日経プラス10「フカヨミ」

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中国の「過剰」削減、世界経済を揺るがす
飯野克彦編集委員に聞く

2016/2/8 10:00
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■粗鋼生産、「日本1国分」が消える

小谷:きょうは世界経済におけるリスクの震源地、中国経済について日本経済新聞の飯野克彦編集委員に聞きます。
中国ウォッチャーでもいらっしゃる飯野さん、年明け以降も不透明感が払拭できない中国経済ですが、最近、何か新しい動きはありましたか。

小谷真生子メインキャスター

小谷真生子メインキャスター

飯野克彦編集委員(2016年2月3日放送)

飯野克彦編集委員(2016年2月3日放送)


「日本ではあまり報道されませんでしたが、1月22日、北京で開催された『国務院常務会議』で、これからの中国経済を考えるうえでなかなか興味深い政策が打ち出されました。内容は、粗鋼生産能力、つまり鉄製品の原料である粗鋼の生産能力を1億~1.5億トン削減すると決めた、というものです」


小谷:1億~1.5億トンというのは、どれぐらいの量なのですか。

「中国に次ぐ世界第2位の鉄鋼生産国は日本ですが、その粗鋼生産能力が約1億トンです。いわば日本まるまる1国分を削減します、というとてつもない数字です。中国は世界最大の粗鋼生産国で、昨年の生産量はおよそ8億トンでした。そのうち約1億トンを輸出に回しています。いってみればその1億トンは余剰だったわけですが、その分を減らします、という政策を打ち出したわけです」

■中国政府は失業対策にも布石

小谷:中国政府はなぜ、このタイミングで大胆な政策を打ち出したのでしょうか。

「中国経済は色々な課題を抱えていますが、根本的な問題は『過剰設備』と『過剰債務』という2つの過剰です。これは表と裏の関係にあるわけですが、今回の決定はその過剰部分を減らしていく構造改革の一環として、特に鉄と石炭の設備を淘汰していこうという政策です。赤字を出している企業や効率の悪い企業を淘汰して優良企業だけを残していく。こうした政策に習金平政権がいよいよ手をつけ始めたということです。方向性としては正しいと思います」

小谷:ただ、急激に生産設備を減らすと国内の雇用が失われ、中国経済の減速につながるのではありませんか。

「そうですね。中国メディアの報道では、鉄鋼産業だけでおよそ30万~40万人が職を失うのではないか、という推測も出ています。中国政府も、失業者の増加が社会不安につながることを大変警戒しており、今回の決定に合わせ、余剰人員を再配置するために補助金を支給することも決めました。こうした政策を打ち出したところには、中国政府の本気度もうかがえます」

「中国経済では生産部門と不動産部門は大変状況が悪いのですが、消費はまだ旺盛です。その結果、第3次産業が発達しつつあり、少なくとも足元の雇用情勢はそれほど悪くない。今回の政策決定は確かに中国経済にとってマイナス要因になりますが、経済全体が大きく崩れる心配はないのではないかと思います」

■資源国には大きな痛手

小谷:心配なのは、それ以外の部分ということですか。

「中国自身よりも、中国の外の方が心配ですね。粗鋼は、あらゆる鉄製品の原料ですが、粗鋼の生産には鉄鉱石と石炭が必要です。中国が粗鋼を減産すれば当然、鉄鉱石や石炭の需要が減り、その価格が下がる。結果的には鉄鉱石と石炭の輸出国、いわゆる資源国にとってマイナス要因になります」

「去年の夏以降、世界のマーケットを混乱させている要因は原油安ですが、他の資源もずいぶん価格が下がっています。こうした傾向に一段と拍車がかかる可能性が大きいとみています」

小谷:資源国にとっては大きな痛手ですね。

「とりわけ苦しい状況に追い込まれているのがブラジルです。ブラジルは今年、2年連続のマイナス成長になりそうですし、国内政治でも与党をめぐる汚職が深刻になっています。これらにジカ熱の流行や自国通貨のレアル安などを加えて『五重苦』といわれていますが、今回の中国の粗鋼減産が加われば、六重苦になってしまいます」


小谷:ブラジルの国家そのものが破綻する可能性はあるのでしょうか。

「そこまで追い込まれてはいないでしょう。しかし、ブラジルより経済規模が小さな国々、小さな資源国にとっては、より大きな打撃であり、すでに足元が危うくなってきた国もあります。具体例を挙げれば、石油を輸出しているアゼルバイジャンやアフリカのナイジェリアなどは、すでにIMF(国際通貨基金)や世界銀行に援助を求めているという報道も流れています」

「現在、資源価格安、特に原油安が世界経済を揺るがす大きなリスクといわれていますが、こうした構図は今後も続くでしょう。さらに中国が今回のような構造調整、構造改革を進めていけば、そのリスク増大に拍車をかける可能性があります。資源国がデフォルト(債務不履行)に陥る、あるいはデフォルトまでいかなくとも国際機関に助けを求めざるを得ない状況が生まれるのかどうか、そうしたリスクを判断する上でも、粗鋼をはじめとする中国の生産動向は要注意だと思ってみています」

日経プラス10のホームページ http://www.bs-j.co.jp/plus10/

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