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怖いのは10年後 マイホーム購入焦る頭金ゼロ派

 マイホームを購入する際、頭金をあまり用意せず、ほぼ全額を住宅ローンで賄う人が増えている。低い金利水準、手厚い住宅ローン減税など、いま家を買いたくなる要因は多い。自己資金に余裕がないまま多額のローンを組めば、将来、返済負担で身動きが取れなくなるリスクがあることはよく認識しておきたい。

「これから地価は上がりそうだし、早めに買っておいた方がよさそう」と話すのは都内の賃貸マンションに住む公務員Aさん(34)。最寄りの駅周辺で分譲マンションが建設されているのを見るたびに購入意欲をそそられる。

夫婦2人で現在の貯蓄は500万円ほど。マンションを買うとしても頭金に充てられる資金はわずかで、多額の住宅ローンを組む必要がある。それでも、「金利が低い今のうちに借りた方が有利」との思いも強い。

融資姿勢が軟化

手元資金が少ないのに住宅を買う世帯は意外と多い。リクルート住まいカンパニー(東京・千代田)の調査によると、頭金なし、つまり、資金全額を住宅ローンに頼った人の比率は約6%(グラフA、2013年)。一部は頭金で払ったもののその比率が1割に満たなかった人を合わせると約35%に達する。

背景には融資を伸ばしたい銀行が基準を緩めていることがある。かつては2~3割の頭金を求めるのが普通だったが、ここ10年ほどの間に、頭金ゼロで貸す例が珍しくなくなった。住宅ローンとは別に、保証料や登記代などの諸費用分を貸す銀行も増えている。

しかし、専門家の間では自己資金の重要性を訴える声が多い。ファイナンシャルプランナー(FP)の深田晶恵氏は「家を買うなら2割程度の頭金を用意したい」と話す。借り入れに依存すれば将来にわたる利払い負担はより重くなる。

留意したいのは病気やリストラなどで職を失うリスクだ。収入が途絶えれば、家を手放してローンを返済するといった事態もありうる。その際に完済できるかどうかは、頭金の有無や割合によって左右される。

10年で6割の価値

その効果をおおまかに表しているのが図Bだ。

新築マンションの購入に際し、(1)頭金は払わず全額をローンに頼る(2)2割を頭金で賄い8割分のローンを組む――という2つのケースを想定。それぞれ、予定通りに返済していった場合、ローン残高(残債)がどのように減っていくかを示している。

比較対照として注目してほしいのが、新築住宅の価格が購入後どんなペースで下落するか、東京カンテイ(東京・品川)の調査データを参考におおまかに再現したイメージ線だ。価格は通常、買った直後に大幅に目減りする。2~3年たてば新築時の8割ほど、10年もたてば6割くらいの価値しかなくなってしまう。

前述のローン残高と比べてみよう。まず頭金ゼロのケースだと、住宅の時価が20年以上にわたり、ローン残高を下回り続ける。この間に仮に家を売ったとしても、ローンを完済するだけの金額には達しないことを意味する。不足額をなんとかして用意して返さない限り、身動きが取れなくなり、最悪、自己破産などに追い込まれかねない。

これに対して、頭金2割のケースでは比較的余裕がある。大半の期間で、住宅の時価がローン残高を上回っているからだ。途中で自宅を手放さざるをえなくなったとき、ローンを完済できる可能性は高そうだ。

頭金の比率と返済の可能性との間に相関性があることは実績データからも明らかだ。三菱総合研究所によると、1割に満たない頭金で家を買った人のうち、後に返済が滞って保証会社の代位弁済に至った人の比率は0.7%強(図C)。破綻率は、頭金2~3割のケースに比べて倍近い。

ローン開始から10年ほどたった時期に破綻する例が多いという。「頭金なしでのローンが普及してからまだ10年ほど。破綻率はこれから高くなる可能性がある」(三菱総研)。ある銀行の担当者は「頭金が1割あるかないかで、破綻率には大差がつく」と証言する。

ローン条件も考慮

頭金があれば住宅ローンの条件面でも優位になる。各金融機関が住宅金融支援機構と提携する「フラット35」では、頭金が1割に満たないと、1割以上の場合に比べてローン金利は0.4%ほど高くなっている。みずほ銀行や三井住友銀行では頭金2割以上のケースを対象に金利を優遇する仕組みがある。

頭金を多くして借入額を少なくすれば当然、月々の返済額を抑えられる。新築価格3000万円の住宅で固定金利2%の35年ローンを組むとしよう。月々の返済額は、頭金ゼロなら毎月約10万円、頭金2割なら約8万円になる計算だ。

もちろん、頭金は厚めがいいといっても、無理に貯蓄を取り崩してまで充当するのは危険。住宅ローンアドバイザーの淡河範明氏は、「最低6カ月分の生活費は貯蓄として残しておくべきだ」と話す。

子どもの学費や引っ越し代など見込みのある出費も考慮したうえで頭金の額を割り出す。FPの竹下さくら氏は、「もし購入時にまとまった資金を用意できないのなら、将来の繰り上げ返済の計画をきちんと立てておきたい」と助言する。

そもそもマイホームの購入を考えるなら現在の貯蓄や今後の収入見込みとの兼ね合いが重要になる。FPの高田晶子氏は、「毎月無理なく返せる金額を見積もり、身の丈にあった借入額に収める必要がある」と指摘する。

(川本和佳英)

[日本経済新聞朝刊2014年3月19日付]

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