スコアアップ工房 サンドウエッジ、ソール形状が生むバンカー恐怖症
クラブデザイナー 喜多和生

「サンドウエッジ(SW)を買い替えたら、バンカーからボールが出なくなった」と嘆くお客さんが最近少なくありません。バンカーショットは心理的な要素が大きく、一度出せなくなると次からさらに苦手意識を持つようになります。ですからこうした意識は少しでも早くなくすべきです。ところが問題なのは、店頭に並んでいるSWのほとんどがバンカーショットに向いていないデザインだという事実です。
■サンドウエッジの問題点は…
現在、売られているSWのどこが問題なのでしょうか。ずばり、ソール形状です。クラブをひっくり返して、ソールをバックフェース側から見てください。バンス(ソールの出っ張り)の真ん中が一番高く、トー(フェースの先端)とヒール(シャフトに近い端)に向かって、ゆるやかな曲線を描いている「三日月形」になっていることがわかると思います。次にトーを90度回して、リーディングエッジがまっすぐになるように見てください。最近のモデルは「三日月形」のため、ヒール側のバンスの出っ張りがほとんどありません。
これに対して1970~80年代のウエッジの代表であるウィルソンの「DYNAPOWER」をご覧ください。ソール形状は三日月より曲線がゆるやかで、ヒール側にもはっきりとしたバンスがありました。



最近のモデルはこのバンスがなくなってしまっているため、砂を弾くというSW本来の機能を果たせないクラブになっているのです。このため、意識的にバンスを作って砂を弾くようにしなければ、以前のSWと同じ機能は果たせません。

ほとんどのゴルファーはフェースを開いて、バンスの後ろ側を出っ張らせたアドレスにします。すると、確かにソールの抵抗が大きくなりますが、今度はロフトが大きくなりすぎてボールが上がるものの、距離が出なくなります。ボールは砂からいったん出たように見えますが、バンカーのあごに当たって逆戻り。これが「バンカーから出ない」と映るわけです。
バンカーから出ないのは、ボールが上がるだけで距離が出ないからなのか、それともボールが上がらないからなのか。ヒール側のバンスがないモデルが増えてきてからは、前者の原因による「バンカー恐怖症」が増えているように思えてなりません。

三日月形ソールのSWが主流になってきた背景には、プロが使っているモデルをアマチュア向けに販売するという、ゴルフ用品各社の販売戦略にアマチュアが振り回されている現実があります。
最近のトーナメントでは大きくうねったグリーン、深いラフが特徴です。グリーンをはずした場合、スピンの効いたボールで狙った点に落とさなければならないセッティングです。こうしたラフから寄せるにはボールの高さ、スピン量、操作性などいろいろなテクニックを使えるSWが求められます。
■アプローチにも対応できるデザイン
これまでバンカーでの使い勝手を重視して設計されていたSWに、アプローチにも対応できるデザインが求められるようになってきたのです。その結果、ヒール側のバンスがない操作性に優れたSWが主流となり、最後にはこのモデルしかなくなってしまったというのが現状なのです。
しかも店頭販売でSWの仕様説明は、ロフト角とバンス角だけ。それ以上に重要な「バンスの形」「砂と接触するバンス面積」「砂に潜っていくときの抵抗」などは、まず話題になりません。雑誌の特集も、SWの顔(デザイン)や数値データなどは紹介するものの、数値では測れない「ソール面の形状」などからバンスを解説したものは見たことがありません。理由は簡単で、文字では説明することが極めて難しいからです。
ではプロはバンスのないSWでどのようにバンカーから出しているのでしょうか。私の見るところ、ずば抜けてうまいのはS・K・ホ選手(韓国)です。
ホ選手は砂に打ち込んだSWのリーディングエッジがちょうどボール下の来たときに、上に引きあげています。極端な言い方をすれば、ボールを持ち上げているのです。アマチュアが彼のSWで打ったら、バンスが砂にめり込むだけでしょう。ホ選手のテクニックがあれば、9番アイアンでもバンカーから脱出できるはずです。

■自分に合ったクラブに「仕事させる」
一方、中嶋常幸プロは昔と同じようにヒール側にバンスのあるウエッジを使っています。中嶋プロのSWのソールの減り方を見れば、バンス全体を使って、うまく砂を弾くことでボールを打ち出しています。ホ選手がテクニックでバンカーから出すタイプの筆頭なら、中嶋プロはクラブに「仕事をさせる」タイプの代表といえるでしょう。
アマチュアがホ選手のようなテクニックを身につけるのは大変です。中嶋プロのように自分に合ったクラブに仕事をさせる方が、ずっと楽です。
アイアンのロフト角が立ってきたことやウエッジの溝規制などに伴い、SWの守備範囲は広がっています。しかし、それはプロの話。アマチュアは自分がどのような状況でSWを使って、どういうショットを打ちたいのかを再検討してみるべきでしょう。そして、その場面にふさわしい自分に合ったSWをバッグに入れるべきです。
トーナメントならいざ知らず、アマチュアが日常プレーするコースセッティングでは、プロのように守備範囲は広いが、テクニックがないと使いこなせないSWをバッグに入れておく意味がどれだけあるでしょうか。ここ一番という場面で「これなら、バンカーから出せると自信を持てるSW」を入れておくのと、どちらが安心できるでしょうか。ジーン・サラゼンが考案したSWも、もともとはピッチングウエッジのソールを膨らませた「バンカー専用クラブ」だったのですから。