意外に簡単コーヒー豆焙煎 3杯分なら手網で5~6分
巣籠もり生活のなか、自宅でコーヒーを楽しむ人が増えた。豆や抽出器具も売れている。ただ、焙煎(ばいせん)となると「難しい」イメージがつきまとい、尻込みする人が多い。本当にそうか。記者が試してみた。

コーヒー豆の焙煎は職人技で、素人にはハードルが高い。そんなイメージを持つ人もいるのではないか。
「そんなことはない」と断言するのは、都内と台湾に「珈琲(コーヒー)や」6店を展開するJINフードビジネスコンサルティング(東京・中野)代表の前田諭史さんだ。新中野本店や早稲田の店では、小型焙煎機での焙煎体験(実費は豆の代金のみ)を随時実施。手網を使う焙煎体験もイベントの際に開いている。「回数を重ねれば誰でも上達します」(前田さん)
手網なら自宅やキャンプで手軽に焙煎を楽しめる。直径20センチ程度の手網は1000円台~3000円台で買える。ギンナン煎り用でもいい。
コーヒーは豆の種類、果実から豆を取り出す精製方法、焙煎度合いなど様々な要素の組み合わせで風味が変わる。基本的に浅い煎りだと酸味が立ち、煎りを深くすると苦みが勝ってくる。前田さんによれば「手網だと酸味よりも香ばしさの方が出しやすい」。
最初のポイントは豆選び。初心者には、苦みとコクがしっかり出るブラジルやコロンビアの豆が向いている。今回はやや大粒の「コロンビア クレオパトラ」の銘柄を使った。
精製方法は、果実から取り出した豆を洗った後に乾燥させる「ウォッシュド」。珈琲やでは1杯500円だ。

一度に焙煎する豆の量は40グラム以上が望ましい、と前田さん。今回は3~4杯分の50グラムにした。これを、8段階に分かれる焙煎度合いのうち「シティロースト」まで焼くことにする。珈琲やでは一般よりもやや深めに仕上げる。
豆を焙煎するとチャフと呼ばれる薄皮の焼けカスが飛び散る。これを減らすため、まず手網に豆を入れたままシャカシャカと水洗いする。
焙煎で注意すべきは「焼きムラ」と「焦げ」だ。手網を平行に構えて左右に揺らすだけでは均等に熱が行き渡りにくい。コツは、手網を少し傾け、手首のスナップを利かせて豆が手網の中全体で躍るように小さく「回す」こと。手網で楕円を描くイメージだ。
普通は手網をコンロの火から20センチほど離す。ただ、手網の風圧でコンロの火が揺れると熱効率が悪くなる。そこで業務用のトマト缶詰などに使う直径20センチ、高さ25センチほどのスチール缶を活用する。これをコンロの上に置くと火が揺れず、安定して熱が伝わる。
あとはひたすら手網を振る。耳に神経を集中させる。
2分ほどすると「パチン」と豆が爆(は)ぜる音がする。豆の細胞が壊れた音だ。これを「1爆ぜ」という。にわかにパチパチという音が高まり、緑色だった豆は茶色味を増す。やがて1爆ぜの音が小さくなったかと思うと、まもなく今度は「ピチピチ、チリチリ」と細かい音がしはじめる。これが「2爆ぜ」だ。
今回は2爆ぜ開始から20秒余り後、前田さんの合図で手網を火から外した。うちわで上から下からあおぎ、豆を冷ます。濃い茶色に焼けた豆の表面にうっすら油が浮いている。焦げた豆は取り除く。
焙煎にかかった時間は6分弱。思ったよりも短い。豆の量や腕前でこの時間は変わる。スチール缶を使わないと10分以上かかる場合もある。「炭火なら高温で安定しているので、5分ぐらいで焼き上がります」(前田さん)
手軽とはいえ、やはり手網は焼き具合や時間にブレが生じやすい。「一度、ブレの小さい焙煎機を体験して、豆の色の変化など正確な焼き具合を確認してから、手網にトライしたほうがいい」(前田さん)。まずは正しい「ゴール」を知っておくこと、というわけだ。珈琲やでは1キログラムまで豆を焼けるオリジナルの小型焙煎機を使う。200グラムの豆が10分あまりで焼き上がる。
前田さんの指導よろしく、初めての手網焙煎はほどよく焼き上がった。ほのかな酸味と苦味がマイルドに調和した味わい。とりあえずは及第点か。翌日、記者の手首は少しだけ痛くなった。
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焙煎した豆 どう保存?

焙煎体験ができる店やワークショップは徐々に増えており、生豆は自家焙煎店や通販で購入できる。珈琲やの「クレオパトラ」は320グラムが1350円。取り扱う約200種類の多くが千数百円台だ。他社の通販には割安な豆もあるが、購入単位が500グラムや1キログラムの場合もあるので確認しよう。
焙煎した豆は4~7日たつと風味が最も強くなるといわれる。だが前田さんは「焙煎した日から味わいが徐々に変わっていくのを楽しむのもいい」と話す。1カ月以内に飲みきるなら、豆はキャニスターなどに密閉して日陰で保管する。より長く保管するなら冷凍しておくといい。一方、生豆は直射日光と湿気を避け、風通しの良い場所に置けば数年間保存できる。
(名出晃)
[NIKKEIプラス1 2021年8月14日付]
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