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聖地・松阪で肉三昧、高級和牛のみにあらず

2014/3/31 6:30
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

 日本を代表する食のブランド「松阪牛」。その産地である三重県松阪市では多くの焼肉店が店を構える。本場だけに老舗高級店だけでなく、ユニークなスタイルの店舗や産地でしか味わえない松阪牛のホルモンを提供する店もある。さらにB級グルメの「鶏焼き肉」やプレミアムな豚肉も楽しめる。松阪で肉三昧としゃれ込んだ。

皿に載せられ回転レーンを流れる松阪牛の肉(一升びん宮町店)

皿に載せられ回転レーンを流れる松阪牛の肉(一升びん宮町店)

一見回転ずし、実は鮮肉が回る

 JR・近鉄松阪駅に降り立つと、駅前のロータリーに沿って小さな松阪牛のモニュメントが並ぶ。ここから松坂城跡や市役所がある中心部にかけて、老舗すき焼き店の「和田金」「牛銀本店」や、「ステーキハウス三松」など有名店が点在している。こうした高級店で最高ランクの松阪牛を注文するなら、1人当たり1万円を超えることを覚悟しなければならない。だが一方で、地元・松阪には庶民にも手が届くリーズナブルな店も少なくない。

回転レーンは冷蔵ケースを兼ねている(一升びん宮町店)

回転レーンは冷蔵ケースを兼ねている(一升びん宮町店)

 まず訪れたのが「一升びん宮町店」。一升びんは松阪を中心に比較的低価格の焼肉店を展開しているが、何も知らずに宮町店を訪れれば、回転ずし店に迷い込んだと思うだろう。店内では回転ずし同様、色の違う皿に載った肉がレーン上をぐるぐると巡っているのだ。

 肉の鮮度を保つために透明カバーで覆って冷気を満たした特注レーンで、皿を取り出す時にボタンを押してカバーを開ける仕組みになっている。1皿は100~1150円で、メニューは松阪牛だけでも15種類。さっそく最高価格の「松阪肉特選」(1150円)をレーンから取り出し、特製の味噌ダレを絡めて焼いてみる。とろける脂が甘辛いタレと絶妙なハーモニーを奏で、松阪牛の実力のほどを思い知らされる。脂のしつこさも感じない。「松阪肉赤身」(550円)は赤身といいながらサシも入っている。4月の消費増税に伴い価格改定を考えているというが、「松阪肉カルビ」(650円)などと松阪牛らしからぬ価格帯のメニューが並ぶ。「松阪肉切り落とし」に至っては350円。歯応えのある赤身だが、松阪牛らしいうまみも感じられた。

 「松阪牛を一頭買いしているため、様々な部位を楽しんでもらえるように、社長が回転ずしスタイルを考えた」(山口幸治店長)という。一皿の量は一升びんの他店の約半分で、価格も半分程度にしており、色々な部位を試しやすくなっている。

 一升びんにはもう一つユニークな店がある。「一升びん本店はなれ」。3年ほど前に「一人旅で来ても気兼ねなく食べられるように」(浅井松寿社長)と開店。松阪牛のすき焼きとしゃぶしゃぶを1人用の鍋で提供する。最高級「A5」の松阪牛を使った「松阪牛 特撰すき焼」でもご飯などが付いて5500円。最初はスタッフが焼いてくれるが、後はセルフサービスにすることで人件費を抑え、値ごろ感を出しているという。訪問時には撮影に時間を取られて少し焼き過ぎてしまったが、それでも驚くほど柔らかく、マグロのトロを思わせる味わいだ。味付けは割り下を使う関東風。カウンター中心の気軽な雰囲気だが、予約が必要なので注意が必要だ。

簡単にかみ切れる松阪タン

手前中央から時計回りに「松阪肉特選」「松阪肉バラ」「松阪肉カルビ」「松阪肉切り落とし」「松阪肉赤身」(一升びん宮町店で)

手前中央から時計回りに「松阪肉特選」「松阪肉バラ」「松阪肉カルビ」「松阪肉切り落とし」「松阪肉赤身」(一升びん宮町店で)

 産地ならではの焼き肉が松阪牛のホルモン「松阪ホルモン」だ。高級ブランドの松阪牛と庶民的なイメージのホルモンの組み合わせはミスマッチとも思えるが、市内には松阪ホルモンを提供する店が少なくない。一升びんのような焼肉店でも味わえるが、「元祖ホルモン」をうたう「脇田屋 本店」を訪れた。

 3代目になる店長の脇田明さんによると、1965年に牛肉の仲買人をしていた祖父が「捨てられている部位で何か商売を」と考え、松阪ホルモンを出す店では最も古いという。「塩タン」以外は全て松阪牛の内臓肉を使用している。炭火を起こした七輪に網を乗せ、赤味噌がベースのタレを絡めて焼く。

 まず挑戦したのが人気の「ヒモ」(600円)。牛の小腸で白いブヨブヨした部位だが、一般の店ではこれを「ホルモン」と呼ぶ。炭火から大きく炎が上がり、食べる前から脂たっぷりの様子がよく分かる。口に入れるとプルプルした食感で、脂はミルクのような上質な甘みを感じる絶品だ。脇田屋のメニューにある「ホルモン」(600円)は大腸の「シマチョウ」、ヒモ、レバーなど5種類の内臓の盛り合わせで、1皿で様々な部位を楽しめる。

手前左から時計回りに「ホルモン」「ヒモ」「松阪牛 特上タン」(脇田屋 本店で)

手前左から時計回りに「ホルモン」「ヒモ」「松阪牛 特上タン」(脇田屋 本店で)

 同店を訪れたら、ぜひ試したいのは「松阪牛 特上タン」(1600円)。仙台の牛タンでも外国産が大半とされる中で、松阪牛のタンは貴重だ。レモンを搾り、塩とコショウを振ってシンプルに焼く。簡単にかみ切れるほどの柔らかさで、表面にうっすらと浮き上がった脂も上品な味だ。松阪ホルモンは基本的に松阪周辺でしか味わえない。「地元でほとんど消費され、域外に出回らない」(脇田さん)からだという。

 松阪で最近注目を集めているのが「松阪鶏焼き肉」だ。濃厚な味噌ダレが特徴で、「B―1グランプリ」にも昨年、初参戦した。その活動の中心になっている街おこし団体「Do it! 松阪鶏焼き肉隊」のメンバーに同行してもらい、鶏焼き肉を提供している店を訪れた。松阪駅から車で20分ほどの場所にある「鳥広」。市内に約20店あるという鶏焼き肉の店の中でも30年前から営業している老舗の一つで、店内に入ると香ばしい匂いが鼻孔をくすぐる。

 松阪鶏焼き肉隊代表の森下桂子さんによると、「地元の農家や養鶏場の人が卵を産まなくなった鳥を廃棄せず、七輪で網焼きにして食べたのが発祥」とか。鳥広ではその廃鶏を「ひねどり」(430円)として提供している。赤味噌がベースの甘めのタレを絡めて網焼きにする。砂肝とも違う独特の弾力があり、初めて体験する食感だ。「かみ続けることで味が出る」(店主の北出逸夫さん)。一方、「わかどり」(450円)はすぐにかみ切れるほど柔らかい。わかどりは朝びきの松阪産「錦爽どり」にこだわっており、生でも食べられるほどの新鮮さという。

「松阪鶏焼き肉」は鶏肉に味噌ダレを絡めて網焼きにする(鳥広で)

「松阪鶏焼き肉」は鶏肉に味噌ダレを絡めて網焼きにする(鳥広で)

 もう一軒、比較的新しい「鶏金」にも足を運んだ。松阪鶏焼き肉隊は鶏肉を味噌ダレで網焼きにしたものを「松阪鶏焼き肉」と定義しているが、ここでは人気メニューという塩味の「若鶏」(480円)を注文した。焼いてからショウガの効いたしょうゆダレで頂く。味噌ダレとは違うあっさりした味わいで、いくらでも食べられそうだ。店長の小柳昇さんのお薦め品「皮」(480円)は焼くとパリッとなり、焦げ目の苦みとしょうゆダレの相性が抜群。「松阪は牛肉が有名だが、地元では焼き肉といえば手ごろな値段の鶏肉を食べる方が多い」(森下さん)

豚も地名度向上めざす

 松阪には最近、知名度が上がっているもう一つの肉がある。その名も「松阪豚」。松阪駅の近くにある「美豚本店」は卸業者のミスズが設けた店舗で、焼き肉などが味わえる。安田芳史社長によると、松阪市の畜産農家が優良な三元豚を掛け合わせ、約30年かけて開発したという。バラ、ロース、肩ロースを盛り合わせた「本日のおまかせセット」(税別880円)を用意してもらった。脂身が多く、焼き始めると透明な脂が溶け出る。一番人気のバラを塩コショウで食べてみた。とろける脂身が甘く、濃厚なうまみを感じる。過去に食べたことがないくらい濃い豚の味だ。肩ロースは少し歯応えがあるが、やはり脂身が多い。「通常の豚より脂が溶ける温度が低く、うまみ成分のアミノ酸も豊富」と安田社長は説明する。

美豚本店の松阪豚焼き肉「本日のおまかせセット」(写真は2人前)。皿の上半分が「バラ」。手前左が「ロース」、右が「肩ロース」

美豚本店の松阪豚焼き肉「本日のおまかせセット」(写真は2人前)。皿の上半分が「バラ」。手前左が「ロース」、右が「肩ロース」

 肥育期間は通常の豚で150日、ブランド豚で180日。ミスズはそれを生産者に210~230日と長くしてもらうことで、「背脂が多くなり、サシが増える」(安田社長)という。こうした肉質の高さが評価され、ミスズが取り扱う松阪豚は昨年、三重県から「みえセレクション」に選定された。

 気候が温暖で自然豊かな三重県は食材が豊富だ。海の幸では伊勢エビやアワビなど全国に知られる食材が多い。天照大神も海の幸の豊かさを気に入り、伊勢に鎮座したと言い伝えられている。焼き肉文化が根付いている松阪を食べ歩き、改めて三重の食の豊かさに触れた気がした。(横田勇人)


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