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ジャンプ葛西の往生際の悪さのよさ

ソチ五輪が終わった。内外のアスリートが見せた入魂の演技には本当に感動したが、私としては41歳にして個人の銀メダル、団体の銅メダルを獲得したノルディックスキー・ジャンプの葛西紀明選手(土屋ホーム)に強烈なシンパシーを感じた。彼の「勝つまでやめない」という姿勢こそまさに「勝者のメンタリティー」そのものに思えるからである。

葛西の「勝つまでやめない」という姿勢は「勝者のメンタリティー」そのもの=写真 柏原敬樹

幾つになっても負けを悔しがれる葛西

アスリートの寿命が延びている。そこにスポーツ医科学の進歩が大きくあずかっていることはいうまでもない。科学的で効率的なトレーニング、十分な休養と栄養補給、節制した日々の暮らし。そういったもののコンビネーションがうまくとれないとアスリートとしての"長寿"はなかなか成し遂げられない。

さらに重要なのがメンタルの部分だ。実際、選手が老け込むのは身体より気持ちの方が先に来るものである。ある程度の名誉や金銭を手にしてもそうだし、逆にいくら頑張ってもこの道の先は見えないなと思った瞬間にアスリートの心の炎は急激にしぼんでいく。

7回目の出場にして初めて個人のメダルを手にした葛西選手から感じるのは、それとは逆の姿勢である。幾つになっても負けを悔しがれるし、あきらめない。いささか表現は悪いが、本当に往生際が悪いのである。

8回目の五輪で「七転び八起き」か

だから、今回葛西選手が銀メダルに終わったことは本人にとって良かったような気さえする。なぜなら往生際の悪い葛西選手は銀メダルを悔しがり、金メダルをあきらめきれず、さらにもう一段、ジャンパーとしての執念をたぎらせる気がするからである。

7回目の五輪という響きはどこか「七転び八起き」を連想させる。葛西選手は銀メダルさえ「転んだ」ととらえて、8回目の五輪で「起きよう」とするのではないか。

私はこれまで何百、何千人というサッカー選手を見てきたが、代表にまで上り詰める選手に共通するのは「へこたれない」「あきらめない」という執念深さだ。サッカー選手の人生に約束されていることなど何一つない。どんなにうまくても監督と反りが合わなくて試合に干されるケースもあれば、順風満帆のさなかで非道なタックルを食らって大ケガを負うこともある。

勝者とは「勝つまでやめなかった者」

しかし、約束されていることは何もないけれど、あきらめない人には常に成功の可能性が残されているのもスポーツである。「勝者」とは言い換えれば「勝つまでやめなかった者」なのである。

今は五輪が終わったばかりで何も考えられないかもしれないが、最後のフリーの演技で最高のパフォーマンスを見せたフィギュアスケートの浅田真央さんだって、私はもっと往生際が悪くていいんじゃないか、と思ってしまうのだが。

さて、3月1日にJリーグの2014年シーズンが始まる。開幕前から大きな話題をさらっているのがC大阪にやってきたウルグアイの至宝、ディエゴ・フォルランである。4年前のワールドカップ(W杯)南アフリカ大会の得点王にしてMVP。Jリーグにやって来た過去の外国人選手たちと比べても「特A」のスーパースターだろう。

フォルランの刺激、予想以上に大きく

フォルランが与える刺激は予想をはるかに超えたものになる気がする。C大阪のホームの試合のみならず、アウェーでも大きな集客をもたらすだろう。そうなればリーグ全体が活気づく。収益は上がる。Jリーグは54歳という若い村井満・新チェアマンを迎えたばかり。古い衣装は脱ぎ捨てて、さまざまな新しいチャレンジに打って出る機運もここから醸成されるだろう。

C大阪は柿谷曜一朗、南野拓実、山口蛍、杉本健勇らイケメン選手が多く、「セレ女」と呼ばれる若い女性人気が急上昇していると聞く。ファンの高齢化が毎年進んでいるとされるJリーグでは稀有(けう)なチーム。そこにフォルランである。イキのいい若手と花も実もある海外スターの合体。この試みが成功すれば、他のクラブも大いに刺激を受けて、第2、第3のフォルランを連れて来るようになるかもしれない。

ピッチレベルでの刺激も大きい。本物の実力者はキック1本、トラップ1つだけでそのすごさを周りに感得させるものだ。周りにちやほやされて勘違いしかねない若手に対してフォルランは絶好の重しになる。「おれたち、まだまだだな」と。

長く続くスーパー外国人への投資効果

似たようなことは私の古巣、磐田でもあった。1990年W杯イタリア大会得点王のスキラッチ(イタリア)、94年米国大会優勝のドゥンガ(ブラジル)、オランダ代表のファネンブルグらが磐田に在籍した間、中山雅史や名波浩、福西崇史、服部年宏、藤田俊哉、田中誠といったその後、ジュビロの黄金時代を築いた面々がどれほど大きな刺激を受けたことか。その教育効果は半端でなかった。

磐田がその後、中山から高原直泰、前田遼一と3代続いて日本人得点王を輩出できたのは原点にスキラッチの教えがある。ゴールを奪うその遺伝子が中山を介して高原、前田と脈々と受け継がれたのである。

中途半端な外国人選手ではこうはいかない。スーパーな外国人選手への投資効果は3代、4代にも及ぶ。C大阪にもきっと同じことが起こるだろう。鹿島がジーコを、磐田がドゥンガの教えを実にして黄金時代を迎えたように、フォルランがセレッソ(桜)を満開にする気がしてならない。

フォルランと日本選手、浅からぬ因縁

フォルランと日本選手は浅からぬ因縁がある。99年にナイジェリアで開かれたワールドユース選手権(現在は20歳以下W杯に改称)で日本が準優勝の快挙を成し遂げたとき、準決勝で対戦したウルグアイにフォルランもいた。

正直、そのころ、背番号14を付けたフォルランはそんなに目立った選手ではなかった。むしろトルシエ監督が「こいつら、フル代表の連中よりうまい」と感心した日本チームの小野伸二(ウェスタン・シドニー・ワンダラーズ)、高原(東京V)、本山雅志、小笠原満男(ともに鹿島)らの方がずっと輝いていたように思う(コーチだった私のひいき目かもしれないが)。

同じ大会に参加した選手でいうと、日本が決勝で負けたスペインのシャビ(FCバルセロナ)だって、この時点ではうまいことはうまいけれど、そんなに目立った選手ではなかった。

それが今はフォルランもシャビも世界のスーパースターだ。フォルランは移籍先のマンチェスター・ユナイテッドで不遇をかこち、シャビも次々にバルセロナにやって来るスーパーな外国人選手からポジションを奪えずにベンチを温めた日々があった。そういう時代を乗り越えて今があることを思うと、彼らも本当にしぶとい。

現役で頑張る「黄金世代」の姿に喜び

コーチとしてうれしいのは、日本で「黄金世代」と呼ばれた99年組が今もしっかり現役で頑張ってくれていることだ。先に名前を挙げた4人以外にも南雄太(横浜FC)、稲本潤一(川崎)、中田浩二(鹿島)、榎本達也(栃木SC)、石川竜也(山形)、加地亮(G大阪)、播戸竜二(鳥栖)が今季もJリーガーを張ってくれる。

中でも驚きはG大阪の遠藤保仁だろう。34歳になった今も日本代表の中核であり、この夏のW杯ブラジル大会でも「代えの効かない選手」として日本の中盤を仕切るはずである。

面白いもので遠藤もまた、若いころは小野や稲本の陰に隠れて決して目立った存在ではなかった。代表メンバーに入ってもレギュラーを確保するまでには至らない。そんな感じの選手だった。

日本代表で最後まで生き残った遠藤

彼の履歴を語る際に必ず出てくる話だが、2000年シドニー五輪は正規の18人枠に入れず、バックアップメンバーとして客席から五輪に参加した。02年日韓大会はメンバーに選ばれず、ようやくつかんだW杯のチケットは06年ドイツ大会が初めて。しかし、このときもフィールドプレーヤーでただ一人、ジーコ監督から出場機会を与えられずベンチに座り続けた。

夢に見たW杯の初舞台は4年前の南アフリカ大会で、もう30歳になっていた。本人にとっては本当に長い道のりだったと思う。

きらめきに満ちた黄金世代の中で、天賦の才に恵まれた小野でも稲本でもなく、遠藤が代表で生き残ったのは、ずっと「届いてこなかった」からだと思う。23人ならエントリーされるけれど18人になると外れる、選ばれてもレギュラーになれない、試合に出られるのは海外組が不在のときだけ。いい線まで来ているけれど最後のところがなかなか越えられない。

自分の持ち味を丹念に磨き上げ

もうちょっと、あと少し、もうちょっと、あと少し……。その差を埋めるために本人はどれだけ悩み、もがいてきたことだろう。あと少しのところまで来ているから頑張れたともいえるが、あのひょうひょうとした表情の下で相当な葛藤もあったはずだ。

もともと繊細な技術の持ち主。特にパスを使い分けて攻守にリズムを作り出す才に恵まれていた。自分一人で何かできるタイプではない半面、自分の能力を使って本田圭佑(ACミラン)や香川真司(マンチェスター・ユナイテッド)ら周りの選手を輝かせるのは得意。そういう特長を生かして「ヤット(遠藤)さんがいないと何かしっくりこない」といわれる存在にまでなりおおせた。

抜群のスピードやプレーに強さがあるわけではない。足りないものを自覚してそれを埋める努力をしてきたが、やはり力を注いだのは人のマネができない自分の持ち味を丹念に磨き上げることだった。

不遇かこっても周りのせいにせず

遠藤が素晴らしいのは、その折々で不遇をかこっても決して「監督の見る眼がない」などと周りのせいにしなかったことだ。真のチャンピオンは負けを潔く認めるように、常に理由を自分に向けていた。「出られないのは結局、自分に足りないものがあるから」。そういうふうに考えられる人間だった。遠藤が言い訳の多い、ネガティブな思考回路の持ち主だったら、前を行くウサギたちを抜くことはなかっただろう。

(サッカー解説者)

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