概念先行の「デリスキング」 FINANCIAL TIMES 6月2日 今年の流行語大賞はもう決定した。地政学的部門の大賞は「デリスキング(リスク低減)」だ。 これまでごく一部でのみ使われていたデリスキングという言葉は、わずか2カ月弱で至るところで聞かれるようになった。フォンデアライエン欧州委員長が3月30日にブリュッセルで中国について講演した際のキーワードだった。 その後、米バイデン政権も「デリスキング」という言葉を熱心に使うようになり、5月21日に広島で閉幕した 概念先行の「デリスキング」
身勝手なマスク氏の「自由」 FINANCIAL TIMES 5月31日 将来世代は過去を振り返り、米起業家のイーロン・マスク氏が「トゥルース(真実)GPT」を思いついたことが2023年を代表する出来事だったと言うかもしれない。同氏は4月、「最大限の真実を追求する人工知能(AI)」の開発に乗り出したことを明らかにした。 マスク氏にはいくつもの顔がある。才気あふれるエンジニアで、果敢なリスクテイカーで、少年のように振る舞う大人でもある。ただし、我々の暮らしに対して神のよ 身勝手なマスク氏の「自由」
南ア外交、ご都合主義の限界 FINANCIAL TIMES 5月29日 南アフリカの外交はご都合主義の好例だ。国際刑事裁判所(ICC)から脱退する考えを表明し、舌の根も乾かぬうちに撤回する。ロシアのウクライナ侵攻を非難したかと思えば、米国が挑発したからだと対米批判を強める。 進歩的な憲法を持つ南アは差別を禁じ、社会正義を希求する民主主義国でもある。他方、西側中心の支配体制を打ち砕き、新たな多極世界を実現するという大義名分から独裁者とも友好関係を築いている。与党アフリ 南ア外交、ご都合主義の限界
ウクライナに戦果の圧力 FINANCIAL TIMES 5月26日 ウクライナはこのほど、外交的な大成功を収めた。だが、それを受け今や軍事的勝利を勝ち取る圧力にさらされている。 広島で開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)の華やかな舞台が21日に幕を閉じ、焦点は再びウクライナ東部での激戦が突きつける厳しい現実に戻る。G7サミットでウクライナのゼレンスキー大統領が得た外交的、軍事的な支援は大きな助けになるが、危惧されるのはこれがウクライナへの国際的支援のピー ウクライナに戦果の圧力
自社株買い、透明性確保を FINANCIAL TIMES 5月24日 自社株買いは以前、米国特有の奇妙な風習と受け止められていたが、今では世界を席巻している。英資産運用会社ジャナス・ヘンダーソンの調査によると、2022年の企業による自社株買いの総額は過去最高の1兆3000億ドル(約180兆円)にのぼった。 国別ではやはり米国が最も大きかったものの、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)以降は英国を含む欧州でも急速に広がっている。 アクティビスト(物言う株 自社株買い、透明性確保を
孤独がもたらす健康被害 FINANCIAL TIMES 5月22日 ひとりぼっちが恥ずかしいという感覚は根深い。感じが悪いとか嫌われていると思われたい人はいないからだ。 米政権で公衆衛生政策を統括するビベック・マーシー医務総監によると、こうした否定的なイメージのせいで孤独は静かに広がっていく。バイデン政権で医務総監に再任されたマーシー氏自身も最近、前回の任期中に解任されて強く孤独を感じたと明かした。 英シェフィールド・ハラム大学の孤独研究センターの責任者アンドレ 孤独がもたらす健康被害
米都市、進むドーナツ現象 FINANCIAL TIMES 5月19日 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)以降、米国の都市が空室だらけのオフィスビルを抱えて苦しんでいることはよく知られている。だが中心部とそれ以外の場所では状況が異なることはあまり理解されていない。多くの商業ビジネス地区が苦境に追い込まれる一方、都市の外周部はにぎわっていることが多い。「ドーナツ効果」と呼ばれる現象だ。 この現象をドーナツ効果と名付けたのは、経済学者のアルジュン・ラマニ氏と 米都市、進むドーナツ現象
米生保にも信用収縮の影 FINANCIAL TIMES 5月17日 米国では地銀を巡る新たな懸念が毎週のように出てくる。米連邦預金保険公社(FDIC)が法的な義務はなくても前例に従って金融システムを支えているとみられ、幸いにも状況はやや落ち着いている。 しかし今、問題となっているのは(銀行の)経営基盤の弱体化だ。体力が弱った銀行では預金が流出し、資金調達コストが上がっている。他方、商業用不動産ローンや危険な企業への融資は不良債権化している。 そうなると業界再編が 米生保にも信用収縮の影
王者JPモルガンの問題 FINANCIAL TIMES 5月12日 彼の耳は(英チャールズ国王より)小さいし王冠もかぶっていない。だが米銀最大手JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は、ウォール街の米国版「チャールズ国王」だ。一部の人に称賛され、他の人からは嫌悪されるものの、間違いなく強大な権力を握っている。 チャールズ国王の戴冠式があった数日前の1日、ダイモン氏は自身が2005年からCEOを務めるJPモルガンによる歴史的な買収を再 王者JPモルガンの問題
AIに敗北、チェスの教訓 FINANCIAL TIMES 5月10日 1997年にIBMのスーパーコンピューター「ディープブルー」がチェスの世界チャンピオン、ガルリ・カスパロフ氏を下した時、伝統ある競技だけでなく、人類そのものが「チェックメート」(詰み)に追い込まれたと受け止める声があった。 米誌ニューズウィークは、コンピューターと当時史上最強と言われたチェスプレーヤーとの勝負は、「人の頭脳による最後の抵抗」だと伝えた。 同誌のスティーブン・レヴィ記者は、「仕事を AIに敗北、チェスの教訓