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気候変え地球を冷やす ジオエンジニアリングに脚光
編集委員 吉川和輝

2010/6/4付
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

ジオエンジニアリング(地球工学)という言葉をよく聞くようになった。地球の気温を下げるために、人工的に雲を増やしたり、空に微粒子をまいたり、宇宙に太陽光を反射する鏡を置いたりするといった各種の気候改変の技術を指す。二酸化炭素(CO2)の排出削減がなかなか進まない中で浮上した応急手段だが、副作用を心配する声が早くも出ている。

海水中の塩分をスプレー状にして大気にまいて雲を増やす船の想像図。英米の研究者が提案している。

海水中の塩分をスプレー状にして大気にまいて雲を増やす船の想像図。英米の研究者が提案している。

英国学士院は昨秋、ジオエンジニアリングについて包括的に検討した報告書を発表した。英議会下院の科学技術委員会も今年、同技術の規制・統治に関する報告書をまとめた。また、米有力シンクタンクの外交問題評議会(CFR)や米科学振興協会(AAAS)も、ジオエンジニアリングをテーマにした専門家会合を開いている。

英国学士院の報告書では、入射光を減らすための手段として「建物などの外側を白く塗る」「砂漠に反射板を設置する」「海や雲の反射率を高める」「微粒子を成層圏に散布する」「宇宙に太陽光を反射する鏡を置く」などを挙げている。実現に向けては、国際的な検討の場を設けて、効果的な手段を絞り込むことと、効果やコスト、リスクを評価することが必要としている。

ジオエンジニアリングの効果は自然界である程度実証済みとも言える。大規模な火山噴火は地球の温度を下げる。硫酸エーロゾルなど微粒子が成層圏中を長期間漂い、入射光を減らす。1991年のフィリピン・ピナツボ火山の噴火の時は、地球の平均気温が最大で0.4度下がったとされる。

一方、こうした技術を導入した場合の懸念材料も浮かんでくる。まず、有害な物質を散布することによる、汚染や健康被害の問題だ。

地球工学の主な手法(英国学士院報告書より)
二酸化炭素(CO2)除去
炭素吸収を促進するための土地利用管理
炭素固定のためバイオマス活用
風化作用の促進
大気中からCO2を直接吸収
海洋のCO2吸収を促進
太陽放射管理
地球の反射率を高める(例:建造物を白く塗る、砂漠に反射板を置く)
雲の反射率を高める
成層圏に硫酸エーロゾルをまく
宇宙に反射板を置く

また、空にチリなどをまいた場合、地球全体の平均気温が下がることは確かだが、地域別の影響の予測は難しい。局地的に極端な寒冷化が起こり、農産物の不作を招くこともある。地域的な予測ができたとしても、「被害」を被りそうな国は反対するだろうから、国際的な調整は難しくなる。

また、ジオエンジニアリングのような対症療法に頼ることで、温暖化ガスの削減という「本筋」の対策がおろそかになるとの議論もある。

3月末には、米カリフォルニア州アシロマに科学者約200人が集まり、ジオエンジニアリング研究のガイドラインを検討する会議を開いた。アシロマは1975年に遺伝子組み換え技術の規制に関する科学者による会議が開かれた場所。今回の会議では結論は出なかったが、遺伝子組み換え技術と同様、ジオエンジニアリングでも、規制をかけつつゴーサインを出すことになるのかどうか注目される。

温暖化ガスの削減交渉に展望が見えない中、ジオエンジニアリングは様々な議論を呼びつつも、関心が高まりそうだ。


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