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さらば大量輸送時代 ジャンボ最終便、羽田に到着

 国内の旅客航空会社が保有するボーイング747型機が引退の日を迎えた。全日本空輸(ANA)の最後の1機が31日午後、那覇発の最終フライトを終え羽田空港に到着した。最大500人超の乗客を一度に運べる巨大な機体から「ジャンボ」の愛称で親しまれ、1970年に就航してから150機以上の747が日本の空を飛び交った。飛行機による出張や旅行を身近なものにした功績は大きい。
 一方で最近は燃費の悪さや騒音問題などから徐々に活躍の場が減少。日本航空(JAL)が11年までに全機を退役させるなど、航空各社は高燃費でより燃費の良いボーイング777型機や小回りがきき各地の空港に飛ばせる中型の同787型機や同767型機などを重宝するようになっていった。747が姿を消す31日は、単に航空機の世代交代が進んだだけでなく、高度経済成長期以来の大量輸送時代が一つの転機を迎えた日として歴史に刻まれる。
乗員や乗客それぞれの思いを乗せラストフライト。ジャンボ機最後の一日に密着

乗員や乗客それぞれの思いを乗せラストフライト。ジャンボ機最後の一日に密着

那覇発羽田行き、NH126便。最後の1機となった登録番号「JA8961」のボーイング747型機は、満席となる569人の乗客を乗せ東京湾上空で高度を下げていった。向かう先に見えてきたのは羽田空港だ。新造機としてボーイングからANAに引き渡されて以来、21年間ホームグラウンドとしてきた縁深い場所に同機は降り立とうとしている。

主脚が走り慣れた滑走路を捉えると、乗客の間から万雷の拍手がわきおこり機内に響き渡った。「20世紀と21世紀をつなぎ世界に羽ばたいてきたジャンボを今、皆様の心の中に着陸させていただきます」。感極まった声の客室乗務員のアナウンスが流れる。定刻より13分遅れの午後3時13分。ジャンボは日本の空での使命を終えた。

ラストフライトを終え羽田空港に到着したボーイング747型機(31日)

ラストフライトを終え羽田空港に到着したボーイング747型機(31日)

「ジャンボは80年代以降の当社の成長を担ってくれたし、当社が太平洋を越え北米に路線網を展開する上で欠かせない飛行機だった。通算35年、大きな事故も起こさず第一線で活躍してくれ感無量だ」。ANAの篠辺修社長は、到着後の羽田空港で行われた引退セレモニーでこう語った。実は篠辺社長自身、若かりしころにエンジニアとして747の整備項目を決めるためにシアトルに行くなどジャンボとの深い思い出がある。「私を成長させてくれた機体でもあった」として長年の労をねぎらった。

日本の空を150機超が飛び交った

日本は、世界でも特に747が活躍した国の1つだ。JALは70年に1号機を受領して以来、累計で114機を保有。もっとも多く747を運航した航空会社である。ANAも79年以降、累計で47機を保有。羽田-伊丹や成田-ニューヨークなど、国内外の主要路線でフル稼働し、累計の利用者数は約3億人に上るという。

747が次々と就航した70~80年代は高度経済成長期からバブル期。日本経済が急成長を遂げた時期である。1964年に海外渡航が自由化され、一般庶民も飛行機に乗る機会が年々急増していく。71年からの30年間で、国際線の利用者は206万人から1691万人と8倍以上に増えた。国内線も1638万人から9458万人と約6倍に増加している。

こうした航空需要の伸びに対し羽田や伊丹など主要空港の拡張が追いつかず、航空各社は発着枠の慢性的な不足に苦しんだ。そんな窮地を救ったのが747だった。

提供座席数の多い世界の航空路線
路線名提供
座席数
便数1便あたり
座席数
1東京-札幌39120151260
2リオデジャネイロ
-サンパウロ
36966244151
3シドニー-メルボルン32434167194
4ソウル-済州島28285170166
5東京-福岡28015105265
6東京-大阪27330112242
7北京-上海26616103259
8台北-香港2413282294
9東京-沖縄2087773283
10ニューヨーク-シカゴ19944164122

(注)OAG調べ。2012年9月中旬の実績。提供座席数と便数は1日あたりの片道平均

米ボーイングはJALやANAの求めに応じ、日本国内線向けに特化した747の派生機を開発。500人以上の乗客を乗せられ、機体に負荷の掛かる着陸を1日5~6回繰り返しても耐えられるよう主脚などを強化した。

これにより航空各社は、限られた発着枠をフル活用して輸送力の増強を実現。今では東京-札幌線を筆頭に、提供座席数ベースで世界の上位10路線のうち4路線を日本国内線が占める。747は日本の航空需要を大きく育て上げたといってよい。「初めて乗った飛行機が747」「初めての海外旅行で乗ったのが747」「飛行機と言えばジャンボ」など、多くの日本人にとって747は特別な思い入れのある存在だ。

人々のジャンボに対する思い出は、甘美なものだけではない。85年、JALの747が群馬県上野村の山中に墜落し520人が犠牲になった。単独の航空機事故として過去最大の惨劇は、航空関係者はもちろん一般の利用者も飛行機の安全性に関心を抱く契機となった。

発着枠が増加、騒音や燃油高も直撃

活躍を見せてきた747にも転機が訪れる。成田空港は02年、羽田は10年にそれぞれ滑走路を1本増設したことで、両空港の発着枠が大幅に増加したのだ。誘導路の改良や管制方法の見直しなどもあり、成田の発着枠は増設前の年間13.5万回から現在では30万回に増加。羽田も増設前の年間30.3万回から段階的に増枠され、30日からは44.7万回に達している。

これを受けて航空各社は、主要空港間をジャンボで一気に乗客を運ぶのではなく、潤沢な発着枠を生かしさまざまな行き先に頻繁に航空機を飛ばして乗客の利便性を高める方針にシフトさせる。そのためにはもっと小回りの効くボーイング767や787といった中型機が最適だとして次々と購入。結果として747のような大型機の活用の場は徐々に狭まっていった。

追い打ちをかける逆風も襲った。大阪の伊丹空港では、周辺の住宅地の騒音問題を軽減するため、747のような3~4基のエンジンを積んだ大型機の乗り入れを2006年までに禁止した。2000年代に入るとジェット燃料が一気に高騰し、08年にはリーマン・ショックが発生。経営難に陥った航空各社にとり、747の採算性の悪さは頭の痛い問題となった。

JALの場合、法的整理に追い込まれたことも手伝って747の前倒し退役を再建の柱の1つに掲げ、11年3月に全機を引退させた。747は「まだ十分飛べる」としていたANAも、運航コストを抑えるべくエンジン2基の大型機777や中型機の767、787への更新を進めた。

今後日本では、747や777のような大型機主体から、中・小型機主体の運航へとシフトがさらに進みそうだ。747退役に先立つ27日、ANAグループは70機にわたる飛行機の発注を発表。次世代大型機としてボーイング777-9Xを20機購入する一方で、787を主力機に据える姿勢を鮮明にした。現行の最新鋭中型機である787を、発注・納入済みの分と合わせて80機まで買い増す。ピーチ・アビエーションやジェットスター・ジャパンなど、近年勢力を急拡大している格安航空会社(LCC)も運航効率重視でエアバス320型機などの小型機を大量導入している。

大型機需要がなくなるわけではない

一時代を築いた747。機内の広さや揺れの少なさなど、大型機ならではの利点もある。こうしたことから、引退フライトのNH126便の機内では残念がる乗客も少なくなかった。

もちろん大型機が世界の空から消え去るわけではない。747の後継として777が各国の主要航空会社に採用されているほか、日本貨物航空や独ルフトハンザは747の最新型であるボーイング747-8型機を運航している。総2階建てのエアバス380型機もシンガポール航空やアラブ首長国連邦のエミレーツ航空などが運航中だ。スカイマークも年内をめどに380を導入し、成田-ニューヨーク線に就航させる計画を持つ。

もしかしたら将来、再び主力を大型機にしようとの揺り戻しが起こるかもしれない。2020年代半ばには羽田・成田合わせて75万回の発着枠を使い切ると国土交通省では試算しているからだ。20年には東京五輪が開かれることもあり、政府は訪日する外国人観光客を今の2倍となる2000万人に引き上げる目標を掲げる。彼らをスムーズに迎入れるには、ジャンボ級の航空機の力を借りる必要が出てきてもおかしくない。

(電子報道部 金子寛人)

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