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氷上の美学(杉田秀男) 浅田、ぜひ現役続けて 円熟味まさにこれから

フィギュアスケートの世界選手権(さいたまスーパーアリーナ)は、羽生結弦(ANA)と浅田真央(中京大)の日本勢優勝で幕を閉じ、激動のソチ五輪シーズンが終わった。来季以降も浅田は現役を続けるのか。絶頂期を迎えている日本フィギュア界は2018年平昌五輪へ向けて何をすべきなのか。次の4年を占いたい。

浅田は4年間の成長を大舞台で存分に見せた

佐藤コーチとの師弟関係、かみ合う

改めて、浅田のソチ五輪のフリー、世界選手権の演技は素晴らしかった。代名詞のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を決め、これでもかと言わんばかりに激しいステップを踏み、音楽を自分の体から出しているかのように、曲と動きが一体となった圧巻の演技を披露した。

10年バンクーバー五輪後から、佐藤信夫コーチの下で基礎を一から見直してきたことが、ようやく結果につながった。あれほどの実績を持った選手が力を出し切れない時期があり、時間はかかったかもしれないが、4年間の成長を大舞台で存分に見せたと思う。佐藤コーチは「(浅田と)会話ができるようになってきた」と話していたが、コミュニケーションが取れるようになり、2人の師弟関係がやっとかみ合ってきたように見える。

はたして浅田は現役を続けるのか、それとも引退するのか。本人は「体は大丈夫で、あとは気持ちの問題」などと話したそうで、休養も選択肢の一つのようだ。もちろん進退は本人が決めるべき問題だが、希望をいえば、ぜひ現役を続けてほしいと思う。

まだまだ伸びしろ、表現力に深みも

その理由は、世界選手権のショートプログラム(SP)で世界歴代最高得点をたたき出したように、まだまだ伸びしろを感じさせるからだ。代名詞のトリプルアクセルは跳ぶ前の体の浮き沈みがなくなって質が高くなり、以前は踏み切り違反をよく取られていたルッツジャンプなども、どんどん改良された。スケーティング技術も上がって力の使い方がよくなった。

23歳という年齢は、体力的にはまだ問題ないだろうし、円熟味が出てくるのはまさにこれからといったところだ。ソチ五輪で銅メダルを獲得した27歳のカロリナ・コストナー(イタリア)がここ2~3年で観客を魅了する演技を見せるようになったが、浅田もこれから表現力が一層深みを増していくに違いない。滑るだけでこれだけ人を引きつけるスケーターもそういない。既に完成されているが、さらに輝きを増していくのは来季以降だと思う。

羽生にかかる期待はどこまでも大きい

浅田と同様、一層の飛躍に期待がかかるのは、グランプリ(GP)ファイナル、五輪、世界選手権とシーズンのタイトルを独占する「3冠」を達成した羽生だ。五輪シーズンのこの1年で、とにかくたくましさが出てきた。たとえば演技中に疲れが出てきても「ジャンプを何が何でも成功させる」といった気迫がにじみ出ていて、精神面の強さが際立っていた。

19歳羽生、発展途上のスケーター

19歳で3冠という偉業を達成しながらも、まだ完成されたスケーターとはいえない。体力面で課題が残るし、まだまだスケーティング技術を磨き上げられるはずだ。逆にいえば、成長途上のまま、これだけの実績を積み上げてきたのだから何とも末恐ろしい。

これからの4年間で上を見据えて課題を克服していけば、「自分の型」が完成し、さらに歴史に名を残すスケーターとなることだろう。長らく日本男子を引っ張ってきた高橋大輔(関大大学院)の去就はわからないが、今後はエースとしての役割も求められてくる。羽生への期待はどこまでも大きい。

五輪シーズンが終わると、ルールが大幅に改正されることがあるが、今後も男子の「4回転時代」の流れが止まることはないだろう。4回転を跳ばない選手は少数派になっているし、4回転トーループと4回転サルコーを跳ぶ羽生のように2種類の4回転に挑む選手も増えてきた。もはや「特別なジャンプ」ではなくなっているのが現状だ。基礎点が高い4回転フリップや4回転ルッツに挑戦する選手も出てきている。平昌五輪では4回転の種類、回数ともにさらに増えていくのは確実だ。

難易度高いジャンプ、相次ぎ挑む選手

女子も難易度の高い3回転―3回転の連続ジャンプを組み込む選手が増えてきた。大技トリプルアクセルも、練習で浅田以外に挑む選手もいる。この2~3年のうちに試合でもトリプルアクセルに挑戦する選手が出てくるのではないか。選手にとっては厳しい時代といえるが、難しい技に挑戦していかないと競技としての進歩はない。

世界選手権の戦いをみると、オーストラリアなどの選手も力をつけていて、全体のレベルが上がった印象がある。選手層が厚くなり、選手間の極端な差がなくなったように思う。内容を見ても、プログラムは洗練され、演技中に無駄な動きをする選手は少なくなった。

選手強化策をみると、ロシアでは五輪金メダルのアデリナ・ソトニコワ、世界選手権銀メダルのユリア・リプニツカヤをはじめ、若手選手が順調に育っている。ソチ五輪を見据えた対策は完全に成功したといっていい。

十分な練習積めるリンク欠かせず

対する日本は、世界選手権で1万8000人規模の大観衆を集めたように人気、実力ともに「フィギュア大国」の地位を固めつつある。日本フィギュア界は黄金時代を迎えていると思うが、さらに発展させていくためには、才能あふれる人材を発掘し、全体の底上げを図って選手層をより厚くしていく必要があるだろう。折しも安藤美姫、織田信成、鈴木明子といった日本フィギュア界をけん引した選手が、今季限りで続々と競技生活に終止符を打った。どの競技でもいえると思うが、スターに頼りっぱなしでは、長続きはしないだろう。

そのためにも、まず選手たちが日々十分な練習を積めるリンクが必要になる。練習施設によって選手の成長が左右されるといっても過言ではない。海外の関係者からは「日本はリンクの環境がよくないのに、どうして次々と強い選手が出てくるのか」といつも驚かれる。日本は現在、練習環境が整っている学校に選手が集まる傾向にあるが、十分とはいえない。一般の営業時間外に多額の費用を払ってリンクを貸し切り、練習に励む選手もいる。練習時間を確保するため海を渡る選手も少なくない。

環境整備、先見据え長期的な視点で

幸いにも、日本には佐藤コーチをはじめ、海外に対抗できるだけの優秀な指導者がそろっている。練習環境さえ整えば、海外に行かなくても国内だけで強化はできるはずだ。もちろんリンクを新設し、運営していくには多額の費用がかかる。日本フィギュア界には4年後、8年後といわず、さらに先を見据えた長期的な視点を持った対策が求められる。

(日本スケート連盟名誉レフェリー)

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