日本経済新聞社

記事利用について
印刷 印刷

集団移転、持続できるまちに(震災取材ブログ)
@宮城

2012/6/29 7:00
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

 被災地を歩いていると、しばしば過疎の問題に直面する。かねて人口減少が進む地域が大津波に見舞われ、住民の流出に拍車が掛かった、という地域は少なくない。「過疎が一層進む中で、対策は?」。以前、被災した自治体の復興について助言するまちづくりの専門家に尋ねた。返答は「あなた、簡単に過疎対策と言うけど、どうしたらいいと思うの?」。逆に質問されて、口ごもってしまった。

集会で住民一人ひとりが「小泉のいいところ」を記入(昨年11月、宮城県気仙沼市)

集会で住民一人ひとりが「小泉のいいところ」を記入(昨年11月、宮城県気仙沼市)

 昨年来、住民主導で125世帯が高台への集団移転を目指す宮城県気仙沼市の小泉地区を取材している。北海道大教授の森傑(すぐる)さん(38)をアドバイザー役に迎え、住民が2週に一度集まり、移転後の街並みや建築協定などについて話し合う。みな被災者とは思えないほど、生き生きとまちの将来像を議論するが、小泉地区とて過疎と無縁ではない。

 今回の震災で集団移転を検討するのは、岩手、宮城、福島の3県だけでもざっと2万世帯。国の防災集団移転促進事業は、高台の土地の造成費やインフラ整備費が実質的に全額国庫負担となる。つまり税金が使われる。移転が実現しても、元来高齢者が多い地域で、10年、20年後にまちが“限界集落”になってしまう可能性がある。

 同じく津波で大きな被害に遭った宮城県女川町。昨年5月ごろ、五部浦湾の漁師町の高台移転を取材した。町は当初、湾に面した7つの集落を1カ所の高台に集約する案を提示した。当時の町長は住民説明会で「集落ごとの高台移転では将来、人が少なくなってコミュニティーが保てなくなる可能性がある」と指摘した上で「復興には大変なお金がかかる。どんな計画なら国民みなに理解されるのか。苦しいから救済されて当たり前という感覚ではダメだ」と集約に理解を求めた。

 これに対し、漁師らは「浜から遠くなれば、しけの時に船を守れなくなる」などと強く反発。都市部で育った私には分かりづらかったが、集約で「よそ者の目」を気にしながらの生活は「不安でたまらない」(60代の漁師)との声も聞いた。一方で、若い世代には1カ所への集約化に賛成する声もあった。「人口が増えれば、商店や医療機関が整備されるかもしれない」というのがその理由。結局、町は集落ごとの高台移転を進める計画に軌道修正した。

 住民の意向にはできる限りの配慮は必要だ。宮城県知事が復興庁を「査定庁」と批判した発言も記憶に新しい。「壊滅」という言葉が使われた被災集落を前にして、「着のみ着のままで逃げ出し、家も何もかも失った気持ちがわかるか」と言われれば、私も返す言葉はない。半面、国も地方も財政逼迫が叫ばれる時代には厳しいコスト意識が求められる。震災復興を巡る公金の使い道にはジレンマが横たわる。

 森さんは兵庫県尼崎市出身。関西の大都市から北海道へ移り、過疎地を目の当たりにするうち、「過疎対策イコール若者呼び込み」という図式の対策に限界を感じた。「まちとして、いかに美しく消えるか」が関心事になったという。「極端に言えば、歴史上、未来永劫(えいごう)続く都市なんかありません」

 とはいえ、森さんはまちの将来を悲観しているわけではない。過疎を受け入れた上で、古里の未来をどう描くか。「まちの整体」――。しばしばこんな表現を使って住民に呼び掛ける。「過疎化が進むまちで、今あるコミュニティーの結束を維持し、発展は無理でも、将来の生活の水準を低下させず、横ばいを維持しよう、と。人間で言えば、社会の第一線を退いた高齢者がいかに健康で豊かな余生を生きるかがテーマです」

 その上で、森さんは莫大なお金をかけて移転をするからには、住民側にも将来への責任が生じると考える。「被災された方のダメージが大きいのは全国民の共通認識だが、公金を使うからには、形(宅地や家)が整うだけでは筋が通らない。暮らしの中身が伴ってこその集団移転」。小泉地区の集会は、住民にとっては当たり前だったかもしれない「小泉のよさ、残すべきもの」を再確認するところから出発した。議論を通じて、いまの世代に、未来の世代への責任を意識してもらおうとの狙いがのぞく。

 周辺では小泉より小規模の集落が高台移転を計画する。その集落が高齢化と人口減少で立ちゆかなくなった時、「期せずして、集約化が図られるかもしれない」と森さん。「その時は、周辺から頼られる小泉であってほしい」。子供からお年寄りまで、安心して生活できる魅力的なまちであれば、周辺から住民が流入する受け皿になれるはず、と。

 7月2日、森さんは静岡県沼津市に出かける。津波に対する予防的な集団移転を計画中の同市内浦重須地区で、住民向けに講演するためだ。「安全をどう確保するかにとどまらず、将来も持続可能なまちをどうつくるかについて、考えてもらえるきっかけになれば」と話している。(黒滝啓介)


本サービスに関する知的財産権その他一切の権利は、日本経済新聞社またはその情報提供者に帰属します。また、本サービスに掲載の記事・写真等の無断複製・転載を禁じます。