自衛隊、未知の領域に 安保関連法施行

2016/3/28 18:00 (2016/3/30 14:45更新)
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イラクで給水活動にあたる陸自(陸上自衛隊提供)

イラクで給水活動にあたる陸自(陸上自衛隊提供)

 集団的自衛権の行使容認などを柱として昨年9月に成立した安全保障関連法が29日、施行された。自衛隊は新しい任務に臨み、未知の領域に踏み出す。具体的なケースでどう動くのか、シミュレーションした。法施行により、自衛隊や安保政策はどう変わるのか。関係国はどんな期待や警戒感を抱いているのか。内外の有識者に聞いた。

■北朝鮮が米にミサイルを発射したら?

北朝鮮が艦対艦ミサイル「KN01」を発射し、米イージス艦のすぐ近くに着弾した。さらに北朝鮮は「米国打撃の発射ボタンを押す」と宣言。北西部の東倉里(トンチャンリ)で、移動式発射台の中距離弾道ミサイル「ムスダン」に燃料を注入した。

首相官邸には閣僚が慌ただしく参集し、国家安全保障会議(NSC)を開いた。議論を踏まえ、首相は集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」と認定する考えを示した。

「ミサイルを発射したぞ」。赤外線レーダーを搭載した米軍の早期警戒衛星が熱源を察知し、その1分後に航空総隊司令官に連絡があった。自衛隊のイージス艦のセンサーでも探知したとの報告が入ってきた。

スクリーンに映し出された着弾予想地点は「グアム」。航空総隊司令官は「発射せよ」と命じた。海自イージス艦から新型迎撃ミサイル「SM3ブロック2A」が発射され、北朝鮮の弾道ミサイルを撃ち落とした。

■集団的自衛権■同盟国など密接な関係のある他国が攻撃を受けた場合に、自国が攻撃されたとみなして共に反撃する権利。国連憲章は自国が攻撃を受けた時に反撃する個別的自衛権とともに、主権国家が持つ固有の権利として集団的自衛権の行使を認めている。

<その時>北朝鮮が米国狙いミサイル発射(3月27日)

集団的自衛権とは(3月27日)

■南沙に漁民上陸、米中が緊迫したら?

 「上陸した数人は武装している」。「漁民」を装った乗組員は実は中国海軍の「助手」ともいえる武装組織「海上民兵」だった。米国は中国をけん制するためにイージス艦の派遣を決めた。

 首相は「米中が正面衝突すれば、在日米軍基地を抱える日本にも直接の武力攻撃に至る可能性は排除できない」と述べ、「重要影響事態」と認定する考えを示した。

 「後方支援をお願いしたい」。ハワイの米太平洋軍司令官は自衛隊制服組トップの統合幕僚長に電話し、イージス艦への給油を要請した。「日本ができることは限られる」。統幕長は平時から米側に伝えている対応を説明した。

 海自の補給艦を派遣し、米第7艦隊が展開するイージス艦への洋上の燃料補給を始めた。展開できる地域は「現に戦闘行為が行われていない現場」に限られるため、南シナ海からは距離があるミンダナオ島の南東部を補給地とした。

■重要影響事態■そのまま放置すれば日本への直接の武力攻撃に至る恐れがあるなど、日本の平和と安全に重要な影響を与える事態。日本の周辺地域で日本の安全に重大な影響を及ぼす「周辺事態」の概念に代わるもので、後方支援できる地域の制約を事実上なくした

<その時>南沙に漁民上陸、米中緊迫(3月27日)

重要影響事態とは(3月27日)

■ソマリア沖で密輸船が確認されたら?

 アフリカ・ソマリア沖で木炭を積んだ密輸船が確認された。イスラム過激派「アルシャバーブ」がテロ活動の資金を集めるために関与したと疑われる。米大統領は首相に電話し、テロ対策の「有志連合」に加わるように要請した。

 日本政府が検討したのは、ソマリア沖などでテロリストの活動を監視する多国籍部隊「CTF150」での船舶検査だった。2001年の米同時テロの際の国連安全保障理事会決議1368号を根拠とした国際的な活動だ。

 首相は「国際社会の平和および安全を脅かす事態だ」と断言。国際平和のために活動する他国軍を支援できる「国際平和共同対処事態」と認定し、護衛艦による船舶検査を決めた。

<その時>ソマリア沖で密輸船確認(3月27日)

■日本のNGOが暴徒に襲撃されたら?

陸上自衛隊が活動する南スーダンの国連平和維持活動(PKO)。医療活動に携わる日本の非政府組織(NGO)が暴徒化した住民に襲撃された。PKO司令部から陸上自衛隊の派遣部隊長に「派遣できないか」と連絡が入った。

派遣部隊長はレンジャー部隊の経験がある自衛官ら約20人を派遣した。NGO事務所の周辺は暴動を続ける住民に囲まれていた。自衛官は弾薬を装填した小銃を抱えて駆けつけた。

暴徒化した住民はこん棒を振り回した。隊員は銃口を向けて威嚇し、さらに現場の小隊長はやむなく警告射撃を指示。隊員は上空に向け発砲した。「パン、パン」。銃声にひるんだ暴徒は立ち去り、NGO職員を保護した。

<その時>日本のNGOを暴徒襲撃(3月27日)

■森本敏・元防衛相「防衛の裾野広げる」

今回の安全保障法制の整備で、現行憲法下で日本ができる武力行使にかかる安保政策の法整備はおおむね完了した。限られた条件下ではあるが、集団的自衛権の行使が可能になる。

いずれにしても平時でも有事でもない「グレーゾーン」事態への対処を含め、日本の防衛の裾野を非常に広くした。ただ、それを実行するためにどのような部隊運用をするかは今後の課題だ。

気をつけなければいけないのは日本が米国に何でもできるようになったと受け止めているならその誤解を解く努力をしないといけない。できないことがまだある。米国にそのことを理解してもらうことは日米同盟を強化する手段でもある。

識者はこう見る 元防衛相 森本敏氏 防衛の裾野広げる(3月27日)

森本敏 元防衛相

森本敏 元防衛相

■アーミテージ元米国務副長官「米国民は心強く思う」

日本での安全保障関連法の施行は日本が普通の国になるための大きなステップになると考えている。(沖縄県尖閣諸島付近で挑発する中国に対応するために)まず日米両政府がグレーゾーンを含め不測の事態を想定した共同作戦計画づくりを進められる。

 極東で米艦船が攻撃や困難に遭ったときに日本が米艦船に協力も救出もできないという心配もなくなる。これまでは日本の憲法が米艦船が攻撃されても日本が協力することを禁じていた。その禁止が解かれたことにより、米国民が日本を心強く思うようになるのは明らかだ。

米軍と自衛隊の関係をみると、空軍と航空自衛隊、海軍と海自はうまく連携できているが、陸軍と陸自はそれほどでもない。陸軍と陸自は同盟調整メカニズムを通じて海軍と海自と同じ連携のレベルまで引き上げたい。

元米国務副長官 リチャード・アーミテージ氏 米国民は心強く思う(3月27日)

アーミテージ元米国務副長官

アーミテージ元米国務副長官

■柳明桓・元韓国外相「周辺国に丁寧な説明を」

安保法制は2つの側面で大きな意味がある。1つは日米安保体制を強化して米国がアジアでの軍事的な役割を続けるという、いわゆる中国の浮上に伴う米国の「リバランス(再均衡)政策」を実質的に裏付ける。2つ目は、そのためには日本の軍事力を増強せざるを得なくなり、北東アジアの安保情勢に極めて大きな影響を与えることだ。

北朝鮮を抑止する米国の作戦計画が変わった。北朝鮮が核ミサイルを使用しようとする明白な兆候があるときは先制攻撃もできるが、米単独ではできず、後方基地である在日米軍の役割が相当にある。今回、明示的に後方支援のために弾薬を支援し、燃料を提供できるようにしたのは、韓(朝鮮)半島での米国の作戦上、必須不可欠なものだ。

 第2次世界大戦で日本から被害を受けた国々は歴史問題で日本への疑念を解消できていない。重要なのは、安保法制への移行の際に透明性を高めるとともに、周辺国に対し、安保法制を整備しても平和憲法の精神は変わらないし、一方的に軍備を拡張することもなく、地域の平和と安全を確保する意味合いで必要だと引き続き説得しなければならない。それは日本国民に対しても同じだ。

元韓国外相 柳明桓氏 周辺国に丁寧な説明を(3月27日)

柳明桓・元韓国外相

柳明桓・元韓国外相

■閻学通・清華大教授「日中衝突もたらす危険性」

中国は安全保障関連法を懸念している。日本がすぐ軍事的な脅威になると考えているわけではなく、軍部(自衛隊)の権限が増すのを危惧している。

安保法で中国に対する抑止力を高めるという安倍政権のロジックは理解できない。日本に抑止力はなく、米国の対中抑止力を支援するだけだ。そして、米国の抑止力と日本の安全には何の関係もない。

日本が南シナ海で米国の対中抑止を支援すれば、東シナ海での中国の軍事圧力を減らせると考えているなら間違いだ。逆に中国は東シナ海で日本への軍事抑止を強める可能性がある。釣魚島への船の派遣はますます増えるだろう。

清華大教授 閻学通氏 日中衝突もたらす危険性(3月27日)

閻学通・清華大教授

閻学通・清華大教授

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