電子レンジ、正しく使って解凍上手 低出力モードが鍵

夏のキッチンの頼れる相棒、電子レンジ。あの箱の中では食材をどう加熱しているのか。科学的視点でおいしく料理する方法を研究する平松サリーさんの新連載。第1回はレンジ活用法だ。
料理には様々な科学が関わっている。この連載では、料理をよりおいしく簡単に失敗なく作れるようになるための科学を紹介していこう。
電子レンジはマイクロ波という電磁波の性質を利用して食品を加熱する。怖いイメージがあるかもしれないが、普段目にする光や、テレビに使われる電波も電磁波の一種。マイクロ波の波長は炭火や暖房機器が発する遠赤外線よりも長く、FMラジオに使われる超短波よりも短い。
電子レンジに内蔵された装置からマイクロ波が照射され、食品に吸収されると熱に変わる。食品に含まれる水などの分子はマイクロ波を吸収すると激しく振動し、こすれ合う。これによって摩擦熱が生まれ、食品そのものが発熱する仕組みだ。
コンロやオーブンを使った加熱方法では、鍋や水、空気を温めることで食品の外側から熱が加わり、その熱が徐々に内側へと伝わって火が通る。一方、電子レンジは食品自体が発熱するのでエネルギーの無駄が少なく、短時間で加熱できる利点がある。
このようにマイクロ波を利用した加熱は、他の方法とは異なる特徴がある。電子レンジを上手に活用するには、マイクロ波の性質をよく知っておくことが重要だ。
例えば、マイクロ波は食品の中を通り抜けながら水分に吸収されていくため、ある程度水分を含む食品では表面から6センチ前後の深さまでしか加熱されない。したがって、丸ごとのキャベツや丸鶏のように半径が6センチを超えるものを加熱しても、外側ばかりが熱くなり、内側にはほとんど火が通らない。大きいものは適当な大きさに切ってから加熱し、量が多いときには広めの容器に浅く広げるか、途中で混ぜながら加熱すると加熱ムラが少なくなる。

キーマカレーのように具が細かいものは、混ぜながら加熱すれば加熱ムラが気になりにくく、電子レンジ向きの料理と言えるだろう。
また、塩水は真水よりもマイクロ波をよく吸収するため、塩味のついた部分はそうでない部分より加熱されやすく、マイクロ波の浸透は浅くなる。シチューなどとろみのある煮込み料理を電子レンジで温めると、外側ばかり熱くなる。この場合も途中で混ぜながら加熱するとよい。
この性質を利用した裏ワザもある。塊肉の表面に塩をすり込んで電子レンジで加熱すると、表面だけが強く加熱され、ローストビーフのように内側がレアで仕上がる。
水と氷でも温まり方が違う。氷は水よりマイクロ波を吸収しにくく、冷凍された食品を解凍しようとすると、溶けた部分にマイクロ波が集中してしまう。すると凍った部分はなかなか温まらないのに、溶けた部分だけ熱く火が通った状態になってしまう。
これを避けるには、100ワットから200ワット程度の低出力(解凍)モードを活用する。ワット数が小さいほどゆっくり加熱される。その間に溶けた部分から凍った部分に熱が伝わり、比較的均一に解凍される。解凍モードではアルミ箔も使える。金属はマイクロ波を反射するので、身の薄い箇所など、溶けやすい部分をアルミ箔で覆って過熱しないようにする。角があったり、庫内の壁面と接触したりするとスパークすることがあるので、シワが寄らないようぴったり巻くのがコツだ。
加熱時間の考え方も他の加熱方法とは異なる。例えば、鍋と水でじゃがいもをゆでる場合、火が通るまでにかかる時間は、じゃがいもの量が増えてもさほど変わらない。一方、電子レンジは温める食品が増えるとその分多くのマイクロ波を当てる必要があり、ほぼ量に比例して加熱時間が長くなる。レシピを参考にしてレンジ調理をする場合、分量を減らしたり増やしたりしたら、それに合わせて加熱時間も調節しよう。量が2倍なら加熱時間は約1・7倍、3倍なら約2・6倍が目安だ。
時間が量に比例するということは、少量の食材なら短時間で加熱できる半面、量が多い場合はむしろ時間がかかってしまう。主菜は1~2人前、副菜は1~4人前程度が作りやすい適量だろう。
◇ ◇ ◇
Wi-Fiへの干渉に注意

電子レンジ使用中にWi-Fiの接続が不安定になった経験はないだろうか。Wi-Fiで使われる周波数には2.4ギガヘルツ帯(2400メガヘルツ前後)と5ギガヘルツ帯(5000メガヘルツ前後)という2つの帯域がある。一方、日本で使われている電子レンジのマイクロ波は周波数が2450メガヘルツで=写真、Wi-Fiの2.4ギガヘルツ帯と周波数が近い。このため、レンジから漏れた微量の電磁波が干渉して接続が不安定になることがあるのだ。電子レンジをよく使う場所では、5ギガヘルツ帯のチャンネルを選ぶと快適にインターネットを利用できる。
(科学する料理研究家 平松 サリー)
[NIKKEIプラス1 2021年7月3日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。