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バレー女子、リオへ課題 飛躍のカギはセッター宮下

2016/5/25 6:30
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日本経済新聞 電子版

 最終戦でオランダをフルセットの末に破り、世界最終予選兼アジア予選を3位(アジア1位)で終えたバレーボール女子の日本代表。負ければ終わりという大会を戦い抜き、当初の目標である4大会連続の五輪出場を決めたが、苦しい試合の連続だった。リオでは2012年ロンドン五輪の銅メダルを超えるという目標を掲げるが、真鍋政義監督は「このような試合をしているとメダルは不可能」と危機感を募らせている。

リオ五輪出場を決め、記念撮影するバレー女子日本代表ら=共同

リオ五輪出場を決め、記念撮影するバレー女子日本代表ら=共同

 最終予選では開催国が2試合の日程と対戦国を指名できる。真鍋監督は初戦ペルー、2戦目カザフスタンという力の落ちる相手を選んだ。序盤で3-0のストレート勝ちを続けて勢いにのりたいという思いからだった。序盤戦の日本は動きに硬さが残ってはいたが、もくろみ通りに2連勝。3戦目で前回のロンドン五輪の最終予選で苦杯を喫した韓国戦に挑んだ。

韓国戦、サーブレシーブが崩壊

 韓国には昨年のワールドカップ(W杯)でストレート勝ちするなど6連勝。エースの金軟景(キム・ヨンギョン)の強打は脅威とはいえ、対策はできていたはずだった。ところが、この日はサーブレシーブが崩壊した。中でも、不規則な変化をする金姫真(キム・ヒジン)のジャンプフローターサーブに苦しんだ。「最初はこちらに来ないと思っていたらカーブしてきたりして。横の関係を崩された」と古賀紗理那(NEC)。許したサービスエースは5本。選手の間を狙うサーブの威力は真鍋監督も「想定以上だった」と振り返る。試合途中でサーブレシーブを受ける選手を2人から3人に増やしたが、急なシステム変更では各自の役割分担があいまいになってしまい対応しきれなかった。

 サーブレシーブが乱れると、セッターが動かされることになり、攻撃の幅は狭くなる。また今大会から代表に復帰した荒木絵里香(上尾メディックス)とセッターの宮下遥(岡山)がコンビを組んだ時間はわずか。韓国戦では試合が進むにつれて宮下からのトスはサイドからの攻撃、それも長岡望悠(久光製薬)に偏っていった。「ミドルを使うのが怖かった」と宮下は振り返る。ただ、ミドルブロッカー(MB)からの速攻がなければ相手としては守りやすい。

 続くタイ戦でもサーブで崩されたのがフルセットにもつれる原因の一つになった。タイは高さはないが守備が堅い。中途半端な攻撃は拾われてしまう。終始硬さが残る日本は主将の木村沙織(東レ)が韓国戦で右手小指を負傷したため大事をとってスタメンを外れたこともあってか、第1セットを20-25で落としてしまう。最終予選という独特な重圧のかかる大会。ロンドン五輪を経験していない選手が過半を占めるチームが冷静さを失っていたのは明らかだった。試合後、宮下は「第3セットの途中から手の震えが止まらなかった」と打ち明けている。

 窮地のチームを救ったのはロンドンを経験した4人。真鍋監督は第2セットから荒木に加え、木村や迫田さおり(東レ)、山口舞(岡山)を投入。「遥(宮下)があげやすいように少々乱れても決めていこうと思った」と山口。この日、チーム最多の24点をあげた迫田は「チームが一致団結できた」と振り返るようにベテラン勢がチームを鼓舞。タイの攻撃を必死で拾って攻撃につなげる中で流れを取り戻していった。

 さらに幸運だったのが、最終第5セットにタイがレッドカードによって2点を失い自滅したことだろう。何しろこのセット。日本は6-12とリードされ、日本の勝利は絶望的と思われたからだ。

宮下(左から2人目)の飛躍がカギを握っている=共同

宮下(左から2人目)の飛躍がカギを握っている=共同

タイ戦、“敵失”に救われた日本

 潮目が変わったのは8-12の場面。選手交代をしようとしたタイのキャテポン監督だがそれが認められなかった。国際バレーボール連盟(FIVB)の説明では、タイの監督にレフェリーから「コールが遅い」と遅延行為をとがめられ、イエローカードが出た。ところが、キャテポン監督がさらに執拗な抗議を続けたため、レッドカードが示され1点を失ってしまったのだという。

 実はこの大会では選手交代、タイムアウト、チャレンジ(ビデオ判定)に関しては、タブレット端末を通じて行うことになっていた。昨年のW杯でも採用されたシステムだが、W杯不参加のタイにとっては初めての経験。戸惑いもあったかもしれない。ほかにも操作がうまくいかず、選手交代が認められないなどといった状況は日本を含めて大会中に何度も起こっている。それに対して、抗議してイエローカードが出た例も少なくなかった。

 もっとも、イエローカードが出ると、ほとんどのチームは無用なレフェリーとの対立を避けるためにおとなしくなった。タイは第4セットに別の件でイエローカードを受けていた。セットをまたぐため直接的な関係はないが、慎重に対処すべき場面であったのは間違いない。

 ベンチの動揺がコートに伝わったのか、タイの選手たちのプレーも精彩を欠いてしまう。13-12と逆転されると、選手交代を求めた。しかし要求は通らない。加えて日本の選手がセンターラインを通過したと異議を表明したが、レフェリーは越えたのは足ではなく腕なので問題ないと却下。ここでさらに抗議を続けたため、一連の動きが遅延行為とみなされて2度目のレッドカード。日本はマッチポイントを握ることになり、試合はそのまま日本がものにした。

 キャテポン監督はたびたびタブレットの不具合を訴えていた。不慣れなシステムに振り回されたと考えればタイには同情すべき点はあるだろう。FIVBのフェルナンド・リマ事務局長は「大会前、端末操作への質問などがあれば答えると通達したが、要求は一切なかった。彼らは理解が不十分なまま使い始めた」と指摘するが、五輪出場がかかった大会であり、より丁寧な説明が必要だったのではないか。後味の悪いものが残ったのも確かだ。

 ともあれ、ロンドン組の活躍とタイの自滅に助けられた日本は調整不足のドミニカ共和国を3-0で破ると、イタリアとはフルセットの熱戦を展開し、負けはしたものの勝ち点1をもぎ取ってリオ出場というノルマを果たせた。イタリア戦では精彩をかくことが多かった主将の木村がチーム最多の31点をあげ、オランダ戦ではこれまで控えに甘んじていた鍋谷友理枝(デンソー)やセッターの田代佳奈美(東レ)がはつらつとしたプレーでチームを引っ張ったのは明るい材料だ。

 とはいえ、真鍋監督も認めるように現状ではリオ五輪でメダルを目指すレベルとはとてもいえない。直前の国際大会の成績を見ても、ロンドン前は世界選手権で3位、W杯で4位という成績を残しているのに対し、今回は7位、5位と物足りない結果に終わっている。「戦略、戦術を考えていきたい」と真鍋監督が話す状況でポイントになるのはコンビバレーの要となるセッターとリベロだ。

 今大会でリベロを務めたのは佐藤あり紗(日立)。ただ、今大会では経験の浅い佐藤の負担を減らすことも考えて、古賀らアタッカー陣が後衛になったときに守備専門のレシーバーとしてリベロが本職の座安琴希(久光製薬)を起用した。ただ、これによって本来バックアタックなどに強みを見せる古賀の良さを生かせないというマイナス面もあった。もちろん、サーブレシーブの改善は佐藤だけの問題ではないが、リベロを軸とした守りの安定性の確保は日本の躍進のために欠かせない。

 中学生で史上最年少のV・プレミアリーグデビューを果たした177センチと日本では大型のセッターの宮下は「ブロックもいいし、サーブもいいし、守備もいい」と真鍋監督が評するようオールマイティーな能力を持つ。ただこれまでは中道瞳、古藤千鶴といった先輩たちが支えていた。それが最終予選ではセッターは宮下と代表初選出の田代だけという状況になった。「世界選手権やW杯は次につながる大会だけれど、最終予選は何が何でも勝たなければいけない」。その重圧は外から見ているだけではうかがい知れないほど大きかった。硬い表情で「やるしかない」と口にするものの、大会全般を通して攻撃陣との呼吸はどこかずれていた。

「今度はスパイカーがセッター育てて」

 それでも、五輪出場を決めたイタリア戦では本来持っているはずの力の一端を示した。オランダ戦で初先発した田代が「リーグとはまた違う緊張感」を感じつつも、「ここでやらなければ(控えという)状況は変わらない」と積極的にMB陣を使うなど、多彩な攻撃を仕掛けたことも刺激になっただろう。真鍋監督はロンドンではセッター竹下、リベロ佐野というベテラン2人がチームを支え、木村ら攻撃陣を育てメダルにつなげたことを踏まえて真鍋監督は「今度はスパイカーが、セッター、リベロを育ててほしい」と期待する。

 真鍋監督は五輪のメダル獲得には「化学反応を起こさなければいけない」という。そのためにもセッターの宮下が触媒となって攻撃陣を生かしたい。リオまであと2カ月あまり。チームの飛躍のカギを握ることになる。

(馬場到)


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