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イメージ覆すブラジル代表、観客受けより勝利優先

サッカージャーナリスト 沢田啓明

サッカーのワールドカップ(W杯)ブラジル大会開幕まで100日を切った5日、参加32カ国すべてが各地で強化試合を行った。

ブラジル代表はアウェーで南アフリカと対戦。5月7日のW杯登録メンバー発表前最後の試合である。

変わらぬレギュラーの顔ぶれ

試合前、ルイスフェリペ・スコラリ監督が「W杯登録メンバーの90~95%はすでに頭にある」と話したが、現時点のレギュラーは昨年6月のコンフェデレーションズカップのときとうりふたつ。その後の8カ月間で変わったのは、いくつかのポジションにおける控え選手の序列にすぎない。 

不安が残るポジションも、実はコンフェデ杯前と変わらない。GKとCF。コンフェデ杯では致命的な問題とならなかったが、W杯本番も同様に切り抜けられるかどうか。

この試合でブラジルのメディアが最も気にしていたのは、クイーンズパーク(イングランド2部)からトロント(米MLS)へ移籍して間もないGKジュリオセザールと故障のため昨年後半を棒に振ったCFフレジ(フルミネンセ)のプレー内容。控えの座を争う立場ではあるが先発するチャンスを与えられたボランチのフェルナンジーニョ(マンチェスター・シティー)、右サイドバックのラフィーニャ(バイエルン・ミュンヘン)の出来も注目された。

主力も気の抜けたプレーせず

個人的には、ブラジルはW杯開幕が近い時期の強化試合で登録メンバー入り確実の主力が気の抜けたプレーを見せることが多いので、この点がどうなのかに興味があった。チームの精神的な成熟度を推し量るための重要な指標の一つと考えるからだ。

攻撃陣は2列目のエース・ネイマール(バルセロナ)、フッキ(ゼニト)、オスカル(チェルシー)がしきりにポジションを入れ替え、相手守備ラインの裏のスペースを狙う。このような動きを、フレジがポストプレーなどでサポートする。

これが実ったのが、10分の先制点の場面。中盤でボールを受けたフッキが超高速パスで裏をえぐる。CBに走り勝ったオスカルがワンタッチでゴールへ流し込んだ。

守備陣も組織として十分機能

41分には味方のゴールキックをフレジが胸で落とし、ボランチのパウリーニョ(トットナム)が絶妙のスルーパス。これを受けたネイマールが左サイドを突破し、GKの股下を抜いた。

後半開始直後、フレジからのパスを受けて裏のスペースへ飛び出したネイマールがループシュートを決める。

その後も、この日の"テスト生"フェルナンジーニョが強烈なミドルシュートをたたき込み、追加タイムにはネイマールが加点して5-0と大勝した。

攻め込まれる場面は少なかったが、守備陣も組織としてしっかり機能していた。63分に右サイドを崩されてシュートを打たれたのが唯一のピンチだったが、GKジュリオセザールが見事な反応で防いだ。

最もセレソンらしくないチーム

ハットトリックを決めたネイマール、守備の要チアゴシウバ(パリ・サンジェルマン)をはじめとして、選手全員が強い緊張感を持って真剣にプレーしていた。

つまり、試合前のテーマをほぼすべてクリアしたことになる。

コンフェデ杯優勝の翌日、スコラリ監督は「選手には、今後のすべての強化試合で勝ち点3を争うつもりでプレーしてもらう」と明言した。「ここぞの場面では目の色を変えるが、手を抜くときは徹底して手を抜くブラジル人の国民性からして、そんなことはまず無理だろう」と思っていたが、その予想は完全に外れた。

現在のセレソンは、「歴代で最もセレソンらしくないチーム」と評していいだろう。

南ア戦でも見られたように、手数をかけず、スペースをえぐって、簡単に決める。華麗なドリブルや美しいパス回しもできるが、そういう観客受けするプレーに執着しない。また、失敗を恐れず、後方の選手が思い切ったミドルシュートを放つ。

指揮官の巧みな手綱さばき

つまり"ええ格好"をせず、効率優先で勝負に徹する。チームの重心を攻撃寄りとせず、むしろ守備の安定に重きを置く。これは、ブラジルの伝統的なスタイルとはほぼ正反対のコンセプトだ。

試合後、スコラリ監督は「様々なテストができて有益だった」と満足そうだったが、「これでW杯のメンバーは決まったか」と聞かれると、「今後2カ月でとてつもない選手が出てきたら、招集しないわけにはいかないだろう」と試合前とは明らかに異なるニュアンスのコメント。さらに「これからは選手のケガが心配だが、だからといってクラブで無難なプレーをしてほしくない。選手にはクラブのために死ぬ気でプレーしてほしい」と発破をかけた。

現在のメンバーへの信頼を口にしたかと思えば、気を緩めすぎることは許さない。このあたりのさじ加減が、実に見事だ。

コンフェデ杯後、戦力の大きな上積みがあったわけではない。しかし、主力の大半は好調を維持しており、不安視されてきたGKとCFもまずまず。控えの選手層は確実に厚みを増した。ここまでのところ、ほぼ理想的な形でチーム作りが進行している。

世界で最も強いプレッシャーも

ただし、サッカーは意外性に満ちたスポーツ。何が起きるか、最後の最後までわからない。

自国開催のW杯ではすさまじいプレッシャーがかかるし、1次リーグの組み合わせはともかく、決勝トーナメント1回戦でオランダかスペインと激突する可能性がある。もしここで敗退したら、目も当てられない。これまでコンフェデ杯を制覇した翌年のW杯で一度も優勝しておらず、前評判が高かった大会では勝てないというジンクスもある。

スコラリ監督はいつも泰然自若として見えるが、「これでも大変なんだ」と漏らしたことがある。これからW杯終了までの4カ月、世界で最も強いプレッシャーを受ける男かもしれない。

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