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選手強化「JOCに長年のノウハウ」 竹田恒和会長

2014/6/6 7:00
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日本経済新聞 電子版

日本の選手強化の仕組みが大きく変わろうとしている。来年4月発足を目指すスポーツ庁のあり方を議論する超党派スポーツ議員連盟のプロジェクトチーム(PT)が、同庁発足後はトップアスリートの強化を国主導で行う方針を打ち出した。日本スポーツ振興センター(JSC)を改組して設ける独立行政法人に選手強化のための公的資金を一元化し、競技団体(NF)に配分する仕組みに改める。これまでNFへの配分役を中心的に担ってきた日本オリンピック委員会(JOC)は反発している。JOCの竹田恒和会長に聞いた。

「JOCの選手強化は実績が上がっている」と竹田会長は話す

「JOCの選手強化は実績が上がっている」と竹田会長は話す

競技団体の強みや課題「最も把握」

――なぜ、JOCが強化を担わないとだめなのか。

「JOCには長年、NFと積み上げてきたノウハウがある。実際、2年前のロンドン五輪でメダル獲得数が史上最多の38個となったように成果も出ている。それなのに、東京五輪まであと6年しかないなかでシステムを一から作り直すことはリスクが大きい。NFも不安を感じている。やり方を変えて、もし失敗したら誰が責任を負うのか」

「我々の要望がかない、2008年にはナショナルトレーニングセンター(NTC、東京・西が丘)が完成した。NTCができてJOCとNFの信頼関係はさらに深まった。NTCを拠点にしたエリートアカデミー(ジュニアの有望選手を中高一貫の全寮制で養成している。卓球やフェンシングなど5競技で実施)などの取り組みも成果を挙げている。各NFの強みや課題、中長期的な強化計画を最も把握しているのは我々JOCだ。強化は現場に一番近いところでやるべきだ」

3つの柱から切り離すことはできず

――JOCは選手強化、総合国際大会への派遣、オリンピックムーブメントの推進という3事業を「三位一体」だと主張している。

「我々は3事業を(税制優遇が受けられる)公益事業として展開している。そのなかで強化は単に『強い選手』を作るということにとどまらない、ということだ。人間性を磨いたり、チームジャパンの一員としての意識を高めたりすることに重きを置いてきた。国際大会に派遣されるときに初めて日の丸や五輪マークの重みを知るような選手では、国の代表という自覚は芽生えづらい。我々はジュニア時代から尊敬されるアスリート像や五輪の理念を教えていくことで、人間教育にも取り組んでいる。国際オリンピック委員会(IOC)憲章にも、若者の模範となる選手を育てることが使命だと書かれている。そうした選手が活躍することが五輪の理念や価値を伝えていくことにつながる。これは1991年にJOCが日本体育協会から分離独立した際に明確化された役割だ。だから、3つの柱から強化だけを切り離すことはできない」

――この2年ほど、JOC傘下の競技団体で公的な選手強化資金の不適切処理や暴力問題など不祥事が次々と明るみに出た。スポーツ界への不信がJOCから強化費配分の権限を切り離す議論が高まった背景にある。

JOCのエリートアカデミー入校式を終え、在校生と一緒に記念写真に納まる新入生(4月5日)

JOCのエリートアカデミー入校式を終え、在校生と一緒に記念写真に納まる新入生(4月5日)

踏み込んだ指導できる立場にない

「不祥事が相次いだことは、スポーツ界としても真摯に反省しなければいけない。だが、JOCは内閣府から認可された公益財団法人。競技団体も同じく公益財団法人が多く、つまり我々とNFは同じ立場だ。傘下の競技団体の不祥事を防げなかったJOCの監督責任が問われて今の議論になっているようだが、そもそも我々は内政干渉のようにNFに対して踏み込んだ指導ができる立場にはない。認可を我々がしていれば、もっと色々なことができるのだが」

――JOCの指導監督的な立場に限界があるからこそ、国主導という話になっているのではないか。

「現在、選手強化に使える公金はJOCと日本スポーツ振興センター(JSC)という2つの『蛇口』がある。これが各NFの事務局にとって経理業務や事務作業、会計管理の面で負担になり、ひいては不正受給の一因になってきた面は確かにあるだろう。だから、資金の流れを一本化する考えには我々も賛成だ。ただ、資金の蛇口を(JOCから国主導に)変えれば解決するというのは違和感を感じる。どこからカネを流そうが、NFの根本的な体質改善をしないとガバナンスは担保できない。それは国がやるよりも、スポーツ界が自らやるのが本来の姿だと思う」

「多くのNFが人員的にも余裕がないのは事実だ。JOCの中にNFの財務や会計、法務などを支援するセンターを組織し、専門家を入れるバックアップ体制の整備を考えている。資金をJOCに一元化してもらうことで、そういうことも可能になる」

「責任負うからには権限も」

――JOCは強化施策のアイデアや各競技の実力を測る評価基準を提供するだけではダメなのか。

「強化は生き物で、データの提供だけで実情は分からない。それに、もし失敗した時、『JOCのデータ通りにやった結果』と責任だけ取らされることは納得できない。責任を負うからには(資金を一元化して預かる)権限も与えてほしい」

「スポーツ議連PTの遠藤利明座長(衆院議員)と話した時も『JOCを外すつもりはない。JOCは(強化において)もっとも重要な団体』と言ってくれた。だが、(新法人に資金を一元化する)新体制のなかで、JOCがどこまで絡んでいけるのか、不安がある」

「我々は20年東京五輪のレガシー(遺産)を後世に伝えていく役割もある。五輪後も継続的に資金が必要だ。国が20年以降もスポーツ界に支援を続けてくれる保証はどこにもない。将来にわたってのスポーツ振興という観点からも、JOCが強化を担うべきだ」

運命共同体の意見ばかりではなく

――各競技団体が何を望んでいるかも重要だ。必ずしもJOCと運命共同体の意見ばかりでないように感じる。

「そんなことはないと思う。今、東京五輪の強化における国への要望書を作成するためにNFにアンケートを取っているが、JOCによる強化を継続してほしいという声が大半だ。こうしたNFの声や、JOCへの強化資金の一元化要求を盛り込んだ要望書を(スポーツ界の総意として)6月中に議連などに提出したい」

――1980年モスクワ五輪のボイコットの反省から、JOCは政治の影響を受けず自立するため、91年に日本体育協会から分離独立した。ただ、今のスポーツ界は国の支援に頼らざるを得ないというジレンマを抱えているように見える。

「それは否定できない。独立後のバブル崩壊で民間資金を取り込むことが難しくなった一方、他国は国家から巨額の支援を受けて強化を図る流れが強まってきた。スポーツは国民全体で支えるもの。国からも一定の支援を受けるのはいいと思う。民間資金を入れ、足りない部分を国に補ってもらう形が一番いいのであって、全てを国が主体的に担うことには色々な問題があるのではないか」

「オールジャパンになる必要」

――実は、強化費の一元化議論は数年前からあった。JOCを通さずに国直轄でメダル有望種目を支援する「マルチサポート事業」の予算は、既にJOCが得ている国庫補助金額を上回っている。今回の議論では、永田町でのロビー活動などでJOCの動きも遅かった印象もある。

「昨年は東京五輪招致が最優先事項だった。東京五輪が決まり、新たな強化体制を組まなくてはならなくなった。我々の作ってきた中長期の強化計画の組み直しにも時間がかかった。(政治家への陳情などの)スタートが遅くなったのは間違いないが、仕方なかったと思う」

「スポーツ議連PTの有識者会議では、JOCの意見をなかなか取り入れてもらえていない印象がある。昨年11月に始まった有識者会議の議論で、最近になって急にあの案(JOCを公的資金の配分役から外す案)が出てきて驚いている。それが甘いと言われれば甘いのかもしれない。だが、これは争いではない。東京五輪まで6年しかない中で争っている場合ではない。オールジャパンになることが必要だ。よりよりスポーツ行政にするため、引き続き我々の考え方を伝えていきたい」


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