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スコアアップ工房 飛ばないクラブに? ドライバーイップスの荒療治

クラブデザイナー 喜多和生

ゴルファーなら「イップス(Yips)」という言葉をご存知だと思います。語源は「子犬がほえる」という意味の「yip」です。米プロゴルファーのトミー・アーマーが著書の中で、「パットが打てなくなる」という意味で初めて用いたといわれています。プレッシャーがかかる場面で体が震えたり硬直したりして、ショットミスを繰返してしまうことをいいます。

アマチュアに意外に多い症状

イップスというと、一般的にはパターが打てなくなる症状を指しますが、ショットでもイップスにかかることがあります。例えば、アイアンで強烈なトップや引っ掛け、大ダフリを連発。ドライバーのスイングトップからの切り返しで固まってしまい、無理やりクラブを下ろしてくるため、とんでもないショット(時には空振り)を打ってしまう、というケースです。

「イップスにかかるのは極度の緊張のもとでプレーしているプロだけだろう」と思うかもしれません。ところが、そうでもありません。アマチュアで意外に多いのがドライバーイップスです。「ひどいフックや引っ掛けばかり。クラブを替えても同じです。シャフトが合わないのでしょうか」という悩みをお持ちの方は、意識していなくてもドライバーイップスの初期症状である可能性があります。

「飛距離出る」という固定観念

そうした悩みを抱えるゴルファーのスイングを拝見すると、ドライバーだけまったく違うスイングをしていることが多いのです。3番ウッドは問題なく打てる方に「3番と同じスイングでいいんです」と申し上げても、「いや、自分では同じスイングをしているつもり」といいます。最後には「なぜかわからないが、同じスイングができない」という答えが返ってくることも珍しくありません。

なぜドライバーだけ打てないのか。それは「ドライバーは一番飛距離が出る」という固定観念があるからです。「飛距離が出る」ならいいのですが、知らず知らずのうちに「その飛距離を出そう」と目いっぱい振るようになります。やがて、ドライバーだけまったく異なるスイングでしか振れなくなり、そこで染み付いた症状がどうやっても治らなくなるというわけです。

現在、日本ゴルフツアー機構(JGTO)の理事を務める鈴木規夫プロも、現役時代にはドライバーイップスに悩んだ時期があります。練習ラウンドでは問題ないのに、試合になるとボールがとにかくブン曲がりました。ティーショットが250ヤード地点の林の中から見守っていた私の頭上を越えて、さらに奥まで曲がっていったこともあります。

シャフトを切って、短くする

これでは試合になりません。重さ、ヘッドの形、ロフト、シャフトといろいろな対策を講じましたが、治りません。最後に行き着いたのがシャフトを切って、短くすることでした。当時、ドライバーの標準の長さは43インチでしたが、思い切って42インチにしました。これで鈴木プロのドライバーイップスは治りました。

この場合、「シャフトを切って短くする」がポイントです。上に書いたように「ドライバーは飛距離が出る」という固定観念があるから、振るのです。シャフトを短くすれば、当然飛ばなくなります。「このドライバーはシャフトを切った。シャフトが短いので、飛距離は出ない」ということを形で示したわけです。別の表現をすれば「ドライバーをドライバーでなくした」のです。

事実を形にしてこその効果

ドライバーとそっくりのクラブ(ヘッドは同じ)ですが、シャフトを短くして飛距離が出ないクラブですから、飛ばそうとしても無理です。ですから使い手は飛ばそうとスイングしなくなります。するとむちゃぶりをしなくなり、次第にドライバーイップス症状が薄らいでいくのです。

今から40年ほど前にはドライバーと3番ウッドの間に、2番ウッド(通称ブラッシー)というクラブがありました。鈴木プロに渡したシャフトを短くしたドライバーは、ほぼブラッシーと同じクラブだったのです。ドライバーだと曲がっていたティーショットが、ブラッシーにすると曲がらなくなる、というのは何とも不思議な話です。

「シャフトを切って短くするというなら、クラブを短く持てば同じだろう」という意見があると思いますが、短く持ってもダメです。切って短くしてしまう、このクラブは前と同じ長さではないと事実を形にしなければ、効果は望めません。ここが、メンタルが大きく影響するゴルフならではの面白いところです。

「飛距離への飽くなき欲求」に長短

この10年くらいは少しでも飛ばそうと、長尺ドライバーが幅を利かせてきました。今では店頭でシャフトが45インチより短いドライバーを見つけるのは難しいほどです。この「飛距離への飽くなき欲求」の結果、鈴木プロと同じようなドライバーイップスを増やしているような気がしてなりません。

「どんなにドライバーを買い替えても当たらない」「ドライバーだけ曲がって仕方がない」という方は、一度思い切ってシャフトを43インチくらいまで切ってしまう荒療治を試してみる価値はあると思います。そもそも1970~80年代のドライバーの標準長さはプロ用が43インチ、アマチュア向けは42.5インチだったのですから。

 きた・かずお 1966年ミズノに入社、クラフトマンとして中嶋常幸、鈴木規夫、岡本綾子らトッププロのクラブを手がけた。90年にゴルフクラブ工房の「ジョイメニィー」を設立。「クラブがスイングを創る」をテーマにプロ担当経験を生かし、アマチュア向けクラブも製作する。92年に製作したドライバーがクラフトマンモデルとしては世界で初めて、英セントアンドルーズゴルフクラブにあるR&A(ロイヤル&エンシェント)のゴルフミュージアムに展示されている。

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