。今後、患者数が増加する可能性があるので、刺身生食後、比較的短時間で生じた下痢・嘔吐では、クドア食中毒も疑ってみる必要があるだろう。

(日経メディカル 小板橋律子)

[日経メディカル Online 2014年6月3日掲載記事を基に再構成]


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