宇宙を迫力ある映像に CG制作現場を見た
渦巻き銀河や銀河団、宇宙の進化など、まるで宇宙船かタイムマシンに乗ったかのような視点から大宇宙を堪能できる映像が身近になってきた。宇宙の現象や謎を、科学データに基づいて迫力あるコンピューターグラフィックス(CG)としてビジュアル化しているチームが国立天文台にある。その制作現場を訪ねた。
科学と芸術を融合するようなビジュアル化に挑んでいるのは、国立天文台の4次元デジタル宇宙プロジェクト「4D2U(フォーディーツーユー)」。少人数の集団で、数々の映像を制作してきた。いずれも目を奪われるような作品だ。
一見、天文ファンなど一般向けの普及活動用にもみえるが、実はそうではない。「もともとは研究者自身がより直観的に理解できるよう用意した研究者向けツールという比重の方が大きかった」と、同プロジェクトを率いる小久保英一郎・国立天文台教授は話す。
一般のCGと異なるのは、想像力を駆使した映像表現というのではなく、ダイナミックでありながら、科学データに基づき科学的な正確さを期したCGという点。元となるデータは、実際に観測されたデータかシミュレーション結果のデータだ。
観測データから作られたCGとしては、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2007年に打ち上げた月周回衛星「かぐや」のデータを基にした、詳細な「月面全体の地形図」などがある。一方、シミュレーション・データから制作されたものには「宇宙の大規模構造」「月の形成」などがある。時間をさかのぼって月の誕生を観測することは天文学者といえども不可能。現実に観測するのが難しいものやそう簡単に観測できない珍しい現象などは、シミュレーションで再現して映像化している。
実際にCG化作業をしているのはゲーム制作の経験もある専門家。研究者から渡された100万個もの数字のかたまりを元に映像化し、研究者のチェックなどのやりとりをへて完成する。
これらの作品は、国立天文台のウェブサイトでパソコンからも見ることができ、国立天文台のドームシアターで体感することもできる。
2001年にスタートした「4D2U」のプロジェクト。ホームページに30前後の映像を掲載するほどの成果を出している。しかし、まだ映像化していない大量のデータが眠っており、「4D2U」では今後も機会をとらえて映像化に取り組む考えだ。科学と芸術を橋渡しすることで、科学をビジュアル化し、研究にも普及にも役立つ世界がさらに広がっていきそうだ。
(映像報道部 菊次正明)