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たった1人でスマホゲームを作りヒットさせた男

2014/11/27 7:00
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

 たった1人で10万ダウンロードを突破したスマートフォン(スマホ)ゲームを作り上げた人物がいる。台湾出身のマ・ジェームスさん(37)だ。ゲーム好きが高じ、2012年から都内の自宅をオフィスにしてスマホゲームを作り始めた。プログラマーでもデザイナーでもないマさんが活用したのはクラウドソーシングなどのネットサービス。さまざまなジャンルで才能を持つ数十人の協力者と力を合わせ、一度も顔を合わせることもないまま今年5月のサービス開始にこぎつけた。

■仲間も資金もネットで募る

台湾に生まれ、大学入学後の半生を日本で過ごす。子どもの頃から日本の漫画やゲームが好きだったという

台湾に生まれ、大学入学後の半生を日本で過ごす。子どもの頃から日本の漫画やゲームが好きだったという

 開発したスマホゲームは「新生ヒストリカ」。実在した歴史上の人物を仲間にして、パズルを解きながら敵と戦う。パズルは同じ色のブロックを3つ以上つなげて消していくもので、人気のLINEゲーム「ディズニーツムツム」とよく似ている。卑弥呼やエリザベス女王など世界史を彩る人物が登場する。10万ダウンロードを突破し、アップストアのカードゲーム部門で1位になったこともある。

 「歴史をテーマにしたゲームシナリオを作りませんか」。マさんはクラウドソーシングサイトの「クラウドワークス」を利用する。最近も、歴史上の人物に割り当てるゲーム内のセリフやイベントストーリーを作成してくれるシナリオライターを募集した。

 クラウドソーシングサービスは子育てなどで離職した女性のほか、場所や時間を選ばないで仕事をしたいフリーランスが集まる。クラウドワークス(東京・渋谷)とランサーズ(東京・渋谷)が大手だ。

 「何度も応募してくれるお得意さんもいる」とマさん。ライターとはメールで密に連絡を取り合い、作業の進捗に応じて報酬を支払う。実際に会ったことはない。それでも何度も仕事を依頼し、情報共有するなかで、マさんはそれぞれの得意分野や仕事の癖を把握している。自宅マンションの一室でパソコン画面と向き合い、メールで次々に指示を出す。「自分はゲームの企画制作やプロジェクト管理に集中できる」とにっこり笑う。

パズルは同じ色のブロックを3つ以上、指でなぞって消す

パズルは同じ色のブロックを3つ以上、指でなぞって消す

 スマホゲームの重要な要素がキャラクターデザイン。マさんの意図をくみ取り、新生ヒストリカの世界観に合致した歴史上の英雄を予算内で描いてくれる「都合の良い」デザイナーはどこにいたのか。重宝したのが「ピクシブ」だ。

 ピクシブはイラストレーターが作品を投稿したり、お互いに評価し合ったりするサイト。プロ顔負けの作品を投稿するユーザーもいる。マさんはピクシブ上でゲームの趣旨を伝え、賛同してくれるイラストレーターを募った。細かな修正点はあるものの、ほとんどはマさんの思い描いた通りのキャラクターが出来上がってくるという。「イラスト制作会社に依頼した場合の半値以下で済む」と満足げ。これまでに描き上げた歴史上の人物は75人、イラスト数は260枚に達する。「最近のスマホゲームはキャラクターの妖艶さやかわいさを求めるものばかり」と嘆くが、個人だからこそ作りたいゲームが作れると実感している。

 こうして、あらゆる制作工程をネット経由でアウトソーシングし、ゲームを作り上げていった。主力のプログラマーは台湾に住むフリーランスのエンジニア。BGMなどの音楽を制作したのは学生だった。ゲームのメーンキャラクターや背景を描いたイラストレーターは絵描きが本職ではないという。「海外のクラウドソーシングサイトも試したが、納期や作業内容がいい加減なユーザーが多くて失敗した。仕事に対するコミットメントは日本のクラウドソーシングサービスに集まるユーザーが一番高い」

■課金収益は月に数十万円、既に黒字化

自宅マンションの一室がオフィス。1日中、マックの前に座り続けてゲーム制作に没頭する日もある。

自宅マンションの一室がオフィス。1日中、マックの前に座り続けてゲーム制作に没頭する日もある。

 運営や開発費もネットで募った。今年7月にクラウドファンディングサイト「キャンプファイア」で運営資金10万円を募ると、応募金額は1カ月もしないで10万円を突破。募集締め切りの9月2日時点で20人から合計33万2500円を集めた。「20年前に思い描いた夢がネットの力で現実になるなんて思いもしなかった」。赤裸々なマさんの告白に、多くの支援者が現れた。

 台湾に生まれたが、子どもの頃から日本の漫画やゲームが大好きだった。高校を卒業すると、日本の上智大学に留学。比較文化学を学んだ。卒業後は憧れのゲーム業界で働こうと名だたるメーカーを片っ端からまわったが望みはかなわなかった。

 中古ゲームの販売会社に勤めるなどしたが、スマホゲーム人気に感化されて一念発起。「家庭用ゲームは無理でも、スマホゲームなら1人で作れるかもしれない」。学生時代にはなかったクラウドソーシングなどネットサービスの充実もチャンスに見えた。制作期間は1年半。部屋に籠もる日々が続き、体重は20キログラムも増えた。

 ヒストリカの運営費はサーバー代などの固定費で月約10万円で、追加コンテンツの制作費で月20万円程度かかる。一方、課金収益は多い月で数十万円に達し、単月で黒字を達成している。妻子持ちだけに足元の状況にはホッとした様子だが、「年商6億円以上を稼ぐゲームを作る」と意気込む。

 最近ではヒストリカの完成度を見て、ゲーム制作のために設立した個人運営の株式会社GOPA(東京・中野)に出資の提案もあるという。故郷の台湾でもサービスを開始し、米国進出も検討している。たった1人で始めたゲーム作りが、ネットの向こう側にいる数十人のデザイナーやエンジニアを巻き込み、今まさに大きなうねりとなりつつある。

(新田祐司)


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