勇気なかった日本 数的優位で陥った罠
まるでアジア予選で日本が困っているときのサッカーを見ているようだった。ガッチリ守ってくる相手に対して攻めあぐねる。19日行われたワールドカップ(W杯)ブラジル大会の日本―ギリシャ戦は、退場で1人欠けて10人となった相手から最後まで得点を奪えずに引き分けた。日本に足りなかったのは「勇気」ではないだろうか。

■ギリシャ、1人減って守りの意識徹底
ともに初戦を落として負けられなかった第2戦。とはいえ、欧州予選12試合で6失点と堅守を誇るギリシャは決して自分たちのスタイルを崩さず、前がかりになって攻めてはこないだろうと予想していた。
試合当初はギリシャのバイタルエリア(DFとMFの間)がやや空いていたこともあり、20分すぎの大迫のシュートなど惜しいチャンスもあった。だが、屈強な選手が居並ぶギリシャの壁をあと一歩のところで崩せなかった。
そうした流れの中で、38分にギリシャのMFカツラニスが2枚目のイエローカードを受けて退場となった。ギリシャが10人に対し、日本は11人。普通ならこれで日本が有利となりそうだが、「数的優位」に立ったことで逆にこの試合は難しくなってしまった。
ギリシャはすかさずFWフェトファツィディスに代わってMFカラグニスを投入。ゲームコントロールできる37歳のベテランを入れることで、ガッチリ守るという意識をさらに徹底してしまったのだ。
■球は回れどペナルティーエリア入れず
試合当初のギリシャのシステムは「4-1-4-1」だったと思うが、10人になってからは「4-4-1」に。バイタルエリアにあったスペースも、この後はすっかり消えてしまった。
アジアでは日本の攻撃力を恐れて、守備を固めてくるケースが多い。そうした相手に苦労しながらも何とか「個」の力で打ち破って勝ち上がってきた日本だが、W杯の舞台で世界のトップレベルを相手にすると、そうはいかない。ガッチリと守られたときの日本の問題点が浮かび上がった試合といえるだろう。
日本はゴール前を固めた相手DFを、引きはがすような動きをしなければいけなかった。だが、ボールは回れども、ペナルティーエリアに入っていく動きがない。
DF内田は右サイドを駆け上がって、再三チャンスを演出して素晴らしかったと思う。だが、内田に呼応した動きがあまりにも少なかった。後半の連動した日本の攻撃は、山口のパスを受けた内田が敵陣深い位置でクロスを上げ、大久保がシュートした場面ぐらいだったのではないか(ゴール左に外れる)。
■ボランチの人を追い越す動き少なく
確かにクロスに対して、ペナルティーエリア内に選手はいた。でも、いるだけ。それでは相手は怖くない。屈強な相手DFにマークされて、案の定つぶされていた。
やはりボールとともにペナルティーエリアの外から走り込んでくるような選手がいないと相手の守備網は崩れない。視界から外れている選手が突如、ペナルティーエリア内に出現することで相手のマークはずれるし、脅威を与えられる。
いろいろ要因はあると思うが、日本のボランチが人を追い越していくような動きが少ないのも一因だと思う。遠藤らは下がった位置から決定的なパスを出すのは得意だが、人を追い越してペナルティーエリア内に駆け上がっていくような動きは少ない。堅守のチームに対しては、そうした動きがないとマークがずれないし、なかなか崩すことは難しい。
相手が10人になって、おそらく日本の選手たちは「いける」という思いがあったはずだ。だが、リスクを冒して前線に駆け上がる「勇気」が足りなかったのではないか。ボールを回していけば、いずれギリシャは疲れて守備にほころびができるだろうという楽観的な思い。有利な状況に立ったことで逆に心理的な罠(わな)に陥り、どちらかといえば単調な攻撃に終始してしまったのだろう。
■堅守に見え見えの攻撃はじき返され
予想外の動きがないから怖くない。「ここでクロスを上げますよ」とでもいうような日本の見え見えの攻撃をはじき返すことは、堅守のチームにとってはさほど難しくなかったはずだ。
ザッケローニ監督も先発から香川を外すなど勝負手を打っていた。状態のいい大久保を使うと同時に、香川の発奮を促すという意味もあってのことだと思う。先発した大久保は相手のペナルティーエリア付近で再三ファウルをもらうなど動きは悪くなかった。その意味で、この策は間違ってはいなかったのではないか。
ただ3枚目の交代のカードを最後まで切らなかったことを「もったいない」と思ったのは私だけではないだろう。残り10分から15分ぐらいのときに、(守備的な)ボランチを1枚削ってFWの柿谷や斎藤を投入しても……。

ギリシャの選手たちは相当に疲れている様子だったので、斎藤の得意とするドリブルで勝負する手もあったと思う。足が止まっているところに、自分から仕掛けられる選手が入ってくることは相当に嫌だったはずだ。このときピッチにいた選手を信頼していたのだと思うが、カードを切らなかった理由はザッケローニ監督しか分からない。
■コロンビア戦、奇跡信じてプレーを
1次リーグ最終戦のコロンビア戦は開き直って戦うしかない。コロンビアは1次リーグ突破を決めたことでメンバーを落としてくるかもしれないが、南米予選を2位で通過した実力国。前線に素晴らしい選手がいるし、カウンターも速い。どちらかというと、日本の苦手とするタイプのチームだ。
だが、ここまで来たらそんなことは言っていられない。コロンビアの強烈な攻撃をガッチリ受け止めた上で、しっかり点をとりにいく。(パスを回して)ボールを走らせるだけでなく、自分も走る。チャンスと見れば、勇気を持ってペナルティーエリア内に走り込んでいくことが必要だ。
日本が勝っても、1次リーグ突破はコートジボワール―ギリシャ戦の結果次第ということもあり、確かにそのハードルは高い。しかし、奇跡を信じてプレーしなければ、決して道は開けない。
日本はコロンビアに勝つことが必ず必要。その場合でも、コートジボワールがギリシャに勝てば勝ち点で及ばずに1次リーグ敗退となる。コートジボワールとギリシャが引き分けた場合は日本とコートジボワールが勝ち点4で並ぶが、日本がコロンビアに2点差以上で勝てば得失点差で自動的に決勝トーナメントに進出。ギリシャが勝った場合は、ギリシャが2点差以内の勝利なら日本が自動的に決勝トーナメントに駒を進める。
国名 | 試合数 | 勝ち | 分け | 負け | 勝ち点 | 得点 | 失点 | 得失差 |
コロンビア | 2 | 2 | 0 | 0 | 6 | 5 | 1 | 4 |
コートジボワール | 2 | 1 | 0 | 1 | 3 | 3 | 3 | 0 |
日本 | 2 | 0 | 1 | 1 | 1 | 1 | 2 | -1 |
ギリシャ | 2 | 0 | 1 | 1 | 1 | 0 | 3 | -3 |