欧州に押し寄せる難民 過去最速ペースで大混乱

2015/9/2 18:00
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欧州を目指す難民が急増し、欧州連合(EU)を揺るがしかねない大きな問題となっている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は8月28日、中東やアフリカから地中海を渡って欧州入りした難民や移民が今年に入って30万人を超えたと発表した。昨年1年間の21万9000人をすでに上回り、過去最速のペースで増加している。

■各地でトラブル、悲劇も

押し寄せる難民は欧州各地でトラブルを引き起こしている。

ハンガリーの首都ブダペストでは1日、多くの国際列車が発着するブダペスト東駅に数千人の難民らが集まった。同日には同駅通過の全列車の運行が停止され、混乱が広がった。

欧州揺らす難民危機 駅に数千人、列車運行停止(2日)

フランスから英国につながる英仏海峡トンネルに多くのトラックが連なる。沿道には仏人警官が一定間隔で配置され、鋭い視線を飛ばす。トラックに飛び乗って英国に向かおうとする移民が後を絶たない。トラックにしがみつく者を見つけると警察官が引きはがす。

ドーバー海峡を挟んだ仏北部カレー。人口7万人強の中規模都市だが、今や英国をめざす不法移民・難民の「控えの間」だ。その数2千人超。スーダン、シリアなど国籍は様々だ。

不法移民、欧州が苦慮 「移動の自由」に副作用(7月14日)

仏カレーで慈善団体からの食事の提供を受ける移民たち

仏カレーで慈善団体からの食事の提供を受ける移民たち

大半の難民が不法な手段で移動や入国を試みるため、途中で命を落とすという不幸な出来事も相次いで発生している。

地中海での密航船の転覆事故などによる死亡・行方不明者も約2500人に上る。オーストリアでは(8月)27日、ハンガリーとの国境につながる高速道路に止まっていた保冷車の中から、難民や移民とみられる71人の遺体が見つかった。

EU、移民問題で臨時会合 受け入れ分担協議へ(8月31日)

AP通信などによると、リビア北方の地中海で(8月)5日、約600人の不法移民が乗っていたとみられる漁船が転覆した。アイルランド海軍筋は、少なくとも150人が海に投げ出されたと述べた。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は250人が救助され、少なくとも16人の遺体が見つかったと表明した。

現場に船を出して救助に加わっている国際医療支援団体「国境なき医師団」は、多数の死者が出たとしている。

リビア沖で不法移民船が転覆 600人乗り、救助続く(8月6日)

2014年3月、リビア東部から、ブローカーが手配する簡素な漁船に、制限人数をはるかに超える150~200人が乗り込んだ。国籍はエジプトやリビアのほか、アフリカのマリやニジェールなどさまざまだった。

イタリアを目指したが、途中で船が浸水した。マシンガンで武装した見張り役が誰かを海に落とすよう指示すると、乗船者同士が争い、数十人が海に消えた。

中東・アフリカが不法移民に苦慮 欧州へ渡航、船沈没で死者多数(8月8日)

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)報道官は(8月)28日、今年に入り地中海などを渡って欧州諸国に到着した移民や難民が同日までに30万人を超え、海上での事故などで推定2500人が死亡したと明らかにした。

移民2500人死亡 国連難民高等弁務官事務所が推定(8月29日)

■中東やアフリカから新天地へ

これらの難民は経済的困窮や政情不安に悩まされる中東やアフリカの各国から欧州を目指したもの。そのため、まずギリシャやイタリアといった欧州南部の各国に到達する難民がほとんどだ。

欧州に流入する難民・移民の多くは地中海を渡ってギリシャやイタリアに到着。旧ユーゴスラビアの国々や、ハンガリーやチェコなどにも多数の難民らが押し寄せてい(る)

EU、移民問題で臨時会合 受け入れ分担協議へ(8月31日)

国際移住機関(IOM)が(8月)20日にまとめた統計によると、2015年に地中海を渡って欧州に入った難民は計25万5152人にのぼる。このうちギリシャに到着したのは約15万人で、イタリアの10万人強を上回る。

従来はリビアからイタリア南端の島に着き、同国を北上してドイツなどへ向かう難民が多かった。だが、海上での転覆事故が相次ぎ、イタリアも密航仲介業者の摘発を強化したため、難民の経由地の一つであるトルコに近いギリシャに入国するケースが目立つようになった。

難民、EUの分担調整難航 欧州の結束揺さぶる(8月22日)

中東・アフリカ諸国から欧州諸国へ不法に渡航する難民が増える背景には長びく内戦や貧困がある。地中海に面し、欧州に近いリビアで政治の空白状態が続いていることも難民増に拍車をかける。

密航ビジネスが横行 リビア、内戦で国境警備手薄(4月22日)

急増しているのは、シリアなど周辺国の多くにビザ無しでの入国を認めるトルコに陸路などで入り、コス島などに渡航するケースだ。近い島ならゴムボートでも渡れる。

ギリシャの島、移民殺到 中東→欧州渡航の通り道に(8月9日)

ギリシャ・コス島に上陸し、ぬれた衣服を着替えるパキスタン人の一団

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■EUの存在を脅かす恐れも

ギリシャやイタリアに着いた難民は、経済的に豊かな国を目指して欧州内を移動する。欧州内ではEU加盟国間では自由に移動できる協定があるため、いったんEU内に入ると移動を止めるのは困難だ。

シリア難民のアブドラ・ハマンさん(25)はトルコのタイル工場で約2カ月働き、海を渡った。「国に家も仕事もあったが内戦で戻れない。ドイツで仕事を見つけたい」

ギリシャの島、移民殺到 中東→欧州渡航の通り道に(8月9日)

欧州には加盟国にいったん入ると、域内を自由に移動できるシェンゲン協定がある。難民はシェンゲン協定圏内の東端にあたるハンガリーやギリシャなどに入り、豊かなドイツや北欧を目指す。
ギリシャやイタリアといった南欧が経由地にすぎないのは景気がよくないためだ。人気は経済が比較的好調な英独や北欧だ。

難民問題 欧州全域に 独伊「受け入れ限界」(8月22日)

アフガニスタンから陸路で半年歩いてカレーに着いたという男性は「英国に行けば知り合いもいるし、職も見つかるはずだ」

到着地はイタリアやギリシャ、スペインだが、目的地は南欧ではない。景気が良く、職が見つかりそうな英国やドイツ、北欧だ。

不法移民、欧州が苦慮 「移動の自由」に副作用(7月14日)

急増する難民はEUの存在自体を揺るがす事態にまで発展している。

(独首相)メルケル氏は会見で難民を欧州連合(EU)の加盟国が公平に受け入れる必要があると強調。EUの協調がなければ、欧州域内の自由な移動を定めている「シェンゲン協定」の見直しを検討する事態もありうる、との認識を示した。

欧州委の提案に基づき加盟国で難民や移民の受け入れを分担する調整が進んでいる。東欧やバルト3国など分担に慎重な国もなお残り、当初は目指していた強制的な割当制度を断念した。

欧州揺らす難民危機 駅に数千人、列車運行停止(2日)

欧州連合(EU)は9月14日にブリュッセルで、移民問題を協議する臨時の閣僚会合を開く。議長国のルクセンブルクが30日発表した。中東や北アフリカから欧州を目指す難民が過去最速のペースで増え続けていることへの対応策を検討する狙いだ。

EU、移民問題で臨時会合 受け入れ分担協議へ(8月31日)

今年、中東やアフリカなどからEU域内に入った難民は7月までに約34万人を超え、すでに昨年1年を上回った。収容施設不足などでトラブルも頻発し、第2次大戦以来の危機との見方も出ている。(中略)大国ドイツの対応次第では、ギリシャ危機で弱まったEUの求心力はさらに低下しかねない。

難民が揺さぶる欧州 問われるドイツの対応(8月30日)

メルケル独首相は(8月)16日「難民問題はギリシャやユーロ安定よりも大きい困難だ」と述べた。

難民問題 欧州全域に 独伊「受け入れ限界」(8月22日)

23日、小学校で難民登録をするシリアのクルド人(トルコ南東部シャンルウルファ)

23日、小学校で難民登録をするシリアのクルド人(トルコ南東部シャンルウルファ)

■難民受け入れに消極的な日本

翻って日本の対応を見てみると、難民に対して日本は寛容とはいいがたい。

法務省入国管理局によると、14年に難民認定を申請した外国人は、前年比1740人増の5千人と過去最多だが、認定は11人だった。

難民認定求め2度目の提訴 スリランカ男性、勝訴でも不認定(8月28日)

コンゴ(旧ザイール)国籍のマサンバ・マンガラさん(39)が難民認定などを国に求めた訴訟の判決で、東京地裁(谷口豊裁判長)は(8月)29日までに強制退去処分を取り消し、法相に難民認定するよう命じた。

2008年に当局から出頭命令を受け、身の危険を感じて出国、来日して難民申請した。しかし10年に不認定処分となり、異議申し立ても棄却されたため提訴した。

コンゴ人の難民認定命令 東京地裁「迫害の恐れ」(8月29日)

法務省でまとめた2020年までの出入国管理基本計画では外国人の受け入れを拡大する方針を示している。だが、難民に関しては現時点では対象外だ。

移民受け入れに関しては「国民の声を積極的に聴取し、政府全体で検討していく」にとどめる。欧米に比べて厳格すぎると指摘される難民認定制度は運用の改善にとどめ、抜本見直しは見送る。

外国人在留資格を拡大 専門人材受け入れ、法務省検討(2日)

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