日本列島で火山活動が活発になっている。2014年9月の御嶽山(長野・岐阜県)噴火に続き、15年5月に噴火した口永良部島(鹿児島県)では全島民が避難。桜島(鹿児島県)では同8月、噴火警戒レベルが初めて4(避難準備)に引き上げられた。箱根山(神奈川県)や阿蘇山(熊本県)、浅間山(群馬・長野県)、雌阿寒岳(北海道)などでも警戒が続く。

 日本国内には110の活火山があり、気象庁は御嶽山を含む47火山についてリアルタイムで活動を監視している。しかし、列島を毎年襲う台風のような自然災害とは異なり、数百年~数千年の間隔で発生する大規模噴火をいち早く予知し災害に備えるのは容易なことではない。

 現在、日本ではどのように活火山を監視し、予知の研究はどこまで進んでいるのか。第1章では毎日のように噴火している鹿児島県の桜島を舞台に、行政と大学が取り組んでいる最前線の観測活動を紹介する。

 第2章では火山の仕組みを動くイラストや地図でわかりやすく表現。地底深く生まれた巨大エネルギーがいかにして地上に至るかを解説する。

 第3章では前回の噴火から300年以上が経過し、いつ噴火するか分からない富士山をとりあげる。万一、富士山が噴火すれば、首都圏での生活や経済活動にいかなる影響を及ぼすかをシミュレーションする。

 いったん大規模な噴火があると、火砕流や土石流などによる火山周辺の被害に加え、火山灰の影響は航空機の運航や道路などの交通網、発電所、工場の生産活動などに及ぶ。噴火はけっして周辺住民や登山者だけにとっての脅威ではない。一方で、火山は温泉や地熱発電など多くの恵みももたらしてくれる。

 「火いづる国」に生きる人々にとって、火山を理解し噴火の歴史を知ることは欠かすことのできない必修科目なのだ。

御嶽山噴火時の自衛隊による救出活動

第1章 九州にみる 火山観測最前線

「硫黄山のどこに地震計を設置すべきか」
 2014年10月末、福岡市の気象庁福岡管区気象台の「火山監視・情報センター」で、活火山を監視する専門官らが真剣な表情で話し合っていた。

 気象庁は10月24日、霧島山えびの高原(宮崎県えびの市)の硫黄山から約1キロメートルの範囲で小規模噴火の可能性があると警報を出した。13年末以降、火山性微動や土地の隆起が断続的に観測されている。

福岡管区気象台 火山監視・情報センター
福岡管区気象台 火山活動監視モニター

火山は眠らない

 九州火山監視・情報センターは全国4カ所(札幌、仙台、東京、福岡)にある火山監視・情報センターの一つで、霧島山など九州にある9つの活火山を「365日、24時間体制で監視している」(下村雅直所長)。観測担当者は5日間隔で交代しながら夜勤し、夜間の噴火でも地震担当者を含め2人が対応する。

 センター内に設けた大型ディスプレーには、高感度の遠望カメラがとらえた複数の火山の様子が映されている。担当者は噴火に伴う火山性微動などのデータを解析しつつ、噴火に備えている。

 気象庁が最も警戒する火山の一つが桜島。2006年に山頂東南の「昭和火口」で噴火が再開し、現在の噴火警戒レベルは火口から2キロメートルの範囲で入山を規制する「3」。鹿児島地方気象台にも5日間隔で夜勤する担当者がおり、福岡の火山監視・情報センターとテレビ会議で連携をとりつつ監視している。

 島内とその周辺には地震計や空気の振動を観測する「空振計」など多くの観測装置が張り巡らされている。鹿児島地方気象台では火山性微動の揺れが一定基準以上に達すると「しきい値(基準値)を超えました」と自動音声のアラームが鳴り、担当者は空振計で噴火の大きさを判断する。アラームは年間2000回に達し、最近では夜勤時に5回連続で一睡もできなかった担当者もいた。

 噴煙の高さも重要な情報だ。山頂から2500メートルを超すと「降灰予報」を自治体など関係機関のほか航空各社に知らせる。火山灰が航空機の事故につながることもあるからだ。噴煙の高さは窓からの目視や、遠望カメラの映像で確認しているが、より正確に高さを計測するシステムの導入を検討している。

予知に役立つ「心電図」

 気象庁が噴火活動を監視しているのに対し、桜島島内で半世紀以上にわたって噴火予知を研究しているのが京都大学火山活動研究センターである。

 桜島の西側山腹にある「ハルタ山観測坑道」。薄暗いトンネルを少し歩くと透明な容器に水が入った機器が置いてあった。マグマの膨張によって生じる地殻のわずかな上下動でもとらえられる水管傾斜計だ。坑道には地殻の伸び縮みを観測する伸縮計もある。観測装置を地中に設けるのは、温度の変化など機器への影響を最小限に抑え、高い精度の観測データを得るためだ。

 京大は1985年に桜島の噴火を予知する目的で同坑道を設けた。島内にこのほか、国土交通省が南側に設けた坑道もある。火山は噴火する直前、周辺の地盤がマグマの影響で隆起・膨張する。トンネルで得たデータは常時、研究センターに送って解析し、一定基準を超えるとアラームで知らせる。

 同センター所長の井口正人教授は「観測坑道のデータは(噴火予知の研究を)劇的に変えた」と話す。桜島ではかつて噴火前に群発地震が発生したが、最近は事前に地震が起きないことも多い。地殻変動は現代の噴火予知に欠かせないデータとなっている。井口教授は「地殻変動のデータは「人体に例えるなら『心電図』。異常がないか観測すれば、噴火の9割以上は予知できる」と話す。

ハルタ山観測坑道内部
坑道内に設置された水管傾斜計

 データが得られるのは噴火の1時間前から数日前までと幅があるが、噴煙が山頂5000メートルの高さに達した2013年8月の噴火では「4日前に予兆をとらえていた」(井口教授)という。

 もっとも、井口教授は「事前に噴火を予知できたとしても、防災対策に使えないと意味がない」と強調する。桜島から大量の溶岩が流出し、大隅半島との海峡を埋めた1914年の「大正大噴火」のような大規模噴火に備えるには、「異常現象を早期検知し、(行政などを通じ)防災対策に使えるようにすることが重要だ」と話す。このため、京大は2015年度にマグマが蓄積されている東北方面の山腹に3つめの観測坑道を設ける計画だ。

 このように、桜島をはじめ九州の活火山では、政府や大学などによる地道な監視・研究が現在も続いている。

井口教授に観測装置の説明を受ける

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