シューズ洗ってる? 走りを磨くランナーの習慣 - 日本経済新聞
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シューズ洗ってる? 走りを磨くランナーの習慣

ランニングインストラクター 斉藤太郎

ランナーにとって最も大切な道具であるランニングシューズ。汚れても洗わないまま使い続けてはいませんか? トレーニングを積んでいると、たとえ舗装道でしか走っていなくても徐々に汚れてきます。土や芝生の上を走ればなおのこと、雨に降られることの多いこの時期は特に汚れてしまいがち。日ごろの何気ない習慣を正しくすることで、ランナーとしてのレベルを高めていきたいものです。

トップ選手は道具を大切にする

ランニング中はシューズの中の足も多量に発汗しますし、夏の暑い時期は体から噴き出す汗が脚を伝って垂れてきます。シューズが汗で湿ったり雨でぬれたりした後、何もしなくても乾くので大丈夫という人もいるでしょう。しかし、ほったらかしておくと様々な菌が繁殖し、嫌な臭いもしてきます。とても不衛生です。

スポーツのトップ選手は道具を大切にします。大リーグのイチロー選手は試合後、ロッカールームで必ずグラブを磨いているそうです。「手入れをしたグラブで練習したことは、体に、かならず残ります。記憶が体に残ってゆきます」(『夢をつかむイチロー262のメッセージ』より)。ランナーのシューズでも同じことが言えるのではないかと思います。

それではシューズの上手な洗い方を紹介しましょう。シューズ用の洗剤とブラシを用意、私は手荒れを防ぐためにゴム手袋をします。ひもを外し、中敷きも取り外せるものは分けて洗います。

手でもむようにして汚れ浮き立たす

ぬるま湯または水にシューズを浸し、少しふやけたような状態になるまで置いておくと汚れが落ちやすくなります。洗剤をかけたら手でもむようにして汚れを浮き立たせます。泥などひどい汚れを落とすのにはブラシを使いますが、決してゴシゴシはしないでください。デリケートな縫合や繊維を傷めないように、毛先を軽く当てる程度で柔らかく洗いましょう。最後は水で何度かすすいで洗剤を落とします。

洗い終わったら水気を切って干します。かかとを下にして壁に立てかけておくと、どんどん水がたまります。それをこまめに取り出すのを繰り返します。干す場所は室内ではなく、風通しの良い日陰に。天日干しはシューズを傷めてしまうので避けてください。100円ショップなどで売っているシューズ用ハンガーを使うのもいいでしょう。

雨の中を走ってシューズがぬれてしまったときもそうですが、くしゃくしゃに丸めた新聞紙を中に詰めるのを何度か繰り返すと乾きが早くなります。奥の手として、脱水機に30~60秒程度かけると一晩で乾き切ってしまうことが多いです。あまり長く脱水をかけると遠心力で形崩れしてしまうので気をつけてください。

高温・日差しを避けて保管

シューズの素材に使われている繊維やゴムにとって紫外線は大敵。屋外はもちろんのこと、車の中にシューズを放置すると強い日差しを受けてシューズが劣化してしまいます。ひび割れした輪ゴム、劣化したワイパーをイメージしてください。靴底(ソール)がそんな状態になるとクッション性を失ってしまうことは想像に難くないでしょう。

そんなふうになってしまったシューズでは足の動力をうまく地面に伝えられませんし、着地の際の衝撃を吸収できにくくなります。足を保護してくれるシューズが機能しなくなってケガにつながりかねません。洗った後に干すのも、ふだん保管するのも、高温と日差しを避けた風通しの良い日陰を選びましょう。

シューズのクッション性は靴底の素材の細かい気泡のような構造で保たれています。ただ、1回履くとその気泡は元に戻るのに時間がかかるようです。できれば1足を履き続けるより2足以上を交代で履いた方が長持ちするようです。

ビジネスシューズなども合わせると靴だらけというランナーも多いことでしょう。玄関に無造作に散乱しているのは感心できません。ホームセンターなどで売っている縦長の収納棚を使うと、通気性も確保できるうえに見た目にもすっきり、アスリートの部屋っぽくなると思います。

ひも結びっぱなしでは機能損ねる

走り終わってシューズを脱ぐ際に、ひもをほどかない人もいるようです。「ひもをほどかなくても履けるし脱げる」との考えかもしれませんが、脱げないからほどくのではありません。毎回ほどいて、つま先の方まで緩めてあげましょう。かかとを潰して履くことなど問題外、シューズが形崩れして機能低下につながるので厳禁です。

ランニングの着地時は地面から受ける衝撃に加えて、足のねじれが生じます。そのねじれによるブレをシューズの構造がうまく補正してくれるのです。この機能は靴底だけでなく、足を包み込む甲部(アッパー)の繊維やひもも担っています。Tシャツを強く引っ張り続けたら伸びてしまいますよね。シューズのひもを結びっぱなしだと甲部の繊維が引っ張られ続けた状態で、ブレ補正のための伸縮力が低下してしまいます。

また、足の大きさは日によって、一日のうち朝夕でも違ってきます。練習のたびに、その日その時の足に合ったテンションでひもを締めて結ぶ。この習慣を大切にしましょう。ランナーにとってシューズのひもを結ぶことは「今から練習開始、よろしくお願いします」とスイッチを入れるという意味があると思います。

レース直前は爪切らないほうがいい

足の爪のケアにも気をつけたいものです。走るときも歩くときも、踏み込んだ足が地面を離れる際には親指の付け根の拇指球(ぼしきゅう)で蹴る力がかかります。そんな最後の瞬間に地面へ力を伝える親指の爪が短すぎたら、一歩一歩のパワーを十分に発揮できないのではないでしょうか。足のグリップ力が落ちてしまうので、レース直前には爪を切らないほうがいいというのが私の考えです。

足の親指の爪は、両サイドの長さに気をつけましょう。特に人さし指側が短いと人さし指に当たって腫れ上がってしまうこともあります。走れなくなる致命傷にならなくても、触ると痛みますし走っている最中も鈍痛を抱えることになります。この部分は切りすぎず、ある程度伸びた状態の方がいいと思います。

私は2種類の爪切りを使い分けています。特に気を使う親指の両サイドを切るのに使うのがペンチのような形のもの(SUWADAというブランド)。通常タイプのものよりも先端が鋭く、爪の奥深いところまで入り込んで、きれいにカットできます。

プロ野球のピッチャーは、やすりを使ってものすごく繊細に手の爪を管理しているそうです。足で勝負するランナーは、フルマラソン1回で数万歩かけて走る足の先端に気を配りたいものです。足の形、爪の形は人それぞれ。日ごろのこまめなケアで試行錯誤を重ねて、自分にとってちょうどいい爪の切り方を見いだしていってください。

寝ていて足つる、長ズボンで予防

最後に、「よく足がつる」というランナーの悩みについて。多量の発汗や暑さの中でのオーバーペースなどが原因で走行中に起こりますが、注意したいのが寝ているときにつってしまうことです。こうした症状を訴える人は半ズボンで寝ているというケースがほとんどのようです。

明け方に気温が下がるころ、衣服に覆われていない皮膚が体温を奪われて血行が悪くなるのが原因といえます。血流が滞っては疲労物質も除去されにくくなり、変なだるさが残ることにもつながるかもしれません。薄手の長ズボンで脚を覆ってあげることをおすすめします。

<クールダウン>サッカー審判の走りは複雑
 私はランナーの指導と並行して、国内外のサッカー審判にランニング技術を教えています。W杯ブラジル大会の開幕試合で主審の笛を吹いた西村雄一さんとも、定期的にトレーニングを重ねてきました。
 マラソンが安定したペースを保ってゴールに向けひたすら前に進むのに対して、サッカー審判の走り方は複雑。アクセルとブレーキ、ハンドルを駆使する自動車の運転に似ています。頻繁に繰り返す加速・減速、信号でのストップ。燃費は当然悪くなります。前方だけでなく後ろ、左右への移動もあり、状況変化に応じたシフトチェンジで小まめにスピード調節。ルートは試合の展開によって決まるので、先読みする戦術眼も必要です。
 選手の動きを追って90分間ピッチを駆け回る審判たち。競技をチェックし続けながら、ステップを踏んだり小刻みなジョグで移動したりして足の動きを止めずに疲労回復。時折深い呼吸をするなどしてリセットし次の展開に備える。選手たちの素晴らしいプレーと併せて、審判の走りにも注目です。

さいとう・たろう 1974年生まれ。国学院久我山高―早大。リクルートRCコーチ時代にシドニー五輪代表選手を指導。2002年からNPO法人ニッポンランナーズ(千葉県佐倉市)ヘッドコーチ。走り方、歩き方、ストレッチ法など体の動きのツボを押さえたうえでの指導に定評がある。300人を超える会員を指導するかたわら、国際サッカー連盟(FIFA)ランニングインストラクターとして、各国のレフェリーにも走り方を講習している。「骨盤、肩甲骨、姿勢」の3要素を重視しており、その頭の文字をとった「こけし走り」を提唱。著書に「こけし走り」(池田書店)、「42.195キロ トレーニング編」(フリースペース)など。

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