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[FT]独仏、日本より優勢か 白熱する豪の潜水艦受注合戦

2015/10/7付
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

 オーストラリアの新型潜水艦を建造する500億豪ドル(355億米ドル=4兆2000億円)規模の契約を巡る政治色を帯びた争いが白熱するなか、受注を狙うフランス企業が、現地で数千人の雇用を生み出し、機微な軍事技術を共有することを誓った。

■「仏技術の『至宝』を供与」

 仏DCNSオーストラリア法人のショーン・コステロ最高経営責任者(CEO)は先週、フランス政府とオーストラリア政府の戦時中の同盟関係に言及した冊子を用意し、アデレードの造船所労働者や経営幹部、政治家に向かって、DCNSは彼らのニーズを満たす絶好の立場にあると語った。さらに、同社が共有を申し出ているステルス技術は「フランスの潜水艦設計の『至宝』であり、他国に提供されたことは一度もない」と述べた。

 両国の現存する防衛関係を浮き彫りにするように、フランスのタレス・グループは5日、オーストラリア国防軍のために1000台の装甲車両を生産する15億豪ドル規模の契約を勝ち取った。

 コステロ氏が先週売り込みに励んでいたころ、ドイツの海軍トップはアデレードで国営造船会社ASCと会談し、ドイツ政府の競合プランを売り込んでいた。

 今週は日本の政府関係者と業界幹部らがシドニーのパシフィック・インターナショナル・マリーン・エキスポに飛び、オーストラリアの老朽化するコリンズ級潜水艦に取って代わる潜水艦8隻を設計・建造する日本の計画の利点を売り込む。

 巧みなロビー活動は契約の価値を浮き彫りにする。建造で200億豪ドル、メンテナンスで300億豪ドルに上る大型プログラムなのだ。こうした動きは、アデレードで数千人の雇用を支える一方で、オーストラリアを外国の大国との防衛関係に縛りつける可能性のあるプロセスの政治化を反映している。

■日本案支持、アボット氏失脚の一因に

 日本で潜水艦を建造するという日本政府の提案を支持したことは、トニー・アボット氏の失脚の一因となった。同氏は9月、同じオーストラリア自由党のマルコム・ターンブル氏に首相の座を奪われた。

 「潜水艦問題はトニー・アボットの首相の地位を弱めた要因の一つだった」。オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)のアンドリュー・デイビス部長はこう言う。「日本との取引を追求したことは、彼を難しい状況へ追いやった『キャプテンの決定』(独断的な判断の意)の一つと見なされた」

 日本政府と契約すれば、オーストラリアと日本の防衛関係が強化されたはずだった。どちらも米国の同盟国であり、米国は強まる中国の自己主張とアジア太平洋地域での潜水艦軍拡競争について懸念している。だが、アボット氏は、オーストラリアの造船の中心地が持つ強い感情を甘く見ていた。南オーストラリアは、目前に迫った自動車産業の閉鎖と、失業率をオーストラリアで最高の8%に押し上げた鉱業の不振で揺らいでいる州だ。

 「今では潜水艦がオーストラリアで建造されることを確信している」とショーン・エドワーズ氏は言う。同氏は、アボット氏の辞任に票を投じた南オーストラリア州の自由党議員7人のうちの1人だ。

 安倍晋三首相と親密な関係にあったアボット氏の退任で、日本政府は警戒している。日本は海外の防衛契約を獲得するために争った経験もなければ、外国の造船所で建造される潜水艦の設計を監督した経験もない。新たな政治情勢の中で、日本政府は先週、ASCとともにアデレードで潜水艦を建造する意思があることを示唆した。

 オーストラリア国立大学のヒュー・ホワイト教授は、ターンブル氏がアボット氏の戦略目標を共有する可能性は低いことから、現地での建造を求める圧力は、日本政府が受注合戦で有力候補から見込みの低い入札者に転じたことを意味していると言う。

 「勝算は欧州の競争相手に振れる。欧州勢の方が潜水艦の輸出ではるかに優れた実績があり、日本との取引がもたらしかねない地域の戦略的問題も少ない」

 アナリストらの話では、日本のそうりゅう型潜水艦は航行可能距離を延ばすために設計を変更する必要があるものの、日本はオーストラリアの要求を満たすだけの規模がある現役潜水艦を持つ唯一の入札者だという。また、オーストラリアの潜水艦が利用する米国の兵器システムを統合した、日本なら持っている経験が、DCNSにはない。

■独仏、キーマンを起用

 だが、日本は、受注計画を推進するために現地の幹部を起用したライバル企業に裏をかかれる恐れがある。DCNSのコステロ氏は元ASC幹部で、元国防相の首席補佐官を務めた経験がある。ドイツの造船大手ティッセンクルップ・マリン・システムズ(TKMS)は、ドイツの設計によるアンザック級フリゲートのオーストラリアでの建造を指揮したジョン・ホワイト氏を起用した。

 「TKMSは1960年代以降、20を数える世界中の海軍のために163隻の潜水艦を建造する契約を結んできた。そのうち50隻以上が顧客の国で建造されたものだ」。取引の一環としてTKMSがASCを買収する可能性を示唆したホワイト氏はこう話す。

 受注を目指す3者は皆、オーストラリアでの建造か、ハイブリッドの選択肢に労力を集中させている。ハイブリッドの場合、初期の作業が外国で始まる。コステロ氏はDCNSとしてはどちらでも構わないと強調しつつ、「ハイブリッドの方が早くて安い選択肢だ」と語る。

 TKMSの資料によれば、同社はオーストラリア人労働者にドイツの先進製造業の訓練を受けさせ、アデレードをアジア太平洋の造船のハブとして確立することを提案している。これは労働組合と供給会社の間で人気を得ているアイデアだ。オーストラリア製造業労働者組合(AMWU)のグレン・トンプソン氏は「我々はどの設計が勝とうと構わないが、すべてオーストラリアで建造されるべきだ」と話している。

By Jamie Smyth in Adelaide

(2015年10月6日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

(翻訳協力 JBpress)

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