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「するスポーツ」という文化を育むには

編集委員 吉田誠一

1月下旬になって急に3泊4日のインドネシア出張が入った。Jリーグがインドネシア・スーパーリーグとパートナーシップ協定を結び、と同時にインドネシア代表選手がJ1甲府入りする。そのニュースを追いかけて、雨期に入っている南国まで飛ぶ。

J1甲府入りしたインドネシア代表FWイルファン・バフディム

今季最後のフルマラソンである2月9日の愛媛マラソンに向けての調整は狂うが、気にしてもどうにもならない。いつものようにランニングシューズをバッグに詰めてジャカルタへと向かった。自分の脚で、また未知の国を駆けることができるのだからいいではないか。これで、走った国は何カ国になるのだろうか。ひまがあったら数えてみよう。

雑然とした環境、走る気が起こらず

初日はジャカルタ到着が夜になり、走る時間はなかった。スカルノ初代大統領の出身地であるジャワ島東部のスラバヤに飛んだ翌日も、ランニングの時間は見つからず。そもそも、この街で走るのはかなり難しそうだ。バリ島のようなリゾート地とは雰囲気が違う(といってもバリ島に行ったことはないが)。

公園は見当たらず、道路は車とバイクであふれ、しかもかなり運転は乱暴ゆえ、ランニングをするには危険。すべてが雑然とし、ぐちゃぐちゃとしている。

ジャカルタの道路は車とバイクであふれ、ランニングをするには危険

あの環境では、走る気はなかなか起きない。「するスポーツ」という文化は育まれにくいのではないか。「なぜ走るのか」という話をしても、にわかには理解されないだろう。「あんた、おかしいんじゃない」で済まされそうだ。日本でもそう言われることはあるが……。

公園を何周も、物珍しそうに見られ

ジャカルタに戻った出張3日目は夕暮れ時に何とか走る時間をひねり出し、ホテルに近いムルデカ広場に向かった。中央に独立記念塔がそびえる公園を1周すると2キロほどになる。全地球測位システム(GPS)付きスポーツウオッチで距離をチェックしながら、気ままに走った。3日ぶりのランニングなので、不思議なほど気持ちが満たされる。

日中は気温が27度ほどあったが、日が落ちかけ、20度ほどまで下がっているだろうか。それでも日本と比べれば10度は高く、久しぶりに汗だくになった。1年中、寒さに震えることなく、短パン、半袖シャツで走れるのはなかなかいい。

日が落ち、闇に包まれても夕涼みに訪れている人たちがかなり残り、ベンチや地べたに座っておしゃべりを続けている。ランナーは皆無。いつまでもぐるぐると公園を走り回っている私を物珍しそうにながめている。

独立記念塔がそびえる公園にランナーは皆無。怪しい人物と思われないよう、できるだけおとなしく周回した

愛媛マラソンから逆算すると、レースペースで走っておきたいところだが、そういう雰囲気ではない。暗闇の中、はあはあ、ぜいぜいと激走していたら、「何かとんでもないことをしでかしそうな人物」と認定され、警察のお世話になるのではないか。仕方がないので、できるだけおとなしく周回する。結局、午後7時半ごろまで14キロを走った。

思いがけずトレッドミル・デビュー

帰国する翌日は午前6時に起きてホテルのジムで走ることにした。早朝だというのに、もう5、6人がトレーニングをしている。彼らはガチャガチャと器具を使って体をいじめているが、私の目当てはもちろんトレッドミルだけ。といっても実はトレッドミルを使うのは、これが初めて。自称「ナチュラル派ランナー」ゆえ、ジム通いの経験はなく、ひたすらロードを走ってきた。

そんな私がジャカルタでトレッドミル・デビューを飾るとは思ってもいなかった。トレーナーの女性はかなり遅い設定をしてくれたが、もどかしいので、どんどん速度を上げて時速11・5キロとした。1キロ=5分20秒ほどだから、ちょっと遅めのレースペース走になる。

カゴの中を走り続けるマウスのよう

体は決してつらくはないが、やはりこれは性に合わない。当然ながら、いくら走っても景色が変わらないし、誰ともすれ違わない。風向きや気温の変化も感じない。経験を重ねれば慣れるのかもしれないが、面白みは感じにくい。

トラックを周回するのにすら拒絶感が起きるのだから無理もない。カゴの中でくるくる走り回っているマウスのような寂しい気持ちに、すぐなった。

目がいくのは走行距離や速度、走行時間の表示ばかり。あと何キロ走らなくてはならないのかということに縛られ、自ら進んで走っているというより、走らされているという心理状態に陥る。9キロ走ったところで、なかばギブアップした。

しかし、よく考えてみると、嫌々ながらも決められたペースで走り続けたのだから、いいトレーニングにはなった。機械に尻をむち打たれながら駆け続けたという感じだろうか。1人で走っていると、つらいことから逃げだしがちなだけに、たまにはこれもありかもしれない。とにかく、またも汗だくになれたのは良かった。

朝のムルデカ公園で、そろいのスポーツウエアを着て隊列を組んで走る人たち

朝の公園を集団で走る役人・警察官?

朝食後、朝ならランナーがいるのではないかと想像し、散歩がてら再びムルデカ公園に足を運んでみる。すると、いるではないか。といっても自主的に走っているランナーではない。

そろいのスポーツウエアを着て、隊列を組んで走っている。掛け声つきや、みんなで歌いながら走っている集団もある。年齢の幅は広く、10代の男性から50代の女性までいる。

ランニング終了後、向かった先が公園に隣接した官庁街なので、おそらく役人や警察官が仕事前に運動を課せられているのだろう。そのまま屋台に直行し、朝食をとっている人も多い。

仕事前のラジオ体操のようなもので、これを「するスポーツ」という文化と呼んでいいのかどうかは疑問符がつく。かなり、やらされている感が強い。そう考えると、日本の体育の授業も「するスポーツ」とは言い難い。やはり、あれはスポーツではなく体育なのだろう。

そういう体育の授業で走らされることに嫌悪感を抱いていた人間が、年を重ねてから、喜々として走るようになったというのが、いまの日本のランニングブームということになる。

体育の授業がもっと楽しければ…

あの窮屈な体育の授業が、本来の意味のスポーツを感じさせるものだったら、私たちはもっと早い段階で、日常的に熱心に走るようになっていたのだろうか。体育の授業がもっと楽しいものになったら、いまとは比較にならないくらいたくさんのランナー(スポーツ愛好家)が生まれるのだろうか。たぶん、そうではないか。

みんなそろって走ったり、スポーツをしたりしなければならないというわけではないが、そうなるかもしれない人たちのための魅力的な入り口をたくさんつくっておいたほうがいいのではないか。体育の先生、よろしくお願いします。いや、スポーツの先生ですね。

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