日本動物園水族館協会(JAZA)は20日、国内の会員で投票を実施し「追い込み漁」で捕獲されたイルカの購入を禁止することを決めた。これにより、世界動物園水族館協会(WAZA、スイス)からの除名を免れ残留できる見通しとなった。なぜ、このような事態になってしまったのだろう。
実は10年来の問題
今回の騒動について唐突な印象をもつ人が多いだろうが、WAZAとJAZAの間では実は10年以上にわたって話し合いが続いていた。基本的な構図は、「追い込み漁」を使って捕獲するという手法が残酷で"非人道的"なのでやめるように求めるWAZAに対し、日本の多くの水族館が加入しているJAZAが反論するというものだ。
世界協会は追い込み漁を「非人道的で倫理規定に反する」と非難し、捕獲したイルカを水族館が買い取ることに反対。日本協会と10年以上にわたり交渉を重ねてきた。昨年には、買い取りの2年間凍結という妥協策を提案したが、日本協会に拒否されていた。
日本側の通知、世界協会が歓迎 追い込み漁のイルカ入手禁止(21日)話し合いがなかなか進展しないことに業を煮やしたWAZAが4月にJAZAに対し、会員資格の停止と除名の可能性を通知したことが、今回の騒動の直接的なきっかけとなった。
WAZAはJAZAに対し、追い込み漁で捕獲されたイルカを水族館が入手するのは倫理規定に違反しているとして、4月21日付での会員資格停止と、5月21日までに改善されない場合の除名を通知していた。
「追い込み漁」のイルカ入手を停止 日本の団体(20日)ホームページによると、WAZAは満場一致で資格停止を議決した。
水族館のイルカ入手に「待った」 国際組織が資格停止(9日)除名という最悪の処置を通知されたJAZAは、慌てて会員となっている国内の動物園と水族館を対象に投票を実施し、その結果として世界協会への残留を決めた。
会員である国内の89動物園と63水族館で19日に投票を実施。20日に開票し、有効投票142票のうち、世界協会への残留希望が99票、離脱は43票だった。日本協会は同日、残留を要望する文書を送付。追い込み漁のイルカ購入はやめ、飼育下での繁殖促進で各水族館が協力することを決めた。
水族館のイルカ、追い込み漁で調達禁止(21日)JAZAが追い込み漁で捕獲したイルカの調達を禁止したことで、WAZAの会員として無事に復帰できる見込みだ。
世界動物園水族館協会(スイス)は20日、和歌山県太地町の追い込み漁によるイルカの入手を禁止するとの公式通知を同日、日本動物園水族館協会から受けたとし「歓迎すべき進展だ」と評価する声明を発表した。世界協会が日本協会の会員資格を復活させる可能性が高まった。世界協会は近く理事会で資格回復の可否を決める方針だ。
日本側の通知、世界協会が歓迎 追い込み漁のイルカ入手禁止(21日)やめてもやめなくても問題
もし、WAZAの資格停止が続いたり除名という事態になっていたりしたら、日本の動物園や水族館の運営に悪影響が出る恐れがあった。
国際組織との関係悪化により、日本の動物園や水族館が希少動物の繁殖などで海外から協力を得られなくなる懸念がある。
水族館のイルカ入手に「待った」 国際組織が資格停止(9日)会員資格がなくなった場合、希少動物の繁殖などで海外の情報を得にくくなる恐れがある。
イルカ入手、今月中に結論 日本動物園水族館協会(11日)京都市動物園(京都市)の担当者は「世界協会を脱退すれば信用を失い、海外から繁殖用の希少動物を入手することが難しくなるところだった」と話す。世界協会を通じ海外の動物園から繁殖用シマウマを入手する計画が進行中。「希少動物は国内だけで繁殖すると、体の弱い子供が生まれる可能性が大きい」という。
「なぜ駄目か分からない」 各地の水族館、困惑の声(21日)だが、WAZAに復帰できても、問題がないわけではない。そもそもWAZAからの指摘に対して反論していたように、今回の決定により追い込み漁によるイルカの確保に頼っていた水族館の運営に大きな影響があるのだ。
JAZAによると、加盟している水族館のうち、イルカを飼育しているのは約30カ所。うち大半は太地町での追い込み漁によるイルカを入手したことがあった。
イルカ入手、今月中に結論 日本動物園水族館協会(11日)(日本動物園水族館協会)に加盟する水族館・動物園34施設がイルカを飼育し、うち少なくとも19施設は太地町から入手している
水族館・動物園のイルカ、19施設が「追い込み漁」(19日)「イルカショーは集客の目玉。やめるわけにいかない」。北陸地方の水族館の館長(58)はため息をつく。和歌山県太地町の追い込み漁で捕獲したメスのイルカ3頭を飼育中で、展示継続には「オスを譲り受けて繁殖させるなど、水族館同士で協力するしかない」。
「なぜ駄目か分からない」 各地の水族館、困惑の声(21日)追い込み漁のイルカ購入はやめ、飼育下での繁殖促進で各水族館が協力することを決めた。
繁殖への取り組みを進めるが難易度は高く、中長期的にイルカの確保や展示に影響が出る可能性がある。
水族館のイルカ購入禁止 追い込み漁捕獲問題で(21日)欧米では繁殖させたイルカの展示が一般的だが、繁殖には人員やノウハウが必要で、中小規模の水族館にはハードルが高い。
雌雄がそろわない場合も多く、繁殖だけで全施設が確保するのは難しい。
追い込み漁でイルカ84頭を販売 14年度に和歌山・太地町(21日)追い込み漁の何が問題?
そもそも「追い込み漁」の何が問題とされたのだろう。
イルカの追い込み漁は、複数の船が海に入れた鉄管を金づちで叩き、イルカを湾内に追い込んで捕まえる手法。
2014年9月から15年4月の漁期では937頭を捕獲、うち84頭が水族館などに販売された。
追い込み漁でイルカ84頭を販売 14年度に和歌山・太地町(21日)今回の一連の騒動は、長年国際問題となっている反捕鯨運動の一環ととらえられる。そもそもイルカとクジラは非常に近く、大ざっぱにいって大きさで分けられているほぼ同じ仲間だ。
反捕鯨団体との対立が続いている和歌山県太地町の公民館で2日、同町側と反捕鯨団体などとの初めての意見交換会が開かれた。
イルカ漁巡り反捕鯨団体と意見交換 和歌山・太地町(2010年11月2日)米国務省のハーフ副報道官は(中略)日本でのイルカ漁に関し「生物資源の持続可能性と道義性の両面で懸念している」と表明した。
商業捕鯨に反対する米政府の立場を重ねて強調。ケネディ駐日米大使が、短文投稿サイトのツイッターでイルカの追い込み漁に反対したことには「米政府の長年の見解を表現したものだ」と述べ、日本政府に直接、懸念を伝えていることも明らかにした。
日本のイルカ漁に米が懸念表明 「大使は政府の見解示した」(2014年1月22日)(安倍晋三首相は)「古くから続いている漁だ。文化であり慣習として、生活のために捕っていることを理解していただきたい」と述べた。
首相、イルカ漁で理解求める(2014年1月25日)イルカ漁の歴史は古く、明治時代以前は全国各地で行われてきた。イルカ漁に詳しい静岡産業大の中村羊一郎教授は「食材としての社会的な必然性は失われている」と見ている。ただ、「地域で受け継がれてきた食文化を一方的に否定することが正しいのか、国内外で冷静に議論する必要がある」と話している。
イルカ漁論争、困惑する和歌山・太地(2010年3月28日)