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ランニングの練習、テーマ意識してメリハリを

ランニングインストラクター 斉藤太郎

ランナーの皆さんの中には、一年を通して変化のないトレーニングを続けている人はいませんか? 何となく同じようなペースのジョギングだけだったり、これとは逆に毎回のように頑張って追い込むトレーニングをしていたり。ワンパターンの練習を続けていては走力アップにつながりません。目標とするレースに向けて、その時期ごとに何を目的として練習するのか、テーマを明確に意識しましょう。今回は「区分け」という考え方を踏まえたトレーニングプランについてお話しします。

レース目指し段階を踏んで体づくり

今の時期は何を高めていくべきなのかを意識して練習内容を選ぶことで、マラソンを走り切れる体を作り上げていくことができ、ケガを防いで健康的に走り続けられます。毎年順調に記録が伸びている人、年齢を重ねていながらも快走を続けるいぶし銀ランナーはこうした点を理解していることが功を奏しているようです。

もう何年もスポーツをしてこなかった人が急に走り出すとケガをしてしまいがち。「頑張れば頑張るだけ速くなれる」と思って、きつい思いばかりをしてしまう人もたくさんいます。でも頑張り方にもコツがあるのです。健康的に長く走り続けるために、区分けの考え方を取り入れてもらえればと思います。

区分けとは、マラソン快走を目指して基礎から段階を踏んで体を組み立てていく手順書のようなもの。大まかに「基礎練習」「実戦練習」「調整練習」の3つに分けることができます。

初めの段階は基礎体力を高める時期です。ランニングで1歩着地するたびに足が受ける衝撃は体重の約3倍。こうした運動負荷に耐えて長時間走り続けられる体づくりを目指します。長距離ウオーキング、スローペースで長く走るLSD(Long Slow Distance)などを交えて、じっくり時間をかけて土台を固めていきましょう。

基礎体力が付いてくると負荷の高い練習をしてもケガをしにくくなります。そうしたらペース設定を高めていく実戦練習に入りましょう。ゆっくり長く走る練習から、速いペースで走る練習にシフトしていきます。何週間かかけて少しずつ設定ペースを高めていき、並行してレース想定ペースで走る練習の距離を延ばしていく段階に入ります。

鍛錬を重ねて培ってきた力を本番のレースで十分に発揮するために、疲労を抜いてコンディションを整えるのが調整練習。レース2週間前あたりからの最後の仕上げ段階です。

中級者はスピード養成から開始

それでは実際どんな流れで進めていけばいいのか、レースシーズンが始まる11月末あたりのフルマラソン参加を想定した練習プランを、ビギナーと中級者(ランニング歴1~2年程度)とに分けて紹介します。

4~6月のスタート期は寒い冬が終わって心地よくランニングができる季節。何か新しいことにチャレンジしようとする人が増えるこの時期、ビギナーは走るための体づくりをする段階です。何曜日は練習日にすると決めるなど、走る習慣を定着させるところから始めましょう。

初めのころは毎回のランニングが代わり映えしないと思うかもしれません。でも、しばらく続けていくうちに、呼吸が楽になったり同じコースを前よりも速く走れるようになったりという変化を感じられるはずです。

中級者はまずスピード養成を主眼としたトレーニングから入るのがいいでしょう。冬場のレースシーズンに長距離を走るスタミナを身に付けてきたので、ここで方向性を変えます。30キロや40キロを走ることは後の時期に回すとしましょう。この時期は5キロ、10キロのレースや駅伝が多く開催されるので、これらを活用してフルマラソン想定ペースよりも速く走ることに力を入れます。

7月以降の夏場、特にビギナーは過酷な天候の下で頑張りすぎないこと、これが第一です。軽めの内容でもコンスタントに練習する習慣を維持していきましょう。ここで続けることができれば、9月に入ってからも苦労しません。蒸し暑い中では走力向上は実感しにくいものですが、ここで諦めずに継続すれば、涼しくなるにつれて自分は確実に強くなっているという実感を得られるはずです。

中級者にとっては夏場が基礎力を高める時期。長く走る・長く歩くことを増やしていきます。のんびり楽しみながら長い距離を走るマラソンとピクニックを組み合わせた「マラニック」や、山登りなどに出掛けるのもトレーニングの一環としていいでしょう。

とはいえ夏場に頑張りすぎると、そのダメージが後を引きます。深追いして体調を崩すと練習が途切れがちになってしまい、気がつけばレース本番が視野に入る時期に。欲張らずに、達成感があって自信がつく内容は夏を通じて2~3回程度にとどめておくのがいいと思います。それ以外は涼しい時間を選んで走るようにしましょう。

ハーフ参加でレース感覚磨く

9月後半からはいよいよ実戦練習です。この期間には10キロレースやハーフマラソンにも出場します。レースといっても記録更新を毎回目指して出場する必要はありません。レースを楽しむとか記録を狙うなど目的は様々ですが、目標とする11月末あたりのフルマラソンで最良の結果を出そうとするならば、そのためのステップとして位置付けるべきです。

ステップ段階のレース前に練習量を落として調整に入ってしまい、コンディションのピークを迎えるようなことは好ましくありません。ペース走や距離走などハードな練習をこなしながら、10キロやハーフなどのレースに練習の一環として出場していきます。

疲労が抜け切らない状態でもどのくらいで走れるのかを確かめることができます。レース会場の雰囲気に慣れたりレース勘を磨いたりするためにも、数本のレースに出場するのがいいでしょう。

目標とするフルのレース本番まで残り2週間、ここからは調整練習に入ります。練習量を徐々に減らし、筋力を落とさずにスタミナを維持しながら疲労を抜いていく。これ以上もう強化できる時期ではありません。それまで培ってきたものをレース当日に出し切るための練習となります。

今回はシーズン初めの11月末のレース出場に照準を合わせて説明しましたが、このように目標とするレースを先に決めておくと計画的にトレーニングを進めていく励みになります。

大会のエントリー受け付けは5~4カ月前が一般的。空前のマラソンブームともいわれる昨今、人気レースだとインターネットでのエントリー開始から数時間で定員に達して締め切られるものも。参加する大会に目星を付けて早めに手続きを済ませたうえでトレーニングプランを組み立てていきましょう。

<クールダウン>体の状態をつかみ練習メニュー選択
 サッカー国際審判員の西村雄一さんと沖縄でランニング強化のキャンプをしてきました。6月開幕のブラジル大会でワールドカップ2度目の主審を務める西村さん。1試合で平均13キロ走るといわれるサッカー審判は、日ごろから走りのトレーニングが欠かせません。
 ランニングフォームのアドバイスに加えて、もう一つ役立ててもらっているランナーの視点があります。「疲れを残さず、コンディションが向上する練習」に注意を払いメニューを選択することです。選択肢は「ゆっくり走るべき日」「スピード刺激を入れるべき日」「追い込む日」など。試合で審判を務める際にスピードを出して走ることによる筋肉疲労なのか、慢性的な疲労なのかといった疲労のパターンや、筋肉の状態などから導き出します。
 サッカー審判はシーズンを通して好調を維持しなくてはならない職種。自分の体の状態を冷静につかんで練習メニューのさじ加減を計ることで、体への負担が軽減されて、しかるべき時に最大のパフォーマンスが発揮できるのではないかと思います。

さいとう・たろう 1974年生まれ。国学院久我山高―早大。リクルートRCコーチ時代にシドニー五輪代表選手を指導。2002年からNPO法人ニッポンランナーズ(千葉県佐倉市)ヘッドコーチ。走り方、歩き方、ストレッチ法など体の動きのツボを押さえたうえでの指導に定評がある。300人を超える会員を指導するかたわら、国際サッカー連盟(FIFA)ランニングインストラクターとして、各国のレフェリーにも走り方を講習している。「骨盤、肩甲骨、姿勢」の3要素を重視しており、その頭の文字をとった「こけし走り」を提唱。著書に「こけし走り」(池田書店)、「42.195キロ トレーニング編」(フリースペース)など。

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