第3章 富士山噴火する日 首都機能低下のおそれ

2014年10月、富士山火山防災協議会に参加する神奈川、山梨、静岡3県と国は富士山の大規模な噴火を想定した防災訓練を実施した。3県合同の訓練は初めてだ。

 訓練は火山灰や溶岩流で周辺の70万人近くが避難対象になり、東海道新幹線や東名高速道路などの交通網も寸断される恐れがあると想定。3900人が参加し、避難訓練や溶岩流が市街地に流れ込まないようブロックを設置する訓練が行われた。

 富士山は江戸時代の「宝永噴火」(1707年)から300年以上、目立った火山活動がなく、現在も噴火の兆候はない。しかし、歴史を遡るとたびたび大きな噴火を起こしてきた。ひとたび大噴火が起こると富士山周辺だけでなく首都圏一帯が火山灰に覆われるなど大きな被害が出る懸念がある。

最大被害想定は2兆5000億円

 国の「富士山ハザードマップ検討委員会」が2004年にまとめた報告書の想定では、宝永噴火なみの大噴火が起こると被害は雨が降らない場合で約1兆1800億~1兆5700億円、梅雨時の最も被害が大きくなる場合には2兆5200億円にも達する。

 ハザードマップでは溶岩流は山頂から40キロメートル離れた静岡県富士市の海岸近くや御殿場市まで到達する可能性があると想定。火砕流も山頂を中心に10数キロメートルの範囲で可能性があるとしている。しかしハザードマップが想定する地域の外側だからといって安全とは限らない。

 宝永噴火は山腹に新たな火口ができたように、山頂から噴火する場合だけではないからだ。加えてハザードマップをまとめる基礎になった宝永噴火や貞観噴火は火砕流が少ない噴火だった。火口の位置や噴火のタイプ次第ではハザードマップの想定する地域以外でも溶岩流や火砕流の被害を受ける可能性は残る。想定にはないが、大沢崩れの周辺では噴火や地震で大規模な土砂崩れが起こり、最悪の場合は山ろくに達する危険を指摘する研究者もいる。

 溶岩流や火砕流以上に大きな被害が懸念されるのが火山灰だ。山ろくで降り積もった火山灰による家屋倒壊や土石流、農作物への被害にとどまらない。大規模な噴火を起こした場合、高く吹き上げられた火山灰は偏西風に乗って首都圏一帯に降り注ぎ、首都機能をマヒさせる懸念がある。

 宝永噴火の時は横浜市の一部で30センチメートル、東京の都心部でも2~3センチメートルの降灰があった。「山梨県の北西側に火口ができた場合、同じ規模の噴火でも都心部で5~6センチメートル火山灰が積もる可能性がある」と火山噴火予知連絡会会長を務める藤井敏嗣・東京大学名誉教授は指摘する。

 

物流や発電所に影響も

 たかが数センチメートルといって軽く見てはいけない。報告書では雨が降った場合はわずか5ミリメートルの降灰で高速道路をはじめとする道路は通行不能になると想定。避難に支障が出るだけでなく物流も影響を受けずにはすまされない。2010年にアイスランドの火山噴火で約1週間も欧州各国の空港が閉鎖されたように航空機の運航もできなくなる。細かな火山灰をエンジンが吸い込んで焼き付き、止まってしまう危険が高いためだ。

 電力供給への影響も避けられない。送電線に火山灰が付着して切れたりショートしたりするなど送電網への影響に加え、発電所そのものが止まってしまう危険性もある。火力発電所の発電機に組み込まれたタービンは、飛行機のエンジンと基本的な仕組みは同じ。空気の吸い込み口にはフィルターも設けられているが、大量の火山灰が降った際に運転を続けられるかは不透明だ。東京電力の火力発電所は15カ所のうち12カ所が東京湾岸に集中しており降灰があれば影響を受ける可能性が高い。交通網の寸断やエネルギー供給の途絶で首都機能のマヒが長期化すると経済的損失は想定の2兆5200億円を大幅に上回る可能性もある。

 「桜島の『大正大噴火』から100年、日本では大規模な噴火がなかったので火山噴火の影響はローカルなものだと思っているが、それは間違いだ」と藤井東大名誉教授は警告する。周辺3県にとどまらず東京都など首都圏まで巻き込んだ備えが求められている。