北村匡平 研究室という空間 プロムナード 6月3日 大学に所属するほとんどの教員には研究室が与えられている。一般に理解しがたいかもしれないが、大学の研究室という空間はかなり特殊な場所だ。学問分野によっては共同で使う場合もあろうが、僕の知るかぎり人文学の多くの研究者は、大量の本に囲まれた個室で論文を読み、資料を分析し、執筆する。 研究室はかなり個性が出て面白い。本が乱雑に積み上げられ、いまにも崩れ落ちてもおかしくないアナーキーな研究室、資料なのかゴ 北村匡平 研究室という空間
寺尾紗穂 事実をときほぐす プロムナード 6月2日 私はヤフーニュースのコメント欄、通称ヤフコメを見るのが好きだ。知的な人々の中には「あんな極端なもの見る必要ない」「どうしようもないコメントばかりで時間の無駄」と相手にしない人も多い。でも私は基本的に一人一人の人に興味があるので、なぜこの人はこう考えるのか、この人が見えていない点、事実誤認はこの点か、など考えながらコメントを読むのが好きだ。ときたま出る太平洋戦争系の記事には、「中国に兵隊に行ってた 寺尾紗穂 事実をときほぐす
小佐野彈 赤茶色の旅 プロムナード 6月1日 僕は旅人気質である。ひと所に留まれず、とにかく移動をするのが好きだ。海外への渡航を除けば、交通手段はもっぱら自家用車である。 去年までは、友達が毎年豪華な誕生会を開いてくれていた。不惑の誕生日を迎えるに当たっても、コロナの制限がなくなったし、例年のように東京で友人たちと騒ぐことも考えた。ただ、誕生日のタイミングで編集者から山口県の温泉への取材旅行に誘われていたこともあり、今年は敢(あ)えて自らが 小佐野彈 赤茶色の旅
谷合広紀 ハーモニー プロムナード 5月31日 私の数少ない趣味の一つにピアノがある。特定の曲を練習するというよりは、その時の気の赴くままに即興で適当に弾くのが好きで、作業に行き詰まったときなどに気分転換としてよく弾いている。 ピアノを習い始めたのは小学校入学より前で、将棋よりも少し早い。最初は家にあるピアノで父から教わり、その少しあとにピアノ教室に通い始めた。はやりの音楽などを弾くことで人気者になれることが嬉(うれ)しくて、私は次第にピアノ 谷合広紀 ハーモニー
川添愛 判断を助けるもの プロムナード 5月30日 5年前にコンピュータのしくみについての入門書を出版したときのことだ。出版の直前、本のタイトルを最終決定する段階で、私と担当編集者との間で意見が分かれた。 私はもともと、その本に「コンピュータ、どうやったらできますか?」というタイトルを付けていた。本の設定は、コンピュータのない世界からやってきた妖精が、人間の世界の青年にコンピュータの作り方を教わるというもの。原稿の冒頭で妖精が発する第一声が「コン 川添愛 判断を助けるもの
高瀬隼子 文学フリマ プロムナード 5月29日 文学フリマという、同人誌の展示即売会に参加している。小説・短歌・詩・エッセイなど、様々なジャンルの同人誌を作成した個人やサークルが、ブースに並んで手売りするイベントだ。 日本各地で開催されているが、わたしが参加しているのは主に東京の文学フリマだ。大学の文芸サークルの友だちと「京都ジャンクション」というサークル名で参加し、年に1冊のペースで同人誌を作り頒布している。初めて出店したのが大学4回生の時 高瀬隼子 文学フリマ
北村匡平 映画館の暗闇 プロムナード 5月27日 映画研究者なので仕事柄よく映画館に行く。現実の世界から切り離された真っ暗な空間に包まれ、巨大なスクリーンに投影されるイメージに没入する甘美な至福の時間。煩わしいことをいったん忘れて、別の世界に浸っていられるひとときの幸せ。ところが近年、その優雅な時が脅かされることが多い。鑑賞中のスマホ利用の多発である。 かつてはそうでもなかったが最近は目に余る。スマホ依存症――。酷(ひど)いときは数分おきにチェ 北村匡平 映画館の暗闇
寺尾紗穂 レッテルと野生 プロムナード 5月26日 すずめがビニールひもを加えてぴょんぴょんとアスファルトを跳ねている。巣作りの季節なのだろう。生垣から顔をだしたり、砂浴びをしたりする様子もかわいいが、そうやって生のサイクルの中で、体に組み込まれた「今」を生きているんだなと思うと、愛(いと)しさが増す。 それは、見た目がかわいい、ということとは少し違う。生き物として野生を生きている姿の懸命さに、はっと驚かされるのだ。 私たちは、動物たちの見た目の 寺尾紗穂 レッテルと野生
小佐野彈 創作と身体性 プロムナード 5月25日 5月15日、僕は無事に2022/2023年のスノーシーズンを終えた。22年から今年にかけての冬は十分な降雪量が予測されていたけれど、蓋を開けてみれば初雪が遅れ、3月には異常な高温に見舞われたこともあって、多くのゲレンデがかなり早く営業を終了してしまった。そんな中でも、開いているゲレンデを追いかけ、5月中旬まで趣味のフリースキーを楽しみ尽くせたのは幸せだった。レッスンに多く通ったこともあり、できる 小佐野彈 創作と身体性
谷合広紀 夏日 プロムナード 5月24日 東京はここ数日ですっかり暑くなった。夏の訪れが近づいてきているようだ。快適だった春の夜と同じように寝ていると、暑さで夜中に目が覚めてしまう。急激な気温の変化に体がついていけていないようだ。本格的な夏の到来はまだ先だというのに、今からバテていては先行きが思いやられる。 毎年夏になるとなぜこんなにも暑いのかと嫌になる。暑さに耐え切れずに思うのは、「冬のほうが良かった」ということだ。だが、冬は冬でその 谷合広紀 夏日