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存在感増すイチロー、気がつけば正右翼手に

スポーツライター 丹羽政善

ヤンキースタジアムで行われるホームゲームの場合、試合開始のおよそ3時間半前にクラブハウスへとつながるドアが開く。外で待っていた記者らが真っ先に向かうのは実際のクラブハウスの扉の前で、そこにその日のスターティングメンバーが張り出されている。

スタメンにあったりなかったり

ある人はメモを取り、またある人は携帯電話でパシャリ。そこでスタメンを確認するわけだが、昨年の夏前から、「SUZUKI」の文字があったり、なかったり。

そういう状況をイチロー本人は昨年8月、日米通算4000安打を打った夜に、こんなふうに話していた。

「ラインアップカードを見るまでは、先発としてゲームに出られるかどうか分からない。ずっとそうなんですよ。もちろん出発前に家でできることをやってここに来るんですけど、なかなか安定した気持ちの中でここに来ることはできない。今日もそうでした。で、ラインアップカードに自分の名前があったときにそこでスイッチが入るというより、入れるという行為ですかね、自分の中で。そういうなかなか難しい時間を過ごしてます」

重い話をどこか面白おかしく話していたのがイチローらしかったが、そうした状況は今年も変わらず、4月などはカルロス・ベルトラン、ジャコビー・エルズベリーの加入もあって、ますます起用が不定期になっていた。彼らの補強が決まった時点で、分かっていたこととはいえ、全く出ない試合が続いたり、代走と守備固めだけという試合もあったりして、むしろ状況は厳しさを増していたといえる。

こっそりと、静かに名を連ね

ところが、だ。このところラインアップカードを見るたび、当たり前のように「SUZUKI」の文字がそこにある。マリナーズ時代のように、「ICHIRO」ではないことに違和感が残るが、6月は28日現在(以下の記録も同じ)、25試合中24試合に出場し、18試合が先発出場だ。

これはもう、レギュラーといっていいのではないか。ジョー・ジラルディ監督はこっそりと、静かに、イチローを正右翼手とした。

きっかけは、正右翼手のベルトランのケガである。

ベルトラン、右肘に再び違和感

ベルトランは5月13日に右肘の遊離軟骨による痛みから故障者リスト入り。彼が離脱するまで、イチローは30試合に出場したが、スタメン出場はわずか13試合だった。

ベルトランは6月5日に復帰するまで、計21試合を欠場。イチローはその間、腰の痛みで出場を4試合見合わせたものの、出場した16試合中11試合で先発出場した。

ベルトランの復帰後、イチローの起用にどう変化があるのか気になるところだったが、実際は、むしろ出場頻度が高まった。ベルトランが復帰した6月5日から28日までの21試合で、イチローがスタメンで出場したのは15試合となっている。

要因は、複数ある。

ベルトランが痛めたのは、利き腕。復帰したとはいえ、送球ができず、試合に出場するのと並行して送球練習をしてきたが、先日、再び違和感を覚え、しばらく様子を見ることになった。ベルトランが指名打者に専念する限り、イチローがライトを守ることになる。

当初、主に指名打者で出場していたアルフォンソ・ソリアーノがベルトランに代わってライトの守備につくとみられていたが、彼の場合、守備に難があり、しかも目下、極度の打撃不振。5月は2割2分で、6月は1割9分4厘。これで彼はすっかり出番を失った。

ただ、最大の理由はやはりイチローが3割以上の打率を残し、好調を維持していることだろう。

打率3割、開幕から一度も切らず

まだ規定打席には達していないが、開幕からまだ打率3割を一度も切っていない。出塁率も3割5分4厘と依然高い。

また、右投手との対戦打率は2割8分1厘で、左投手に対しては3割6分7厘。これならば、先発投手が左右どちらでも起用できる。これまで相手先発が左の場合はソリアーノ、という傾向が強かったが、そういう縛りも徐々に薄れつつある。

かつてのイチローらしさは、他の数字にも表れている。本塁打を除くグラウンド内に飛んだ打球が安打になった割合を示す「BABIP(Batting Average on Balls In Play)」が、今年は3割6分6厘(27日現在)という高い数字を示し、昨季の2割8分5厘と比べれば1割近くも上がっている。

BABIP、打率や出塁率の高さ裏付け

イチローのBABIPのキャリア平均は3割4分4厘。この数字の高さが彼を支えていた面もあり、2割台にまで下がったBABIPがかつての数字を上回っていることは、現在の打率、出塁率の高さを裏付けている。

先日も少し紹介したが、加えて今季はボールを振らない。2つの異なるデータがあるが、25.4%(37.5%)、27.4%(37.7%)といずれも20%台だ。カッコ内は昨年の数値だが、劇的に変化しており、おそらくこうした数字こそ、BABIPの高い数字などを下支えしていると捉えられよう。

開幕前に度々ささやかれたトレードの噂もすっかり耳にしなくなった。ヤンキースとしてはベルトラン、エルズベリーら、レギュラーの故障を想定してイチローのトレードを思いとどまったが、懸念が現実となり、その状況の中で結果を残したのだから、イチローの存在感が増した。

ベルトランはリスクを恐れ、今季はもう指名打者に専念するとの見方がある。となると今後も、張り出されたスタメンにイチローの名前があるのかどうか、さほど気にする必要はないのかもしれない。

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