本田・香川の苦闘が映す、世界の中の日本の立ち位置
今季の欧州各国リーグも残すところ2カ月となった。日本人選手は岡崎慎司(マインツ)の活躍が光るが、日本代表の中核である本田圭佑(ACミラン)、香川真司(マンチェスター・ユナイテッド)が脇に追いやられ始めているのが気になる。
■トップ下には足りぬスピード
本田は本来のポジションであるトップ下で使ってもらえなくなっている。現状をひいき目なしに分析すると、それも仕方がないと思う。
現代サッカーにおける4-2-3-1のトップ下はパサーだけでなく、ストライカーとしての役割も求められる。トップの選手を追い越したり、トップが左右に流れて空けたスペースに入っていったりして、点を取らなくてはならない。
バイエルン・ミュンヘン(ドイツ)のゲッツェのように技術もスピードもある選手がトップ下にうってつけだ。シビアなゾーンで個人技を駆使して相手をかわし、シュートが打てなくてはならない。それには瞬間的なスピードも求められる。
本田はイタリアやスペインでトップ下を務めるにはスピードが足りない。日本でなら体をぶつけたり、うまく体を寄せてしまって、かわしたりできるが、屈強なDFぞろいのイタリアではそれができない。
■ゴールに向かってプレーできず
だから、前を向いてプレーできなくなっている。ボールを失うのを嫌って、後ろを向くことになる。本田に預けても結局、ボールが後ろに戻ってきてしまう。
本人はプレスを嫌って、あるいはボールを欲しがって中盤の底まで下がってしまう。それではトップの選手が孤立することになる。CFとある程度、近い位置でプレーしてあげなくてはならないのに、距離を空けてしまう。
右サイドを任されても同じようなものだった。対峙した相手をかわして、ゴールに向かってプレーすることができない。
もうセードルフ監督に力量を見抜かれてしまったのだと思う。相手が近い距離にいるトップ下でプレーするのは難しい。だから右サイドに持っていったのだろう。それでも厳しいので、ベンチに置くこともある。慣れれば事態は好転するのかもしれないが、チャンスが限られてくると、それも厳しい。
■お試し期間終了、賞味期限切れも
CSKAモスクワだったら、「オレはトップ下しかやらない」と言って、通じるかもしれないが、ACミランでは「代わりの選手がいるから、それなら出なくていいですよ」で終わってしまう。違う選手がどんどん出てくる。
何十億円も投じて獲得した選手なら、我慢してでも使うだろうが、本田は移籍金なしで取った選手なので、ダメなら使わなくてもいい。お試し期間が終わり、このまま賞味期限切れということもありうる。
チャンスがあるとしたら、3列目のボランチの位置だろう。そこならマークが厳しくないし、前方で誰かが空けたスペースに後ろから出て行けばいいので、スピードはさほどいらない。しかし、ボランチをやっていたのでは、日本代表のためになるのだろうかという気がする。
■このままでは時間がもったいない
もっと事態が深刻なのは香川のほうだ。ほとんど出番をもらえなくなっている。モイズ監督がこのまま起用しないというのであれば、移籍するしかない。
モイズ監督は両サイドに速い選手を置いて、そこで相手を抜くか、裏に抜け出してクロスというサッカーを志向する。中央で細かくパスをつなぐことはさせない。ダイナミックな形を好んでいる。
しかし、香川はサイドでぐいぐい仕掛け、突破していくタイプではない。しかもモイズ監督は「香川はフィジカルが弱い」と決めてかかっているのだと思う。こうなってくると、なかなか出番がもらえない。
ファンペルシー、ルーニー、マタというアタッカーの序列は固まっていて、この3人の間に割って入るのはきわめて難しい。プライドが邪魔をして移籍しなかったのかもしれないが、このままでは交代要員として扱われ続ける。試合に出ないと、選手としての価値がどんどん下がってしまう。このままでは時間がもったいない。
日本代表の軸である本田と香川が欧州のトップクラブの中核選手にはなりえていない。そこから、世界における日本の立ち位置が何となくわかる。
この2人が世界のトップで苦戦している。ということはワールドカップ(W杯)で、日本は苦戦する。現実的な見方をすれば、そういうことになる。
■今季2桁ゴール、結果残す好調な岡崎
本田、香川とは対照的に、岡崎は今季11ゴールと結果を残している。マインツは攻撃をしっかり組み立てていくチームではない。ロングボールを蹴ってもいいというサッカーをする。そのスタイルに岡崎は合っている。
岡崎は常にDFラインの裏を狙い続ける。サイドの選手は手数をかけずにクロスを入れてくれるので、頭から突っ込んでいけばいい。仕事は非常にシンプルでいい。
今季はトップで使われ続けているうちに、自分のできることは何なのかが整理できた感じがする。あれもこれもしない。自分のできることだけをする。
「自分はもっとできる」と思う選手は色気を出して、いろいろなことをしようとする。岡崎はあれ以上うまくはならない。それを自覚しているところがいいのかもしれない。とにかく余計なことはしない。
■ボランチ細貝、リーダーシップ発揮
それ以外に欧州でプレーする選手を見回してみると、細貝萌(ヘルタ)が全試合で先発出場している。ドイツに移籍後はSBをやらされるなどした時期もあったが、いまはずっと本来のポジションであるボランチを任されている。中心選手という位置づけで、リーダーシップを発揮し、チームの全体に関与している。
長谷部誠(ニュルンベルク)が故障離脱中で、遠藤保仁(G大阪)にも衰えが見える中、W杯では細貝をボランチの1番手にしてもいいくらいだ。若い山口蛍(C大阪)と組ませてもいいのではないか。細貝に限らず、W杯ではある程度の実績があり、しかも今季、試合に出続けて自信をつけている選手を起用したほうがいい。
(元J1仙台監督)