/

from FIFAマスター(宮本恒靖) ユース選手指導、日英に差 コーチング講習で実感

月に1度現地で受けていた、イングランドサッカー協会のコーチングライセンス講習は4月が最後だった。最終試験を受け、ユースチームを指導するのに必要なB級の資格を取ることができた。日本の同等のライセンスは既に持っているが、日欧の指導法の違いを感じることが多かった。

ユース指導段階から細かい戦術意識

イングランドサッカー協会のコーチングライセンス講習を終了、ユースチームを指導する資格を取った

例えば、選手に指示を与えて実戦形式の講習をするとき。講師が事前に「おまえはどんなシステムを使うんだ」と聞いてくる。選手に合わせた戦い方だけでなく、指導者に「どういうサッカーをやりたいのか」というイメージを持つことを強く意識させている。日本のライセンスを受講した際にはここまで細かな戦術を扱わなかった。

最近はやや変わってきたが、イングランドの伝統的な布陣といえば中盤がフラットの4-4-2。2列目の選手の特長も決まっていて、中央は運動量が多く、サイドはクロスが得意。自分たちの目指すサッカーが人々の頭の中に刻まれているから、監督にも戦術をより明確に求めるのだろう。

選手に何かを指摘するときはあらかじめ答えを与えるのではなく、自分で考えさせようとする。まず褒めることで「自分はおまえの力を認めているんだ」というメッセージを伝えるようにも言われる。このあたりは日本の指導法との違いとして、よくイメージされる部分だろう。

ライセンス目指す人へ広く門戸開放

逆にここまでやるのかと意外だったのが、違法薬物についての指導。若い世代の選手はドラッグにも興味を持ちがちなので、サッカーのコーチにもその危険性をしっかり教えることが要求される。欧州では薬物への危機意識がそれだけ強いということなのだろう。

もう一つの彼我の差が、ライセンスを目指す人への門戸の開き方。イングランドのB級では計17日間の受講日のうち、都合の悪い日を他の会場で受けることも認めている。実際、国際サッカー連盟(FIFA)運営の大学院、FIFAマスターに通っているとき、授業の合間に一番下のライセンスを取った同級生もいた。

現役選手にとってもありがたい仕組みである。元イングランド代表DFのテリー(チェルシー)がたまたま僕と同日、同会場の講習に申し込んでいたこともある。最終的には先方の都合が悪くなったようで会えなかったのは残念だけど。

日本のライセンス講習は受け入れる志望者の数もまだ少ないし、申し込みに都道府県協会などの推薦などの条件もある。受講日も固定されている。イングランドのように、コーチングの勉強をしたいと考えた人がチャレンジしやすいような仕組みにして、より質の高い指導者が増えればと思う。

W杯で技術・戦術リポートの担当者に

この後はJリーグのコーチの資格となる日本のA級ライセンスを取るつもり。監督に必要なS級もいずれ取得したい。今すぐそうなりたいわけではなく、タイミングが来たときのために準備をしておきたい。

その絶好の機会になりそうな仕事にも恵まれることになった。ブラジル・ワールドカップ(W杯)の間、FIFAのテクニカル・スタディー・グループ(TSG)の一員を務める。大会の技術的、戦術的なリポートを書く役割だ。

12試合を現地で観戦。個々の攻撃能力や守備戦術の特長など、各チームを61項目で分析する。練習を見学し、監督にインタビューもする。大会中で相手も緊張感があるだろうから、難しい雰囲気かもしれないが、なかなかできない体験だ。

オシム元監督も日韓W杯で務めた経験

今大会のTSGのメンバーは10人程度。W杯で日本人が務めるのは初めてだそうだが、元日本代表監督のイビチャ・オシムさんも2002年の日韓W杯で務めた経験がある。先日、ボスニア・ヘルツェゴビナでオシムさんに会ったとき、その話をした。

奥さんのアシマさんは「良かったじゃない」と喜んでくれたが、オシムさんから特別な言葉はなかった。いつも「勉強しろ。勉強しろ」とばかり言う人。「それくらいで浮かれずにもっと努力しろ」ということなのだろう。

過去に学んだことがその後の人生で生きるということは現役時代のプレーを通して実感している。先日、漫画「キャプテン翼」の原画などを公開する展覧会のスペシャルサポーターにもなった。

FWだった小学生の頃、妙に引かれたのが登場人物の一人、DFの「三杉くん」だった。得意プレーは最終ラインを華麗に操るオフサイドトラップ。頭脳的な駆け引きで相手の優位に立つプレーが心に響いた。そのイメージが心の中に残っていて、後の自分のプレースタイルにつながっていったのかもしれない。

漫画から学び、見事にオーバーヘッド

さらに、この漫画から学んだことを生かせたプレーもある。J1神戸所属の09年、川崎戦で見せたオーバーヘッドだ。相手ゴール前でのクロスに頭で合わせようとしたが、ボールが予想より後ろにきた。瞬時に狙いを切り替え、胸トラップでボールを浮かせ、オーバーヘッド。味方の選手も驚くほど、きれいに決めることができた。

子どもの頃、主人公の先生がこのプレーをするのを見て、かっこいいなと思って練習することがあった。当時はなかなかうまくいかなかったけれど、そのイメージが20年以上後になって生きたことになる。

実はもう一つ伏線がある。その5年ほど前。同じようなシーンでクロスを胸で止めたとき、ゴールを背にして何もできなかった。「もしかしてオーバーヘッドを狙ったらゴールにボールを飛ばせたのかな」という悔いが残っていた。その反省を頭の中に入れておいたから、自然に体が動いたのかもしれない。

(元日本代表主将)

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン