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苦境に立たされた香川 マンUで歩むべき道

サッカージャーナリスト 原田公樹

派手な「着任」だった。25日、イングランド・プレミアリーグのチェルシーから、MF香川真司(24)が所属するマンチェスター・ユナイテッドへ移籍したスペイン代表MFのフアン・マタ(25)は、ヘリコプターで練習場に降り立った。

マタは「新たな挑戦のときがきた。ワクワクしている。チェルシーでは楽しい数年間だったが、マンチェスター・ユナイテッドは、僕にとって完璧なクラブだ」と抱負を語った。

マタ、マンU史上最高の選手として移籍

発表された移籍金は、クラブ史上最高額の3710万ポンド(約63億円)。契約期間は未公表だが、2018年夏までの4年半とみられる。マンU史上、最高の選手として迎え入れられたわけだ。

ヘリの到着サイトまで出迎えに来たモイズ監督は、「フアンは今日のサッカーで、最も洗練されたプレーメーカーのひとり。獲得できて本当にうれしい」と喜んだ。さらに「火曜日には彼を加えたい」と話し、28日のカーディフ戦でデビューさせる考えを明かした。

ということは、18人のベンチ入りメンバーから誰かひとり、押し出されるわけだ。その筆頭候補は、マタとほぼ同じポジションの香川だろう。この半シーズン、モイズ監督の香川に対する評価や起用法を見てきたが、2人はサッカー観が違う。根本的に合わない。ケガ人が続出しているので香川が28日にベンチ入りする可能性はあるが、今季後半戦にかけて確実に出番は減るだろう。

実力でいえばマタのほうが上だ。11年8月にバレンシア(スペイン)から移籍金2350ポンド(当時のレートで約31億円)でチェルシーへ移籍、MFヨシ・ベナユンから背番号10を譲られるなど、特別待遇で迎えられた。それまでずっとスペインでプレーしていたが、スラスラと英語を話していたのが印象的だった。

以来昨季まで、ビラスボアス監督、ディマッテオ監督、ベニテス監督と3人の指揮官の下で2シーズンにわたってプレー。公式戦118試合で32ゴールを決め、アシストも非常に多かった。

ところが、今季復帰したモウリーニョ監督の評価は低かった。攻撃力は抜群だが、守備能力がやや劣るからだ。そのため今季前半戦は公式戦の出場が17試合にとどまり、わずか1得点をマークしただけ。マンUとのリーグ戦はすでに2戦を消化し、このあと直接対決がないこともあって、指揮官は移籍を容認した。

商業的理由、低い香川放出の可能性

一方、香川はファーガソン前監督に気に入られ、12年6月にドルトムント(ドイツ)から移籍金1200万ポンド(当時約15億円)で移籍してきた。昨季は公式戦28試合に出場して6ゴールを決めた。プレミア1年目としては悪くなかったが、今季からチームを率いるモイズ監督の下では18試合無得点と振るわない。

ならばモイズ監督が香川を見限り、この1月の移籍市場で放出するかといえば、その可能性は低い。香川自身にそのつもりはないし、マンUからすると商業的な理由で放出できないからである。

現在マンUは日本企業数社と世界規模、または国内限定のパートナーシップ契約を結んでいる。その契約金は合計数十億円になり、マンUの約600億円近い年間予算の一部を支えている。

契約日本企業から「見返り少ない」

ところが最近、複数の企業からマンUに対して「パートナーとしてのメリットが少ない」と苦情が出ているのだ。各企業はもっと香川を宣伝などに使えると考え、イベントへの出席も期待していたが、それが不十分だという。契約上では「企業とマンU」が当事者となっているため、契約不履行とはいえないが、数億円を支払った企業側は「見返りが少ない」と感じているようだ。

もし香川をこの1月に放出した場合、苦情がさらに強まる可能性がある。できればこれらの企業と契約を更新し、さらなる契約の獲得を目指したいマンUとしては、こうしたクレームが拡大する事態は避けたい。そのため、たとえ香川を試合に起用する機会が減ったとしても選手として保有していたほうが、クラブとしてのメリットは大きいのだ。

ではモイズ監督が解任される可能性はないのか。今季リーグ戦ですでに7敗し、22試合を消化した時点での戦績としてはプレミアでのクラブ史上最悪を更新した。このままでは優勝はおろか、来季の欧州チャンピオンズリーグ(CL)への出場権が獲得できる4位以内も微妙だ。イングランド・リーグカップ、イングランド協会(FA)カップはもう敗退し、残るカップ戦は欧州CLだけ。今季の栄冠はコミュニティー・シールドだけに終わる可能性が高い。

監督解任もシーズン中は考えにくく

とはいえ、今季途中でモイズ監督が簡単に解任されるとも思われない。マンUにモイズ監督を解任できる人物がいないからだ。マンUは昨季までファーガソン監督が26年半にわたる長期政権を維持していたから、今の経営陣は指揮官を解任した経験がない。

最高経営責任者であるエド・ウッドワード副会長は41歳で、現職に就いて1年に満たない。事実上のナンバー2でグループ最高責任者のリチャード・アーノルド氏は42歳で、昨年就任したばかり。今は社内で自分の地位を築くのに精一杯で、自らリスクは取りたくないというのが本音だろう。

しかも、モイズ監督を「後継者」として指名したファーガソン前監督は、役員のひとりとして現在でも絶大な力を持つ。それに逆らうような行動には、誰も出られないのである。もし解任があるとすれば、ファーガソン前監督が決断したときだ。もしくはオーナーのグレーザー一家の誰かがトップダウンで指令を下したときだろう。

クラブ資産価値、半年で250億円低下

ニューヨーク証券取引所に上場しているマンUの株価は、昨季リーグ優勝した後に19ドルを超えたが、現在は15ドル前後と低迷している。この半年でクラブの資産価値は250億円程度下がったといわれる。このままでは経営が立ち行かなくなるとグレーザー一家が判断すれば、モイズ監督が解任される可能性がある。だが、いずれにしてもシーズン中は考えにくい。早くて今季末だろう。

25日にマタの移籍手続きが完了すると翌日、モイズ監督はクラブの専門テレビ「MUTV」のインタビューで今後の選手補強についてこう話した。「これは始まりだ。さらに選手を獲得し、エキサイティングなチームをつくる。ただ、依然として動いてはいるが、この1月はもうないと思う」

つまり、31日に閉まる今冬の移籍市場での新規獲得はないものの、今夏にはさらに選手を獲得すると宣言したのだ。この発言は株価の下落やクラブのマイナスイメージを払拭する狙いもありそうだが、恐らく事実だろう。

香川、開き直ってゴール量産できるか

香川については、状態がこのままで、さらに選手が移籍してくれば今シーズン限りで放出される可能性が高い。

今季のチームの残り試合はリーグ戦が16戦、欧州CLは決勝まで進んだとして7戦。合わせて最大で23試合だ。6月に開幕するワールドカップを控える香川としては、できるだけ試合に出たいと考えているだろうが、多くの試合に使われるとは思えない。だがケガ人も多くいるため、必ず何試合かは起用されるはずだ。

マンUでは真の実力を発揮していない香川。もし起用された試合でゴールを量産すれば、サッカー観の違いを超え、指揮官の評価を劇的に変える可能性はゼロではない。どうせこのまま退団を待つのなら、やってやろうじゃないかと開き直って、次々とゴールネットを揺らしてもらいたい。

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