名門ミランの現状深刻 本田、今のままでは生きず
本田圭佑が加入したACミランが歴史と伝統を誇るビッグクラブであるのは間違いないが、いまのチームは輝きを失っている。本田の加入後、リーグ戦、カップ戦を合わせると2勝2敗。本田自身も力を発揮しているとはとても言えない。
■前と後ろが分断、組織で戦えぬ
ミランの状態をひと言で表すと、前と後ろが完全に分かれてしまっている。言い方を変えると、組織で戦っていない。CBが引きすぎているからコンパクトにならず、中盤で相手にスペースを与えてしまう。
敗れたイタリア・カップのウディネーゼ戦(22日)は先発した3トップのバロテリ、カカ、ロビーニョが好き勝手にやっているだけで、決め事が何もない感じだった。最後の部分では壁パスを使うが、ほとんどカウンター頼みで、丁寧にパスをつないでいくことはない。先制したものの、その後、ウディネーゼが真ん中を厚くしてプレスを掛けてきたら、たちまちパスが引っ掛かるようになった。中盤の底にいるデヨングからのパスが斜め前方ではなく、横あるいは斜め後ろになってダイナミズムを失った。CBは大きく蹴ってしまうし、展開ができなくなった。
バロテリはゴール前にいたほうが相手が怖がるのに、外に流れて、しかもボールを受けに下がってしまう。そうするとロビーニョやビルサとポジションが重なって、さらに攻めが硬直した。
■縦への速い攻め志向すると…
サイドを起点にして、バロテリが空けた中央のスペースに後方から誰かが入っていき、そこにカカが寄っていくなど、もっと連動しないと相手守備を崩せない。それぞれが孤立して戦っている印象が強い。そのへんはアレグリ前監督時代からの課題で、セードルフ監督が就任しても改善されていない。
今のまま縦に速い攻めを志向するとなると、本田は生きない。本田の役割はなくなる。
ミランでデビューしたサッスオロ戦(12日)と初先発・初得点したイタリア・カップのスペツィア(2部)戦(15日)である程度、活躍できたのは相手が完全に格下だったのと、本田がどんな選手なのか知られていなかったから。その点を頭に置いて評価しなくてはならない。
■冷静な見方は「このままでは厳しい」
日本では「本田祭り」のような騒がれ方をしているが、実情は全く違う。「このままでは本田は厳しいぞ」というのが冷静な見方で、ベローナ戦(19日)、ウディネーゼ戦で地元紙の評価が低かったのは当然だろう。
私が監督だったら本田はトップ下に置かない。相手のマークがタイトな狭いゾーンに配しても、本田には1人で打開するスピードと突破力がない。相手に中央を厚く固められてしまうと苦しい。
周りが働きバチのような選手ばかりで、動いてパスをどんどん回してくれるチームなら、持ち味のダイレクトプレーでリズムを変えることができるが、ミランはそういうチームではない。
だから、たとえばボランチに下げてデヨング、モントリーボと並べたほうがいいような気がする。比較的自由にボールを持てるその位置でDFからボールを預かり、視野を確保してロングレンジのパスを送るというイメージだ。相手が崩れたところに出ていけば、フィニッシュにも絡める。
■事態打開へCBのすぐ前に配置は?
CBのフィード能力が低く、ボールの落ち着きどころもないという問題点を、本田をCBのすぐ前に置くことで解消できるのではないか。モントリーボと本田が低い位置にいれば、相手はそこに食いつこうと前に出てきてくれる。それによって、ミランはスペースをもらえる。
このまま本田がトップ下をやっても、攻めを急ぎたがるバロテリ、ロビーニョ、カカとはうまく合わない。それではチームの成績も上がらず、本田の評価も高まらない。
たぶん対戦相手はすでに「ミランの10番といっても、こんなもんか」と思っている。スピードと突破力がないことを頭にたたき込んで、守り方を徹底してくる。へたをすると本田はポジションを失ってしまう。本人もそのくらいの危機感を抱いているかもしれない。
厳しい言い方になるが、いまのミランは並みのチームだ。11位という順位が現在の力をそのまま表している。どん底にいるチームを一から再建しなければならない時期にきている。
■しっかりとした戦術家監督欠かせぬ
だというのに、全く監督経験のないセードルフ氏に指揮を任せたのは解せない。選手として黄金期を支えたレジェンドが帰ってきたら、選手たちの目の色が変わると思ったのかもしれないが、そんなことで好転するような状態ではない。問題はもっと深刻だ。しっかりとした戦術家を監督に呼ぶべきだった。
どうもセードルフ監督は幻想を見ているような気がしてならない。何といっても、これはミランなのだから、どんなに苦しい展開でも最後の最後に選手が何とかすると信じているのではないか。だから選手交代が遅いのではないか。
全盛期のカカとロビーニョを知っていることもマイナスに働いているのかもしれない。彼らなら1人で局面を打開してくれると信じているのだろうが、いまの2人にその力はない。カカはスピードアップして狭いところに割って入っていく力がなくなったので、壁パスをする選手を探してばかりいる。
■もはや特別なチームではない
もうミランは特別なチームではない。セードルフ監督はその点をきちんと認識し、現状を正確に把握することから始める必要がある。バロテリの役割についても整理し、周りのかかわり方を決めるべきだろう。それをしないと彼の力が生きない。
ミランがものすごい強豪ととらえるのは間違っている。主導権を握り続ける戦い方はできない。しっかり守りを固めて、相手を引き寄せ、カウンターを狙うしかない。そうした謙虚な戦い方を目指したほうがいい。
かつてのミランは超一流の選手がそろっていたうえで、彼らがきちんと約束事を遂行していた。だから、あれほど強かったのだ。いま、監督が選ぶべきなのは、好き勝手にプレーするのではなく、戦術を忠実にこなし、献身的に動いてくれる選手だろう。
(元J1仙台監督)