現代皮肉る放浪詩人 映画「ビーチ・バム まじめに不真面目」 4月23日 ハーモニー・コリン監督の新作である。19歳で写真家のラリー・クラーク監督作「KIDS/キッズ」の脚本を手がけて以来、映画、写真、絵画などで活躍。そんなコリン監督の姿を彷彿(ほうふつ)とさせるような放浪の詩人を主人公に、彼の自由奔放な生き様を軽妙かつコミカルに描き出している。 アメリカ・フロリダ州のキーウェスト島の海辺で気ままな日々を送るムーンドッグ。かつては天才詩人と讃(たた)えられたが、今は時 現代皮肉る放浪詩人 映画「ビーチ・バム まじめに不真面目」
遺品が語るドイツ暗黒史 映画「ハイゼ家 百年」 4月23日 ドイツ百年の歴史を描く3時間38分にも及ぶ大作ドキュメンタリーである。しかも、類を絶した独自の手法が貫かれ、驚嘆させられる。 題材は、トーマス・ハイゼ監督自身の一族の記録だ。監督は、ハイゼ家に残された日記、手紙、写真、また、公的文書等を用いて、祖父母から両親を経て自分自身に至る歴史をつづる。 それは、祖父母や両親の出会いと結婚、子供たちの成育といった、きわめてプライベートな事柄の連続であると同時 遺品が語るドイツ暗黒史 映画「ハイゼ家 百年」
世界と愛、同時に発見する感動 オペラ「イオランタ」 4月21日 童話を元にした2編による新制作のダブル・ビル公演。 ストラヴィンスキー「夜鳴きうぐいす」。鶯(うぐいす)を宮廷に連れてこさせた皇帝は、その歌で病を癒やす。タイトル役の三宅理恵はしっとりと美しいコロラトゥーラを聴かせた。 チャイコフスキー「イオランタ」。盲目の姫が周囲の気遣いで目の見えないことに気づかないまま暮らしている。偶然訪れた伯爵の愛によって視覚を取り戻し結ばれる。 タイトル役の大隅智佳子が 世界と愛、同時に発見する感動 オペラ「イオランタ」
ボクサー、等身大の青春 映画「BLUE/ブルー」 4月16日 ボクシング映画というと「ロッキー」(1976年)のように、血と汗と涙がにじむ辛苦をかさねて、のしあがり、クライマックスの大事な一戦をもりあげるというのが一典型。 この映画は、そういう典型的なボクシング映画からはずれた新しい味がある。いわばボクシングを映画の神話体系からとりもどして等身大の生活の一部(しかし、特別な一部だが)としてえがいているのだ。 瓜田(松山ケンイチ)はボクシング歴が長い。トレー ボクサー、等身大の青春 映画「BLUE/ブルー」
女と男の行き違い、リアルに 映画「街の上で」 4月16日 女と男がいる。女の気持ちはとっくに冷めているのに、男は執着している。あるいは、女は男を気にかけているのに、男は気づかず、女を傷つける。あるいは、女にその気はないのに、男が一人で舞い上がる。 女と男の思いはいつも不均衡。片方の思いが強すぎて、もう片方は戸惑ったり、うんざりしたり。それが今泉力哉監督の恋愛群像劇の基本形。少数のスタッフで全編を東京・下北沢で撮ったこの新作もそうだ。 古着屋で働く青(若 女と男の行き違い、リアルに 映画「街の上で」
心開かれる桃源郷の美 映画「ブータン 山の教室」 4月9日 ブータンのパオ・チョニン・ドルジ監督・脚本。写真家でもある、1983年生まれの彼の長篇(ちょうへん)第1作。海外経験も多い目から母国の文化を見なおしている。 ブータンの首都ティンプーは「標高2201メートル、人口10万1238人」(と字幕で出る)。現代的な都会だ。主人公の青年ウゲン(シェラップ・ドルジ)は音楽好きで、海外でミュージシャンになろうと、オーストラリアのビザを申請している。 奨学制度の 心開かれる桃源郷の美 映画「ブータン 山の教室」
女性同士の愛 生々しく 映画「アンモナイトの目覚め」 4月9日 女性同士の愛を描いた紛れもない秀作である。今をときめくスター女優ふたりの対照的な好演に深く引きこまれる。 舞台は、19世紀イギリスの海辺の町。ヒロインのメアリー(ケイト・ウィンスレット)は、海岸でアンモナイトの化石を採掘し、土産物店で売っている。だが、独学による古生物学者として一部では名を知られ、大英博物館に展示される貴重な魚竜の化石もメアリーが発掘したものだった。 そのメアリーの店にロンドンか 女性同士の愛 生々しく 映画「アンモナイトの目覚め」
垣根なくつながる歌世界 ケイコ・リー 4月7日 カーメン・マクレエ、ニーナ・シモンらを代表に、ピアニスト出身のボーカリストが数多い。ケイコ・リーもそうで、かすれた地声は、むしろ表現の色彩の機微を伝える格好の武器にもなっている。不思議なことだが、声と直結することで、歌の魅力が無限に広がることがある。 ロバータ・フラックの代表曲「愛のためいき」で始まったステージは、冒頭から彼女の歌世界が全開で、歌の楽しさの共有という大きな目標に走り始める。これは 垣根なくつながる歌世界 ケイコ・リー
機械人形のように 映画「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」 4月2日 スタイルに特徴のある、一風変わった映画である。 主人公の露木(前原滉(こう))は、朝、楽隊の音で起床する。4人編成の楽隊が住宅地を演奏行進している。露木は、背広にネクタイで出勤する。昭和の前半のようなレトロな家並みだ。 露木も途中で出会う同僚の藤間(今野浩喜)も、いや、その先に登場するすべての人間が、道を曲がるときは直角に曲がり、セリフを言うときは棒立ちで棒読み。人生の目的と情念を欠いた、機械じ 機械人形のように 映画「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」
住まいも人生もたて直す 映画「サンドラの小さな家」 4月2日 アイルランドを舞台にして、貧困や家庭内暴力と闘いながら、自力で家を建てる選択をした女性の物語。 サンドラ(クレア・ダン)は夫の暴力から逃げ、独りで幼い二人の娘を育てている。ホテル住まいは金がかかり、公営住宅はなかなか入れる望みがない。だが、インターネットで、自分で安価に家を建てるためのサイトを見つけ、そこに一縷(いちる)の希望を見出(みいだ)す。 そんなおり、清掃作業員として働いている家の雇い主 住まいも人生もたて直す 映画「サンドラの小さな家」