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会社員も節税の時代 税務署が認める必要経費は

 個人の毎年の所得にかかる所得税を減らす有力な方法が「必要経費」の活用だ。仕事で得た収入から差し引ける経費を税務当局にいかに多く認めてもらうかがカギとなる。その必要経費の範囲が司法判断や制度拡充により広がる兆しがある。税務当局のハードルは依然高いものの、ツボを押さえればより節税につながるかもしれない。

税務署の調査官「この交際費は、本当に必要だったとはいえませんね」

納税者「いや、仕事上の理由で使ったのだから、認めてもらわないと……」

申告が適正かどうかを当局が調べる税務調査の場面では、こんなやり取りがかわされることが多い。申告した側の意識と、税務当局の判断との間に生じるずれ。どこまでが必要経費にあたるのかは、あいまいな面が残っている。

その判断に影響を及ぼすとして注目されていた訴訟の判決が今年1月、確定した。結果は「納税者にとって今後、有利に働く可能性がある内容」と、租税訴訟学会理事で税理士の藤曲武美氏はみる。

原告は、弁護士会の役員をしていた弁護士。会の活動に伴い使った交際費などを必要経費として申告したところ、弁護士業務と直接関係ないとして税務当局に否認されたため、その取り消しを求めて訴えた。

「考え方示す判例」

第一審では当局側が勝訴したものの、第二審で東京高裁は、仕事上必要なら業務と「直接関係はなくても必要経費にすべきだ」と判決。当局の上告を最高裁が不受理としたため、高裁の判決が確定した。

国税庁は「法令解釈が変更されたとは考えていない」としている。だが、専門家の多くは「必要経費について基本的な考え方が示された」(租税法が専門の三木義一青山学院大学教授)と重視する。

その影響は自営業者に及ぶだけでなく会社員にも関係する。必要経費とは「売上原価」と「仕事をする上で必要な費用」(図A)。このうち範囲がわかりにくかったのは後者だ。

当局はこれまで費用が仕事に「直接的に関係する」、あるいは、「収入増に直接結びつく」ことを求めてきたという。訴訟結果を受けて今後、「当面の収入にすぐに結びつかないような交際費でも、当局がただちに否認することは簡単ではなくなった」(藤曲氏)。

会社員にも必要経費に相当する制度が2つあることを確認しておこう。

ひとつは「給与所得控除」。収入の水準に応じて、一定の金額を差し引ける制度だ(グラフB)。「自営業者らと比べた調整分も加味されて決まっている」(元熊本国税不服審判所長で税理士の野水鶴雄氏)。

より注目したいのは、もうひとつの「特定支出控除」(表C)。仕事で実際に使った費用を確定申告し、収入から差し引く制度だ。これまで制度自体あまり知られてこなかったが、2013年分から適用範囲が拡大。必要経費として認められる余地が広がっている。

例えば資格を取得するために専門学校などに通い、その学費を自己負担で賄ったケース。従来、弁護士や公認会計士、税理士などは対象資格として認められていなかったが、13年分から含まれるようになった。

勤め先の会社は、資格取得の費用は負担してくれなくとも業務に必要だと判断することもある。確定申告の際に規定の書類(特定支出に関する証明書)を使って、会社に署名・なつ印してもらって提出する。

会社が認めれば「当局は尊重せざるをえないだろう」(藤曲氏)とも言える。ただし、仕事との直接の関連があることが条件。「例えば営業部門にいる社員が、税理士資格を取得する場合の費用はあてはまらない」(野水氏)。

本や服・交際費も

税務当局に必要経費だと認めてもらうには、まず勤め先が業務に必要だと認定する必要がある

このほか「図書の購入費」「仕事場で着る衣服の購入費」「得意先との交際費」も新たに特定支出として含まれた。もちろん勤め先がすでに費用を負担した分は認められない。

金額面でのハードルも下がった。控除が認められるには従来、支出額が、給与所得控除の額を超える必要があったが、通常2分の1を超えればよくなった。例えば年収が500万円なら給与所得控除は154万円で、その半額は77万円。支出額が77万円を超えた場合、その超過分を差し引くことが可能だ。

会社員が特定支出控除を申告した例は13年分で約1600件。前年より大幅に増えた。認知度が高まれば利用者はさらに増えそうだ。必要経費の範囲は「ジワジワと広がりつつある」(三木氏)。

税務当局はこれまで以上に仕事上の必要性について強く説明を求めるようになるのではと、複数の税理士はみる。それでも、「十分な根拠を説明できれば、自営業者などでも幅広く認められる」(弁護士の関戸勉氏)余地が出てきた。自分のケースに当てはまるかどうかを見直してみよう。

(編集委員 後藤直久)

[日本経済新聞朝刊2014年6月4日付]

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