日本経済新聞社

記事利用について
印刷 印刷

スポーツ選手のプロとアマどう違う? 境目は曖昧、カギは「意識」
エコノ探偵団

2011/12/5 7:00
ニュースソース
日本経済新聞 プラスワン

 「サッカー女子、なでしこリーグはプロが9人だそうです。スポーツのプロ選手とアマチュア選手は何が違うんでしょう」。近所の会社員の質問に、探偵の深津明日香が首をかしげた。「職業としてお金を稼ぐのがプロじゃないの?」

 明日香が最初に向かったのは、ゴルフなど14の競技団体が加盟する日本プロスポーツ協会(東京都千代田区)。「能力が高く、競技で報酬を得ている人がプロですよね」。明日香が理事の玉利斉さん(78)に尋ねると「基本的にはその通りです。ただ、基準は種目によってずいぶん違います」との答えが返ってきた。

■企業の正社員

 そこで、主な団体に問い合わせてみた。野球は12球団に入ると誰からもプロと認められる。バスケットボールやサッカーはチームとの契約で決まる。田臥勇太選手が所属する「リンク栃木」は全員プロ。なでしこリーグのチームは混在しており、川澄奈穂美選手ら日本代表でプロ契約していない人もいる。聞き込みを続けるうち、明日香は基準が大きく5つのタイプに分かれると気付いた(右表)。

 ゴルフはテストに合格するだけでなく、宣言してなることもある。アマは、たとえ優勝しても賞金や賞品を受け取れない。11月の試合ではトップがアマの大学生、松山英樹選手だったため、2位の選手が優勝賞金を獲得する「珍現象」が起きた。

 選手の引き抜きなどで対立した経緯があり、野球では現役のプロとアマは接触が制限されている。もっとも、これらは少数派。多くは境目が曖昧だった。

 日本卓球協会は「区別していません。大会の出場規制もないですね」とキッパリ。フィギュアスケートは「事前の届け出などルールを守ってさえいれば、試合やCM出演で報酬を受け取っても構いません」(日本スケート連盟)。

バスケットボールの田臥選手はチームとプロ契約を結んでいる(C)Link Sports Entertainment

バスケットボールの田臥選手はチームとプロ契約を結んでいる(C)Link Sports Entertainment

 「最後は個人の意識次第というわけね。それにしても、なぜハッキリ区別しなくなったのかしら」

 スポーツビジネスに詳しい早稲田大学教授の原田宗彦さん(57)は、経済的な利益を追求してはいけないという「アマチュアリズム」が叫ばれた時代は、プロを一段低くみる傾向があったと話す。参加資格をアマに限る大会も多かった。

 だが、生活の大半をスポーツに費やすアマが増えるなど矛盾が表面化。観戦する側も高いレベルの試合を求め始めると、両者の壁は崩れていく。1974年にはオリンピックの出場資格からアマチュアの文字が消えた。この流れが日本にも浸透しているそうだ。

 スポーツデザイン研究所(東京都渋谷区)の上柿和生さん(66)は「企業の雇用とも密接に関係しています」と説明する。日本では企業がチームを持ち、選手を社員として抱えていた。職場の福利厚生であり、強豪チームは企業のイメージアップにつながるためだ。

■休廃部相次ぐ

 期間限定の契約・嘱託社員など働き方の幅が広がると、スポーツでもプロやアマ、中間のような選手が生まれ、同じチームに混在することがおきる。さらに、景気低迷やM&A(合併・買収)などをきっかけに、リストラの一環で企業が運営から手を引き始めた。同研究所によると、2010年までの20年間に主要競技で347の企業チームが休廃部。後ろ盾を失った一部は思い切ってプロ化した。

 スポーツ経営が専門の新潟経営大学准教授、福田拓哉さん(32)にも聞いた。「まちおこしになると自治体が支援したこともあり、新たに地域にチームを作る動きも活発になりました。プロのリーグに加盟するチームは現在87。20年で7倍になっています」

 「競技でお金を稼ぐことが受け入れられていったのね」。うなずく明日香に福田さんが続けた。「ただし、プロがレベルも報酬も格段に上とは必ずしも言えません」。野球の独立リーグ「BCリーグ」の給与は低ければ月10万円しかなく、支払われるのはシーズン中の4~10月の間だけ。月数万円というプロバスケ選手もいる。

■競技継続に夢

 「身分が不安定で稼げない人も多い。それでもプロになりたがるの?」。アルバイトをしながら競技を続ける選手(20)は「好きなことに集中して技術を極めたい」と話す。別の選手(23)は「大きな競技場で、満員の観客を前にプレーしてみたい」と考えている。

 選手に夢を与えるだけではない。「企業チームは存続が1社の考えに左右されます。プロチームなら複数のスポンサーが持てるので、リスク分散が可能。関係者以外のファンも増えます」。「リンク栃木」の運営会社社長、山谷拓志さん(41)は強調する。

 シンクタンクのしがぎん経済文化センター(大津市)は、プロバスケチーム「滋賀レイクスターズ」が10~11年シーズンで約7億円の経済効果をもたらしたとはじく。日本生産性本部によると、バブル全盛の1980年代後半でも1千億円程度だったスポーツの総入場料は、サッカーJリーグ初の公式戦が開かれた92年以降、1200億~1400億円で推移している。

 もちろん、壁もある。スポーツの統計分析をする東海大学准教授、鳥越規央さん(42)は、競技人口か観戦者が多くないとプロとして成り立ちにくいとみる。「競技人口でみると、500万人程度が目安でしょう」。バスケットやバレーボール、卓球などがギリギリといえそうだ。

 明日香はもう一度、早大教授の原田さんに聞いた。「ファンはプロアマ問わず優れたプレーをみたいと思っています。今後も2つが両輪となり、市場を広げていくことになるでしょう」

 「区別はもはやあまり意味がない。意識をしっかり持つことだな」。報告を聞いた所長がうなずくと、明日香が答えた。「私もこれからプロに徹します」

<プロ選手の報酬は>強すぎると減ることも

 プロスポーツ選手は報酬の格差が大きい。今年1月、日本ハムのダルビッシュ有投手は最年少で年俸5億円(推定)の契約を結んだ。対照的に、プロ野球の最低年俸は440万円。このように一握りのトップ選手が圧倒的に高い報酬を得ることを、経済学で「スーパースター現象」と呼ぶ。

 立命館大学の安井健悟准教授は、テレビなどを通じて一度に大勢の人がプレーを楽しめる環境が整うと現れるという。誰もが実力のあるトップ選手を観戦しようとする。テレビ局が支払う放映権料は莫大。結果、人を集められる選手にお金が集中し、他の選手よりもずっと高くなるという構図だ。

 ただ、すごい選手になるほど増えるとは限らない。スポーツの面白さの一つは、どちらが勝つか分からない「不確実性」。圧倒的に強い選手だと最初から結果が予測できるから、観戦しない人が増え、報酬が減る可能性がある。これは1930年代の著名ボクサーの対戦にちなみ「ルイス=シュメリングの逆説」と呼ばれている。

 米プロフットボールリーグNFLは、チームの年俸総額の上限を設けている。試合を面白くするため、一チームだけ実力が飛び抜けないようにする工夫だ。

(高橋恵里)


本サービスに関する知的財産権その他一切の権利は、日本経済新聞社またはその情報提供者に帰属します。また、本サービスに掲載の記事・写真等の無断複製・転載を禁じます。