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「ドラクエ」生みの親が明かすヒットの方程式

2015/3/12 7:00
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日本経済新聞 電子版

スクウェア・エニックスが2月26日に発売したゲームソフト「ドラゴンクエストヒーローズ」が好調だ。発売1週間で約60万本を売り上げ、家庭用ゲーム機向けとしては久々のヒットを飛ばす。辛口のネットユーザーの間でも評価が高い。ゲーム制作を監修するゼネラルディレクターは、ドラクエシリーズでおなじみのゲームデザイナー・堀井雄二氏。「説明書を読まないで、誰でも楽しめる」という最新作は、登場するのはドラクエ世代には懐かしいキャラクターだが、人気のアクション仕立てにした点が新しい。古いファンから新しいファンまでとりこになる最新ゲームは、日本市場では苦戦する「プレイステーション(PS)4」の起爆剤になるのか。

■「シブサワ・コウ」氏との夢のコラボ

「ドラゴンクエストヒーローズ」はコーエーテクモゲームスで実績がある「無双」と「討鬼伝」のいいとこ取りで生まれた

「ドラゴンクエストヒーローズ」はコーエーテクモゲームスで実績がある「無双」と「討鬼伝」のいいとこ取りで生まれた

「ドラゴンクエスト」は1986年に第1作が発売された人気シリーズ。「ヒーローズ」はシリーズ初のアクションゲームで、「PS3」と「PS4」の2機種で遊べる。派生作品とはいえ、ドラクエの最新作が「PS」で楽しめるのは実に10年ぶりだ。

「ドラクエでアクションゲームを作りませんか」――。始まりは5年前、コーエーテクモゲームス社長の襟川陽一氏が堀井氏に投げかけた一言だった。歴史シミュレーション「信長の野望」を生んだ「シブサワ・コウ」として知られる襟川氏は、共にゲーム産業を切り開いてきた戦友。「いつか一緒にゲームを作りたかった」という堀井氏は申し出を快諾した。開発は「三国無双」などのヒット作を開発するコーエーの精鋭部隊「オメガフォース」が担うことになった。

しかし、ゴーサインはなかなか下りなかった。オメガフォースが持ち込むゲーム案をスクエニがことごとく突き返したからだ。「これほど固いとは」。開発責任者の小笠原賢一執行役員は困惑した。

押し寄せる大勢の敵を一撃でなぎ倒す「無双」の爽快感を、ドラクエの多彩なモンスターを相手に再現できれば傑作になるとの確信があった。過去には「機動戦士ガンダム」が題材の「ガンダム無双」などを成功させた実績もある。だが、スクエニは虎の子のドラクエで安易な「ドラクエ無双」を作るのは避けたい。溝が埋まらず、交渉が途絶えた時期もあった。

潮目が変わったのは2013年夏。きっかけはオメガフォースの新作「討鬼伝」のヒットだった。巨大な鬼を討伐するハンティングアクションのヒットを目の当たりにして、スクエニが歩み寄りを始めた。ドラクエには「スライム」から「ギガンテス」まで大小様々なモンスターが登場する。大勢の敵を倒す「無双」と巨大な敵を倒す「討鬼伝」のいいとこ取りができる。

スクエニが提示した発売日は15年2月。開発期間は1年半もない。通常、ゲーム開発は大作ともなれば数年間を投じる長丁場だ。それでも、小笠原氏に迷いはなかった。「ドラクエに出会わなければ、いまの自分はない」と小笠原氏は話す。「コーエーにいながらドラクエが作れる。こんなチャンスは二度とないぞ」とチームを鼓舞した。メンバーにはコーエー屈指のドラクエ好きが集まっていた。

「開発が始まると、意外なほど自由にやらせてもらえた」と小笠原氏は振り返る。「これはやり過ぎたか」と恐る恐る差し出した演出もあっさり承認されて拍子抜けした。「無双」をほうふつとさせる派手なアクションをふんだんに盛り込めた。スクエニでドラクエシリーズのプロデューサーを務める青海亮太氏は「開発チーム全員がドラクエを知り尽くしていて、シリーズの世界観をしっかり守ってくれた」と話す。

しかし、ゼネラルディレクターの立場でゲーム作りを監修する堀井氏が立ちはだかる。

コーエーテクモゲームスの小笠原賢一執行役員兼ソフトウェア3部長の下には「ドラゴンクエスト」を知り尽くすメンバーが集まった

コーエーテクモゲームスの小笠原賢一執行役員兼ソフトウェア3部長の下には「ドラゴンクエスト」を知り尽くすメンバーが集まった

「ドラクエファンにはアクションゲームの未経験者もいる。彼らでも気持ちよく遊べなきゃダメだ」。堀井氏は徹底して、簡単、気軽に遊べるゲームにこだわった。「これじゃわかんないよ」「ここ難しくないか」。週1回のペースで開発途中のゲームを試遊し、プレーヤーが少しでもつまずきそうなポイントを見つけては修正を指示した。「開発者の都合でゲームを作ってはいけない」と堀井氏はいさめる。

「僕は何がダメかだけじゃなくて、こうしたらよくなるってところまで見える」。こう話す堀井氏のアイデアで生まれたのが「かんたん操作」モードだ。同じボタンを連打するだけで敵を倒し、必殺技まで繰り出せる。ゲームに親しみがない子どもや女性でも今作の醍醐味である爽快感が味わえる。「入り口は広く、奥行きは深く」こそ極意だ。

堀井氏との打ち合わせを重ねたコーエーの小笠原氏はその徹底したユーザー目線に舌を巻いた。「普段から社内でもわかりやすさは意識してきた。でも、堀井さんが求める簡単のレベルはずっと高いところにある」。青海氏も「堀井さんの言葉にはそういう見方もあったのかといつも気づかされる」と話す。「業界経験が長くなるほど、遊んでくれるユーザーの存在を忘れてしまいがち。30年以上も活躍する堀井さんがユーザー目線を逸脱しないのはすごい」。2人は口をそろえる。本人は「なぜかって聞かれてもわからないけど、お客さんの目線になれるんだよね」とうそぶく。

家庭用ゲーム機の苦境を見て、業界の先行きを悲観する声は多い。映像が高精細になるにつれて操作やルールが複雑になり、初心者には取っつきにくい作品が増えた。スマートフォン(スマホ)ゲームの勃興は頭でっかちになりすぎた家庭用ゲームのアンチテーゼでもある。ゲーム産業誕生から30年余り。家庭用ゲーム復権の突破口は基本に返ることかもしれない。

■堀井雄二に聞く開発裏話

堀井雄二氏は1986年に「ドラゴンクエスト」を生み出し、RPG(ロールプレイングゲーム)という新ジャンルを切り開いたゲーム業界の功労者だ。「ヒーローズ」の名付け親でもある堀井氏に開発経緯などを聞いた。

――「ドラクエ」シリーズで初めてのアクションゲームになりました。

「コーエーテクモゲームスの襟川陽一社長に『ドラゴンクエストでアクションゲームを作りませんか』との提案を頂き、面白いと話に乗った。コーエーはアクションのプロフェッショナル。安心して開発をお任せした」

「唯一心配したのは、モンスターをぶった切るのにプレーヤーが罪悪感を感じてしまうのではという点だった。そこで、まずは城に攻め込んでくるモンスターをやっつけるところから物語を始めた。降りかかる火の粉は払わなければいけないという目的を持たせるためだ」

――アクションゲームでドラクエの世界観を再現するのは難しかったのではありませんか。

「コーエーの開発メンバーも、声優の松坂桃李さんや桐谷美玲さんも、みなさんがドラクエファンで、説明は何もいらなかった。『ドラクエってこうだよね』という共通認識ができていた。幸せなことだ」

「登場人物の女格闘家『アリーナ』は1990年に発売した『ドラクエ4』のキャラクターだが、今作ではタイツをはかないデザインにした。すると、『アリーナは黒タイツをはいているはずだ』とネットの書き込みが相次ぎ、急きょ、3月5日の無料ダウンロードでタイツのコスチュームを追加した。ドラクエというコンテンツが僕の手を離れ、ユーザー側で進化している」

――「かんたん操作」モードは堀井さんのアイデアから生まれました。

「誰でも簡単手軽に遊べるゲームにしたかった。『かんたん操作』なら同じボタンを押すだけで敵を倒せる。ゲームに慣れていない子どもから女性まで楽しめる。『ドラクエ』から入ってきた人にはアクションゲームが苦手な人もいるはずと考え、レベルアップの要素を入れて操作が下手でも攻略できるようにした。入り口は広く、奥行きは深いゲームになった」

「ゲームを作るときは徹底してお客さんの目線になる。実際に遊んでみて、ユーザー目線の手触り感を確認する。すると、ここがわかりにくいということだけじゃなくて、こうすればいいというのが僕にはわかる」

――ユーザー目線を忘れがちな開発者もいます。

堀井雄二氏の「ドラゴンクエスト」はRPGのジャンルを日本に根付かせた。「2016年の30周年に向けて、イベントなどを計画中」

堀井雄二氏の「ドラゴンクエスト」はRPGのジャンルを日本に根付かせた。「2016年の30周年に向けて、イベントなどを計画中」

「開発側はいろいろな要素を入れたくなるものだが、開発者の都合でゲームを作ってはいけない。コーエーとは毎週打ち合わせを重ねた。彼らが作ってきてくれた試作に『これはいらない』『ここはわかりにくい』と指摘して、余分な要素を外してもらうこともあった」

「チュートリアルも丁寧に説明するのがいいと思いがちだが、説明が長くなるとやる気がうせる。5%を覚えれば、後はユーザーが必要な操作を習得していくものだ。5%を覚えて楽しめないなら、直感的に遊べないゲームの作り方が悪い。僕はゲームを遊ぶのに説明書を読みたくない」

――家庭用ゲームが苦戦し、ゲーム産業の未来を悲観する声もあります。

「まったく心配していない。ゲーム人口は増え続けている。スマートフォン(スマホ)ゲームは誰もがやっているし、ユーザーから見れば『LINE』や『フェイスブック』に投稿したり、応えたりするのもゲームだ。脱出ゲームのような参加型も人気になった」

「ゲームに慣れ親しんだ人が増えてきて、開発者にはやることがいくらでもある面白い時代だ。私はスマホでババ抜きのゲームを作ってみたい。ソニー系のヘッドマウントディスプレー『プロジェクト・モーフィアス』もある。いろいろな作り手がいてゲームの未来は明るい」

(企業報道部 新田祐司)


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