銀行員の詩集 翻訳家 斎藤真理子 あすへの話題 2月7日 1月7日の本紙「春秋」に、詩人・石垣りんと「銀行員の詩集」のことが出ていて嬉(うれ)しかった。この詩集は全国銀行従業員組合連合会文化部の出版物で、全国の銀行員の応募作品の中から、金子光晴など錚々(そうそう)たる詩人の選考を経て編まれたもの。1951年から年に1度、計10回刊行された。 実は私はこの詩集を集めていて、今、10冊のうち7冊まで揃(そろ)った。ときどき出して少しずつ読んでいる。少しずつ 銀行員の詩集 翻訳家 斎藤真理子
時の音韻 サントリーHD社長 新浪剛史 あすへの話題 2月6日 蒸溜(じょうりゅう)したばかりの力漲(みなぎ)るような荒々しい透明の原液(ニューポット)は、樽(たる)の中で数年、数十年の眠りにつく。そのしずくに琥珀(こはく)の色と熟成香の個性をもたらすのは時間そのものだ。やがて樽ごとに時を重ねた原酒は眠りから目覚め、未来の空気に触れる。ブレンダーは匠の技、日本のものづくりの力で、ウイスキーとして完成させていく。 原酒を仕込む人にとって、ウイスキーの姿になって 時の音韻 サントリーHD社長 新浪剛史
九品仏と書いて 俳優 長塚京三 あすへの話題 2月4日 九品仏と書いて「くほんぶつ」と読む。 等々力と書いて「とどろき」と読む。 どちらも東京・世田谷の駅名だ。品(ほん)は生(しょう)と併せて、極楽往生する者の階位をいうらしい。とどろきは、ご本尊であるお不動さんの滝の音が、近隣に轟(とどろ)き渡ったことからきたと聞く。失礼だがどちらも少々抹香臭い。隔世の感がある。 この辺りに土地勘のないひとは、読み方が分からないことも手伝って、思い切りひなびた、山里 九品仏と書いて 俳優 長塚京三
手を抜くと自分に返ってくる 漫画家 竹宮 惠子 あすへの話題 2月3日 家事をしていても、自分の専門業であるマンガを創っていても、同じことなんだな、とつくづく思う。すべての仕事にはいろいろな段階・局面で、必ず面倒くさい作業があって、それをこなさないと次には行けない。でも、どこまでやればいいかは誰も決めてくれない。丁寧さは時間を食うし、手を抜けばスピードは上がるが気に入るような結果を生まない。この年齢ゆえの経験値でそれが読めているから、じりじりしながら面倒くさい作業を 手を抜くと自分に返ってくる 漫画家 竹宮 惠子
君子不重則不威 前金融庁長官 氷見野良三 あすへの話題 2月2日 論語・学而篇(がくじへん)の孔子の言葉「君子、重カラザレバ則(すなわ)チ威アラズ」は、高校の教科書にも登場し、「君子は重々しくなければ威厳がない」という意味だと教えられる。 重々しく振る舞って自分を偉そうに見せなさい、だなんて、何か変な教えだな、と思って聞いていた。たしかに朱子の新注は「外ニ軽キ者ハ必ズ内ニ堅キコトアタワズ」と「重」を外面の重々しさと解しているようだ。しかし、何晏(かあん)編の古 君子不重則不威 前金融庁長官 氷見野良三
電線のある風景 小説家 松浦寿輝 あすへの話題 2月1日 ロンドンもパリも香港も、またニューヨークのマンハッタン地区も、電線の地中への埋設は百パーセント達成されているという。翻ってわが国では「無電柱化」の事業は大きく立ち遅れており、立ち並ぶ電柱、空を横切って張り渡された電線が、見慣れた都市風景に溶けこんでしまっている。 大地震がいつなんどき起きるかわからないし、台風や大雨などの自然災害も年々苛(か)酷(こく)化してきている。倒壊する電柱、断ち切れて地上 電線のある風景 小説家 松浦寿輝
1月31日 翻訳家 斎藤真理子 あすへの話題 1月31日 1月ももう、今日で終わりだ。 先日、韓国の小説を読んでいたら「正月の連休が終わるとすぐに2月で、2月はあっという間に過ぎ、3月になってやっと新しい年に適応できた」(大意)というくだりがあって笑ってしまった。韓国は旧正月だし、学校の年度が3月始まりなので、日本以上に慌ただしいだろう。でも、春までがあっという間だという感覚は共通のものらしい。 日本では語呂合わせで「1月往(い)ぬる2月逃げる3月去る 1月31日 翻訳家 斎藤真理子
鳥井信治郎との奇縁 サントリーHD社長 新浪剛史 あすへの話題 1月30日 今日、1月30日がサントリーグループ創業者である鳥井信治郎生誕の日であることを、入社してしばらくしてから知った。実は私自身の誕生日も同じ日なのだ。確率は365分の1程度に過ぎないが、それでも運命めいたものを感じてしまった。 「やってみなはれ」。信治郎が口にしたこの言葉に宿る精神は、今も会社の根幹をなす大切な価値観になっている。私が設立を主導した人材育成プログラム「サントリー大学」でも、海外の従業 鳥井信治郎との奇縁 サントリーHD社長 新浪剛史
そぞろ歩き 俳優 長塚京三 あすへの話題 1月28日 散歩が苦手だ。近間のそぞろ歩きはお手の物だが散歩は苦手。とりわけ健康維持のための、運動としての散歩は。 決められた時間内で、決められた距離をせっせと踏破するのはいいが、大股で脇目も振らず、大手を振って公道を、となると、正直私は尻込みせざるを得ない。ただの散歩に仰々しすぎる。凱旋パレードじゃあるまいし。しかしそこまでしないと運動の効果があがらないらしい。 そこで一案。家の階段を上り下りするのはどう そぞろ歩き 俳優 長塚京三
アーティスティックな梱包 漫画家 竹宮惠子 あすへの話題 1月27日 コロナのせいだけでなく、もともとよく通販を利用するほうだ。根がオタクなので出来るだけ表に出ないで買い物したい、とかなり初期の頃からヘビーユーザーである。そんな中、時々「ものすごい梱包」というものに出会う。1カ月のお試し期間、との触れ込みで、もし気に入らなければ梱包し直して返品してよいという商品だった。いくつもの部品に分かれていて、それらを組み立てて使う家電。 当然ながら、届くなり梱包を開いて組み アーティスティックな梱包 漫画家 竹宮惠子