/

ジャンプ団体銅、4人のキャラクターかみ合った日本

ラージヒル個人戦の結果をみれば、日本には金メダルのチャンスもあった。しかし、長野五輪以来の団体戦メダルを獲得したのはシーズン前の状況を思えば大健闘だ。20歳の清水礼留飛(雪印メグミルク)が引っ張ったという点では次につながる五輪ともなった。

表彰式で花束を手に声援にこたえる(左から)清水、竹内、伊東、葛西=写真 柏原敬樹

日本は誰を送り出すかで、結構迷ったのではないか。個人ラージヒルで銀メダルの葛西紀明さん(土屋ホーム)、9位の伊東大貴(雪印メグミルク)、10位の清水までは当確として、4人目は悩んだと思う。個人ラージヒルに出場して13位の竹内択(北野建設)が選ばれたが、練習では渡瀬雄太(雪印メグミルク)も飛距離を伸ばしていた。

4人の飛ぶ順番、ポイントに

団体戦では誰を1番手に持ってくるか、誰を"アンカー"とするか、4人の順番がポイントになってくる。清水、竹内、伊東、葛西さんという順番がまず絶妙だった。

明るくて怖いもの知らずの清水はトップにぴったり。竹内は割と繊細で、責任を背負い込むタイプだから、比較的負担の軽い2番手で飛んでもらい、準エース格の伊東が3番手、エースの葛西さんが一番重圧のかかる4人目を務めた。

ムードメーカーの役割を果たした清水のジャンプ

金メダルを獲得した長野五輪のトップバッターは岡部孝信さんで、2回目の大ジャンプで、1回目4位からの逆転機運をつくったのだった。

この日の清水も岡部さんのようなムードメーカーの役割を果たした。1回目は132.5メートル、2回目は131.5メートルで、ともに1人目グループのなかでは2位の得点だった。

何事にもあっけらかんとしている清水はいつもわいわい騒いでいる。全日本で集まると岡部さんあたりに「静かにしろよ」などと言われているが、それは彼がみんなのマスコット的存在になっているからだ。かわいげがあるというか、失敗しても「清水ならまあいいか」と思わせるものを持っているのだ。

その清水の1回目は内容的には失敗だった。踏みきりで頭を下げすぎて、猫背になり、あまり風を受けられない体勢になった。それでも距離を稼いだあたりが、ソチのラッキーボーイ。

日本の1回目の飛躍。(左上から時計回りに)清水、竹内、伊東、葛西

痛いほど伝わってきた必死の思い

2番手の竹内のところで優勝したドイツや銀メダルのオーストリアに水をあけられた。ちらりとテレビがとらえた控室の竹内の表情は青ざめていて、いつもと違っていた。アプローチの滑りも硬い。それでも極度の緊張のなかでは精いっぱいのジャンプができたといえるのではないか。必死の思いが痛いほど伝わってきた。

3番手の伊東。膝を痛めていて、2回目はよく着地で立てたという感じだった。ブレーキングトラックでは踏ん張りきれず、精根尽き果てて、へなへなと崩れ落ちた。国を背負って飛ぶ団体戦ならではのプレッシャーを見た思いだったが、逆にいえば、その責任感によって彼はぼろぼろの膝を抱えながらも、着地で立てたのではないか。

4番手の葛西さんは2回とも完璧だった。134メートルを2回そろえ、各国のエースが集うグループのなかでともに3位となり、得点源となった。

コーチ陣含めたチーム編成の妙

2回目を終え、ブレーキングトラックで体勢を崩した伊東

まだまだ青いが、元気はつらつとしたジャンプを清水がみせれば、41歳の葛西さんは熟練の味を出す。間に挟まれた竹内、伊東を含め、日本の陣容はそれぞれのキャラクターがかみ合い、1つのファミリーになっていたと思う。

ファミリーをまとめ上げた横川朝治ヘッドコーチは選手の自主性を尊重するタイプだ。選手の気持ちを盛り上げるのがうまく「こういうのを試してみたい」と選手が相談すると、必ず「いいじゃないか、やってみろ」と後押ししてくれる。横川ヘッドコーチがお膳立てした明るい雰囲気のなかで選手たちは飛べたのだろう。清水の失敗を恐れない飛躍が日本チームのムードを象徴していた。

低迷期、日本はフィンランドからコーチを招いたことがあった。大変厳しい人で常にピリピリしていて、失敗は許されなかった。あの体制下だったら、清水あたりも若いから大目に見られるということはなく、あまり自由に飛べなかったかもしれない。そう考えると、ソチの成功はコーチ陣を含めたチーム編成の妙にもあったともいえる。

展望記事で書いたように、団体戦となると異常な強さを発揮するオーストリア、全員が同質のジャンプをするので、台があえば怖いと評したドイツが上位に来た。

表彰式で花束を手に声援にこたえる上位3カ国。左から銀メダルのオーストリア、金のドイツ、銅の日本

優勝のドイツ、選手の均質性に強み

特にドイツは選手の均質性の強みが出たと思う。

2回目の2番手までは1位オーストリア、2位ドイツ。ドイツは3番手の18歳、アンドレアス・ヴェリンガーがこのグループの最長不倒となる134.5メートルを飛んでオーストリアを逆転した。

彼のジャンプに代表されるようにドイツ勢は全員が脚力を利して、比較的高く飛び出し、高い飛行曲線を保つ。女子選手まで同じ飛び方をしているから徹底したものだ。

これがソチの台と風にはまった。

この日はしばしば追い風が吹いていた。ドイツ勢の質実剛健なジャンプは、特大のホームランはない代わりに、追い風でも安定して飛べるという特性を持つ。低い飛び出しでスピードを保ち、飛躍後半の伸びに懸けるジャンプは追い風を受けると低空飛行のままストンと落ちてしまうリスクがある。

引きの強さ、ジャンパー必須の才能

ドイツ勢のように高い位置をキープしていれば、後半の伸びはあまり期待できないが、途中でポトリという危険性はない。山っ気がなく、どこまでも手堅いドイツのジャンパー気質の勝利だったといえるだろう。

ヴェリンガー、そして2番手として1回目、2回目ともグループ1位となってドイツを引っ張った23歳のマリヌス・クラウスは末恐ろしい。

しかし、それ以上に清水は世界に恐れられる存在になったのではないだろうか。粗削りながら、一発がある。初の五輪でメダリストになったという引きの強さも、風任せの面があるジャンパーにとっては必須の才能だ。

(ソルトレークシティー、トリノ、バンクーバー五輪代表)

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン