西條奈加「涅槃の雪」 東京・丸の内 文学周遊 4月10日 遠山の金さん、といえば、多くの人が知っているだろう。テレビドラマでおなじみの江戸時代の名奉行、遠山金四郎こと景元のことだ。 西條奈加「涅槃の雪」 東京・丸の内
つかこうへい「小説 熱海殺人事件」 静岡・熱海 文学周遊 4月3日 もともと舞台のための戯曲だったこの小説、目の前で役者が演じている気がしてくる。登場人物といえば……。 卑屈かと思えば尊大、犯人の供述に次々とダメを出す、くわえ煙草(たばこ)の木村伝兵衛部長刑事。九州の離島から上京した工員で、幼なじみのアイ子を絞殺した容疑者、大山金太郎。色気のない婦人警官、安田ハナ子。富山から赴任したばかりの刑事、熊田留吉。 その捜査室では事実は問題にされない。しがない殺人事件を つかこうへい「小説 熱海殺人事件」 静岡・熱海
志賀直哉「盲亀浮木」 東京・江戸川橋 文学周遊 3月27日 奇跡だろうか。江戸川橋の十字路だった。バスの窓から走る犬が見えた。飛び降り、追いかけた。足が重い。運動万能だったのに情けない。倒れそうだ。大声も届かない。55歳の体が止まった。なんとか護国寺の前で捕まえた。 志賀直哉「盲亀浮木」 東京・江戸川橋
重松清「定年ゴジラ」 東京・八王子市 文学周遊 3月13日 戸建て住宅が立ち並ぶ東京郊外のニュータウン「くぬぎ台」が「定年ゴジラ」の舞台だ。くぬぎ台は架空の街だが小説の記述を総合すると、東京都八王子市のめじろ台をモデルにしたと推定できる。 重松清「定年ゴジラ」 東京・八王子市
芥川龍之介「糸女覚え書」 大阪・玉造 文学周遊 3月6日 明智光秀を父に持ち、戦国武将・細川忠興の妻で、キリシタンとしてガラシャの洗礼名を持つ「たま」。関ケ原合戦の前夜、人質となるのをこばんで、あえて死を受け入れる。その劇的な生涯は、小説家や劇作家の創作意欲を刺激してきた。 本作は細川屋敷から落ちのびた侍女が、ガラシャ最後の日々を報告するという体裁をとる。全編が独り語りの候文でつづられる。読み進むにつれ古文書を広げるような感覚に染まっていく演出は、芥川 芥川龍之介「糸女覚え書」 大阪・玉造
野原一夫「回想太宰治」 東京・三鷹 文学周遊 2月27日 太宰治が東京府三鷹村(現・三鷹市)に引っ越したのは1939年。旧制高校に通う作者の野原が初めて訪ねた戦前は、駅から100メートルほど行くと「雑木林と畑の、田園の匂い」がしたという。 太宰は戦火を逃れ一時、青森県の生家などに移るが、46年晩秋に舞い戻り、48年6月の死去まで住んだ。 今はテナントビルなどが立ち並ぶ駅前通り。その一角の三鷹市美術ギャラリー内に「太宰治展示室」が昨年末にオープンしている 野原一夫「回想太宰治」 東京・三鷹
住井すゑ「野づらは星あかり」 茨城県牛久市 文学周遊 2月20日 天気のいい日には、陽光に輝く牛久沼の水面をウインドサーフィンが風を切って疾走する。その様子を横目にみながら、近所の人が遊歩道をのんびり散歩する。 茨城県を南北に走るJR常磐線。龍ケ崎市駅と牛久駅を結ぶ線路の西側にあるこの沼のほとりに住井すゑは住み、作品を執筆し、野菜を育て、人びとと交流した。 「先生の家に各地からいろんな人が集まり、世の中の憂いごとについて熱く議論した」。住井の作品の読書会をいま 住井すゑ「野づらは星あかり」 茨城県牛久市
多和田葉子「犬婿入り」 東京・国立市 文学周遊 2月13日 学習塾で教える北村みつこ先生が子供たちに、人間の女性と雄犬が結ばれる「犬婿入り」の話をしていたら、本当に「犬男」の太郎さんがやって来て、不思議な共同生活が始まる。日本語とドイツ語で小説や詩を執筆し、国際的に評価されている多和田葉子さんの芥川賞受賞作である。 舞台の町は駅を中心に鉄道沿いに発達した新興住宅の北区と、多摩川沿いの古くから栄えていた南区からなる。それまで行き来することは少なかったが、南 多和田葉子「犬婿入り」 東京・国立市
夏目漱石「明暗」 神奈川・湯河原町 文学周遊 2月6日 東京近郊の温泉地として知られる湯河原町は、多くの作家や画家に愛された土地である。藤木川から千歳川に続く渓流沿いに立ち並ぶ温泉旅館には、文人墨客が頻繁に滞在し、数々の名作を生んできた。国木田独歩、島崎藤村、芥川龍之介、小林秀雄、水上勉ら逗留(とうりゅう)客には錚々(そうそう)たる名前が並ぶ。 今はなき老舗旅館、天野屋は、京都画壇の大御所、竹内栖鳳や洋画壇の巨星、安井曾太郎が敷地内のアトリエで晩年を 夏目漱石「明暗」 神奈川・湯河原町
冲方丁「光圀伝」 水戸市 文学周遊 1月30日 テレビドラマ「水戸黄門」でおなじみの徳川光圀(みつくに)は、諸国を訪ね歩き悪者を懲らしめる好々爺(こうこうや)として知られる。この漫遊記は全くのフィクションで、実在した光圀は関東周辺から出たことはない。では、光圀はどんな人物だったのか。本書は義を貫くために悩みながら生き、ついに大日本史編纂(へんさん)の偉業を始めた光圀の生涯を史料に基づき描いた。 水戸藩2代藩主の光圀には兄がいたが、父で初代藩主 冲方丁「光圀伝」 水戸市