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中曽根康弘が語る戦後日本外交 中曽根康弘著 国家を思う哲学と柔軟な現実主義

2013/1/7付
ニュースソース
日本経済新聞 朝刊

 戦後日本の政治と外交について、中曽根康弘ほど突き詰めて考えてきた政治家はいないだろう。本書は、7人の日本外交研究者による29回にわたるインタビューを元にしたオーラルヒストリーである。その回想は、国家を思う中曽根哲学の真髄(しんずい)を示しているのと同時に、内外の諸条件の変化に柔軟に対応してきた中曽根の現実主義も醸し出している。

(中島琢磨・服部龍二ほか編、新潮社・2800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(中島琢磨・服部龍二ほか編、新潮社・2800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 戦後の日本外交は、戦後憲法と日米安保条約により規定されてきた。そして、その背景にはあの侵略戦争の歴史があった。日本の自立を希求する言説は、しばしば侵略戦争の歴史を正当化しようとする。中曽根は一貫して憲法の改正を唱え、対米自主路線を求めてきた。しかし、その一流の国際主義的感性から、アジアでの戦争は間違いであったとの主張は一貫していた。その見識が、中曽根をひと味もふた味も違った保守主義者にした重要な理由であったように思う。

 中曽根は、日本の核オプションと非核三原則の関係に関して、「理論と現実は別のものだ」と語る。また、かつて吉田茂の対米依存を批判した中曽根は、政権を担当するころには「日本の防衛政策の核心には日米関係がある」との理解に至る。本書から明らかになるのは、国家主義者を自負して政治の場に身を投じてから、その理論すなわち保守的な信念を、抗しがたい現実と両立させようとした中曽根の成熟した変化である。

 中曽根は、1970年代初期以来の持論である「非核中級国家」を、「戦争体験から生まれた反省の上に立った、戦後日本の理想であり、現実でもありました」と述べる。そこに、中曽根が辿(たど)り着いた「理論と現実」の均衡点があるといえるだろう。中曽根にとって、その国家像と憲法改正は決して矛盾しない。

 大国論を否定する感性から日本の自立を求め、日米関係とアジアとの共生を両立させようとした中曽根外交は、完全には実を結ばなかった。中曽根はアジア外交がやり残した課題であるという。私たちは、そこから日本外交を考えるにあたっての深い教訓を読み取らなければならないだろう。

(慶応義塾大学教授 添谷芳秀)

[日本経済新聞朝刊2013年1月6日付]

中曽根康弘が語る戦後日本外交

著者:中曽根 康弘.
出版:新潮社
価格:2,940円(税込み)


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